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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter3:東の砂漠の黄昏
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黄昏の終焉

 魔力も底をつき、陶酔する美女の小箱(メラースクティ)の残り時間もわずか。


 少しずつオレンジ色に染まっていく空が事の終わりが迫っていると告げるかのよう。


 高まるゲツヤとウェルギリウスの魔力。


 最後の攻防が今、始まろうとしていた。


 勝利条件はサリア、レミーナ、メーナ、ミツヒの安全の確保、テオドア帝国軍の戦線離脱。


 恐らくこの意はアリスが汲んでくれるであろう……だから後はこの男、ウェルギリウスを止めるだけ。


 不安など微塵もない、既に勝利条件を満たすための道筋は見えている。


 しかし、万一のことを考えると……多少は心配が残る、がそうさせないためにもここで確実にウェルギリウスを食い止めなければならない。


 不安要素、それは肉体的にも精神的にも限界で次はない……マーズ戦以降、魔素容量が低下した今では時魔法セーブ・ループを使えない、それくらいであろうか。


 そんな修羅場、前の世界では幾度となく繰り広げてきた……恐るるに足りない。


 持てる力全てを込めて勝利を掴む。


 呪剣カストールを握る手に自然と力が入った。


 どうやら、ウェルギリウスの魔力が高まり切ったらしい……ゲツヤの魔力も殆ど同タイミングで最大まで高められた。


「トドメだぁぁぁぁぁガゲミネ・ゲツヤァァァァァ!!」


 雄叫びを上げ急接近してくるウェルギリウス、その手にもたれた騎士剣は禍々しく黒く染まった竜巻を帯びている。


 恐らく風魔法ウインラを弄くり回したもの、その魔法剣を携え一直線に斬りかかって来る。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 ゲツヤも同様に雄叫びを上げ迎え撃つ。


 呪剣カストールに込める魔力は……炎と風。


 剣と剣、二つの力が激突してその威力を衝撃音が伝える。


 殆どタイムラグがないまま衝撃音が虚しい音へと変貌を遂げる……何か硬いものが砕け散る音に……を


 それはウェルギリウスの騎士剣が折れる音……そして呪剣カストールがその刀身を砕かれた音であった。


 何となく分かっていた、愛剣に寿命が迫っていることは。


 度重なる激戦、そして無理に無理を重ねた二重魔法剣、それらのガタが来ていたのだ。


 しかし、これは想定内……いや、むしろこれが勝利への布石。


 案の定、予め分かっていたゲツヤとは違い、騎士剣の折れたウェルギリウスは動揺を隠せないでいる。


(その隙を……)


ーー左眼を烈しい熱が襲う。


 折れた騎士剣の刃、それが主人を守るかのようにゲツヤの左眼を斬り裂いていった。


 今度はゲツヤに動揺が走る。


 痛みが走る。


 衝撃が走る。


 半分になった世界は赤黒い何かに侵食されてゆく。


 それが左眼を覆う血だという事に気づくのにどれほどかかったろうか。


 実際にはコンマ何秒の世界、しかしそれが命取りとなるのが戦闘という世界観だ。


「死ねぇぇぇぇぇ!!」


 案の定、ゲツヤが痛みと左眼の喪失に気を取られている間にウェルギリウスは我に返っていた。


 そして、欠けた騎士剣を縦一直線に振り下ろす。


 それが視界に入り、ゲツヤは反射的に右腕で頭を防ぐ……咄嗟に構えた右腕、そこに激痛の波が押し寄せる。


 宙を舞うは力なくただ重力に従う鮮血に塗れた右腕。


 飛んで血を撒き散らすその右腕は、ゲツヤの身体中を血で穢す。


 千切れた右腕の付け根からは断たれた骨が顔を出し、拍動に合わせて血が噴き出る。


 乾燥し切った砂ですら、次から次に落ちてくる血を吸いきることが瞬時にはできない。


 斬られた右腕が熱い。


 熱くて熱くて熱くて熱くて熱くて熱くて熱くて熱くて熱くて熱くて熱くて……なのに身体は冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく冷たく、その熱を奪われてゆく。


 迫る死、それがハッキリと認識できたのは初めてだった……なのにどうしてこうも恐怖のカケラも湧いてこないのだろうか?


 光が差さない左の眼、切り取られた右腕、貫かれた右の横腹。


 正直、生きてるのが不思議なくらいだ。


 半死半生、それでもゲツヤに残された左手は勝利を掴むべく腰に伸びる。


 まだ、残された右眼からは光が失われていない……それは諦めていない人間の目、それをいち早く察知するウェルギリウスだった。


 これまでに何度か戦争に参加したことのあるウェルギリウス、そんな彼の経験則だ。


 この光を灯した目はマズイ……と。


 どこの戦場にでも1人はいた、決して諦めることを選ばない何かしらの希望を隠し持った人間が。


 ゲツヤのこの眼光も例外ではなかった。


 直ちに始末しなくては、それだけがウェルギリウスの脳内を占拠する。


 傍目から見ればオーバーキルである、しかしここで確実に殺さねばこちらが殺られる。


 ウェルギリウスは最後の一撃を加えるべく、折れた騎士剣を振りかざす。


 振り下ろされる騎士剣、しかしゲツヤは防ぐことも避けることもしようとしない。


 ただその運命から眼を背けないようにと欠けた刃をじっと見つめる。


 左肩から刃が侵入、徐々に徐々に肉が裂かれて骨が断たれてゆく。


 おびただしい量の血が噴射して、ウェルギリウスを返り血に染める。


 切断された肉は未だにピクピクと痙攣を繰り返し、裂かれた骨は身体を支える役割から解放され体外へとその身を乗り出す。


 ……だがそんな肉や骨の必死の抵抗、それが刃が心臓まで達することを防いでいた。


 だが、ウェルギリウスから受けた傷は致命傷。


 ウェルギリウスもゲツヤを打ち倒した喜びに震え上がっている……だから……


(動けよ……俺の体ぁ!)


 陶酔する美女の小箱メラースクティを解除、途端にゲツヤを覆っていた闇のオーラは霧散し身体が巨岩の如く不動のものとなる。


 それを、火事場の馬鹿力とでも言うべきだろうか?絶大な力を持って無理やり動かす。


 一本一本筋繊維が断裂してゆく悲鳴が聞こえる。


 骨が軋み、時には折れて根を上げている。


 そんなゲツヤの些細な変化に油断し切ったウェルギリウスは気づきもしない。


 そこが狙い目と、ゲツヤは痛みになど目もくれず腰からナイフを引き抜く。


 そして残った魔力を、闇魔法ヘルーラで吸い取った魔力も含めて全てを左手に握ったナイフに込める。


 ウェルギリウスがそれに気づいた時にはもう遅い、ゲツヤの勝利へのプロセスは完成しているのだから。


ーー極技:[星竜一閃]…………。


 ゲツヤが勝利するための方法、一つ目はかつてルナヒスタリカ王国の首都であるコルトニアで購入したナイフを使うこと。


 二つ目は呪剣カストールで何としてでもウェルギリウスの騎士剣を砕き隙を作ること。


 そして三つ目が自らの命を捨てること。


 これらによりもたらされる結果は相打ち。


 初めから自分の生存を考慮から捨てた玉砕攻撃、それがゲツヤの導き出した最適解であった。


 その策は見事にハマり、こうして今ウェルギリウスの腹部に極技:[星竜一閃]が炸裂している。


 仲間の無事の確保、命を賭して得たその報酬にゲツヤは満足する。


 ほぼ無表情と周りから評されるゲツヤの表情、だがこの時だけは誰が見てもハッキリと「笑み」だと答えるだろう。


(あとは、任せた……ミツヒ……。)


 ゲツヤはただ一つの憂いを願うことで和らげ、そっと眼を閉じる。


 そして、ゲツヤとウェルギリウスは光の中へと消えていった。


 それはゲツヤの極技:[星竜一閃]が呼び起こした、半径500mにもわたる巨大なエネルギー球を生じさせた爆発であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー曜歴5516年地の15、突如現れた〈水〉及び〈月〉の悪魔信仰者ディモニスト軍によりテオドア帝国の首都ラルトが陥落。


 都を追われた元テオドア帝国は東へ退却。


 そこに新たにロマニケア亡命政府を立ち上げた。


 この戦いはラルト戦役と呼ばれ、後の長年に渡る反悪魔神戦争の開始を告げた戦いとされている。


 故ルナヒスタリカ王国の闇聖騎士シャドウナイトの消息が断たれたのもこの戦争だと言われている。


 また、この戦争が光の勇者の初陣とも語り継がれてゆくことになるのであった。

 




 


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