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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter3:東の砂漠の黄昏
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キュリメス=ヘルマ

 白光、穢れを知らない眩しい世界。


 それが徐々に元の景色へと回帰していく。


 世界を包み込んだ闇、それを強引に引き剥がした光、それの終焉とともに訪れた安息の大地……時間にしてはほんの一瞬のことだ。


 つい先ほどまで上がっていた弾むような歓喜の声も光とともに霧散する。


 砂漠……果てしなく続く死の大地、そこに佇み対峙する男が2人いる。


 1人は涼しい顔でもう1人は険しい表情を浮かべている。


 前者からそれぞれゲツヤとキュリメス。


 両者、こうして対峙するのはもうかれこれ四度目になる。


 これまでの結果はゲツヤの全敗……だが、これは試合ではなく殺し合い、最終的に相手を殺したものが勝者となる。


 黙り込む2人、その間を砂風が通り過ぎる。


「……さあ、最終決戦だ……。」


「〈月〉、3度もぶちのめされてまだやるか……ならよ、ここで殺してやるよ!」


 剣呑な雰囲気、いつ衝突を始めてもおかしくない2人がその中に閉じ込められている……。


 だが、どちらも仕掛けない。


 少し動いてフェイントをかけてはいるのだが、両者とも構えの域を抜けることはない。


ーーーーーー〈月〉……ただ突っ込むだけはやめたか……。


 ゲツヤの猪突猛進癖が改善されたようなこの状況、それに対しキュリメスはニヤリと突然笑みを浮かべる。


ーーーーーー動かない……ならばっ!


「はなから全力でいかせてもらうぞ、〈月〉ぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 武闘家のような構え、その突き出した両腕にキュリメスは魔力を込める。


 土魔法ガイーラ系統で鉄の棒を作り出し……その鉄の内部に火魔法フレーラ系統を閉じ込める。


焦熱の旋(セルモクラスィア)ロパロ


 それはつい先ほどゲツヤを敗北に至らしめた魔法……だが随分と久しぶりに見た気がした。


 その爆破トンファーを纏う魔法……武装魔法、そう分類しよう。


 それを再び使用してくるとは……。


 不安要素充分、むしろ不安しかない……だがーーーーー


「破り甲斐がある……。」


「ぬかせぇ!」


 初めから遠距離という選択肢を捨てている、そう言わんばかりに猛スピードで突進を決行するキュリメス。


 キュリメスの目には最早ゲツヤ以外の何も写っていない。


 速い。


ーーーーーーリスクを呑み込み、割り切ったキュリメスのスピードが此れほどまでに速いとは……。


 ゲツヤは想像の遥か上をいくキュリメスに少し焦りを覚える。


 きっとこれがキュリメスの本当の戦闘方法なのだろう、そう思わせるには充分なほどに先の戦いとは違って見えた。


 ゲツヤは魔法剣士に近いものだ、だがキュリメスは見た目のような魔法使いではない……魔法と武道を極めた「魔拳師」とでも名付けよう。


 そうこうしているうちに、キュリメスはすぐ手前にまで迫っている、ならば……とゲツヤも呪剣カストールを引き抜く。


 キュリメスの突進からのトンファーによるスピードをありったけ乗せた打撃、それを呪剣カストールで受け流し、上空へ身を投げる。


 くるりと空中で一回転しながら、左手で魔法を放つ。


 基本5属性の同時攻撃、一本の指につき一つの属性の級の魔法を撃つ。


 攻撃を躱され、体勢を崩していたキュリメスにそれらは全て綺麗に命中するも、やはりダメージは皆無のようだ。


「その程度の魔法が、効くと思うなよ!」


「いや……牽制だから……。」


 そんな間抜けなやり取りを交わしてる間にもキュリメスの猛攻は続く。


 縦横斜め、あらゆる方向から迫り来るトンファーと言う名の牙が獲物を刈り取ろうとその猛威を振るう。


 一撃入るだけで即終了のハードなミッション、縦横無尽に繰り出されるトンファーの攻め。


 それを右手に呪剣カストール、左手にその鞘をもって応戦する。


 荒れ狂う乱撃の一つ一つを見極めて、左右別々に対処し受け流す。


 隙を見せた途端に爆発、一瞬も気を抜けない……そんな状況がずっとだ。


 さらにそれだけではない。


 要所要所で飛んでくる蹴りもまた驚異の一つである。


 それらを一つ一つ攻略し、少しでも有利な状況へと変えていくべく手を動かし続ける。


 トンファーを弾き、開いた鞘で蹴りを防ぐ。


 そしてできた隙に、今度はゲツヤから蹴りを入れる……が、いとも容易く躱される。


 次の一手、キュリメスが一時後方へ下り、そして再び急速接近してくる……それにゲツヤも迎え撃つ。


 ゲツヤとキュリメスの距離がどんどん縮まっていき……トンファーが直撃………


 キュリメスのトンファーは、何物も捉えることはなかった。


 捉えたのはゲツヤの影法師のみ。


ーーー見えざる暗天の道(メラースオドス)


 ゲツヤは新たに入手したその技を解き放った。


 それまでこの様な技の情報はなかった……とすると、これが黒い小箱の中身……なのだろう。


 それの発動……それとともに一瞬だけ、ゲツヤの身体を構成する要素が全て非物質の影へと変貌を遂げた。


 そして、文字通り影となったゲツヤは、一度見えないほど散り散りに別れ、キュリメスの背後にて再び集合し、実体へと戻る。


 その一連の出来事が瞬きの間で起こるのだから、この能力は凄まじい。


 だが、その強力さに比例して消費する魔素の量もおびただしいものだ。


 ゲツヤでも使えて1日2回が限度。


 そのうち一回をここで使ったのだ、有効打にしなければ不利となる。


 そして一閃。


 ゲツヤが突如消え、困惑していたにもかかわらずキュリメスは再び現れたゲツヤを察知し振り返っていた。


 そこに一撃である。


 左肩から右腹にかけて斜めに斬られる。


 キュリメスのローブは裂け、その下の肉も斬られ、一部は骨までもが断たれている。


 裂かれたローブが内側から一気に赤く染められていく。


 染色液が多すぎて、ローブの吸収が間に合わず砂上に赤い液体が零れ落ちるほどに。


 突然の刀傷、そのあまりの痛みも相まって、キュリメスは無理解の海に沈……みはしなかった。


 一時飛びかけた意識を何とか繋ぎ止め、キュリメスは再びトンファーを構える。


 何が起こったのかはわからない、だがここで尻込みしていても活路は開けない。


 傷口に氷魔法ブリーラをかけ、止血し迸る痛みを唇を噛み締め耐えながら、再びキュリメスはゲツヤに攻めかかる。


 砂を蹴り、一直線に迫るキュリメス……だが、その速度は格段に落ちていた。


 その絶好のチャンスをゲツヤは逃さない。


 握りしめる呪剣カストールにありったけの魔力を込める。


 自身最大『ぴし』の攻撃を……。


ーーー嵐炎波レーヴァテイン


 絶大の威力を誇る魔法剣、それがキュリメスを襲う。


 豪炎と旋風のハーモニーは、包み込んだ者全てを死というフィナーレへと運んでいく。


 ……だが、キュリメスは例外中の例外であった。


 鎮まる炎、それとともに姿をあらわす重鎧姿のキュリメス。


「ふ……焔と(フロガ)旋風の加護(アネモスパノプリア)……。」


 直撃ギリギリで発動したキュリメスの魔法は、見事死の宣告からその命を守り抜いていた。


 その事実に驚きを隠せないゲツヤ、その一瞬の隙を突いて……


「ぱ……パゴスてつく竜巻(アネモストロヴィロス)


 全てを凍結させる冷気の嵐がゲツヤに襲いかかる。


 見に迫る危機に、ゲツヤはふと我に帰る……が、直撃は避けられない。


 その上、この消耗している身体なら死は免れないだろう……なら


ーーー見えざる暗天の道(メラースオドス)


 苦肉の策、ゲツヤは奥の手の残り一回をここで手放した。


 もうこれを再び使う魔力は残されていない。


 チャンスを作れるのはこれが最後……なら、ここで決める。


 キュリメスの背後に回ったゲツヤ、トドメを刺すべく呪剣カストールを振り上げて……ゲツヤが実体化した先には懇切丁寧にトンファーが添えられていた。


「せ……焦熱の旋(セルモクラスィア)ロパロ


 高熱を帯びた爆風が、凄まじい衝撃とともにゲツヤを包み込んだ。


 熱は肉を焼き、衝撃による物理的ダメージが皮膚、肉を貫きグチャグチャに中を掻き乱す。


 激痛。


 鈍痛。


 口には鉄の味が一面に広がっており、不快極まりない。


 そしてそのすぐ後に、不快感を後押しするかのごとくジャリジャリとした粒子状の物質が口の中に入り込んでくる。


 無味。


 しかし、何処かで味わったことのある粒子物だった。


 たしか……幼い頃に友人と遊んでいた時……砂場でこけて…………………そう、砂の味だ。


 それどころか、身体中にまとわりつくこの不快感……衣をつけられる天ぷらの気分とはこういうものなのだろうか……。


 この不快感もあの時に感じた……そこから考えるに、ゲツヤは砂上で倒れたかどうかしたようだ。


 口内、体表の不快感全てが砂が原因だ。


 では何故砂の上で倒れているのか……そう、キュリメスのトンファーが命中して………………


 ゲツヤは我に帰った。


 見上げると、こちらを見下してくるキュリメスの姿がある。


 だが、その表情には一切余裕がない。


ーーーま、負けてられるか……。


 小刻みに震える膝を抱え、ゆっくりとゲツヤは立ち上がる。


 互いに体力、魔素ともに尽きかけている……恐らく次の攻防が最後になるであろう、とゲツヤもキュリメスも把握していた。


 無言の時間が流れる……およそ1分ほど、それを破ったのはキュリメスであった。


 遠距離魔法を放つ体制をとり、魔力を手の先に込め出す。


「俺こそは、悪魔信仰ディモニズム〈水〉派の大司教にして真なる魔導師(アポリト・マゴス)の二つ名を冠す者、キュリメス=ヘルマである!」


 キュリメスの名乗り、それに対しどう応じれば良いかは脳内に刻み込まれている……だが、ゲツヤはそれに頼らない、頼らなくても即答した。


 反射的に……いや、魂の導くままに。


「……俺は、闇聖騎士シャドウナイトの影峰 月夜だ……。」


 そして……互いの魔力が最大まで高まったのを確認すると……………


死を呼ぶ魔の五重奏(ペンタ・マギア)

嵐炎波レーヴァテイン


 五色に輝く全てを消し去る裁きの光、それに対抗するは『ぴし』くろく禍々しい火焔を纏った刃。


 それらがぶつかり合って、混じり合って、溶け合って、そして…………光が優しく辺りを包み込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 静寂な砂漠……これが本来の姿だ、そこに自然ではありえない音が鳴る。


 それは人間の息切れの音、少し高い音。


「はあ……くっ、はあ……。」


 勝利の女神が微笑んだ相手……それはゲツヤであった。


 魔素を殆ど使い果たし疲弊しながらもゲツヤはその脚をゆっくりと動かし始める。


 ゲツヤの向かう先、そこにいたのは1人の男であった。


 砂漠の上で大の字を描き倒れているその男は、裸になった上半身に数多の傷が刻まれており、そのうちの一つは左肩から右腹まで深く刻み込まれている。


 その瀕死の男の唇が微かに動いた。


「か、かげ…………や……これ……。」


 言葉になっていない声を精一杯出しつつ、その男はゆっくりとぎこちなく、その右腕をあげる。


 その手をゲツヤは握り締めるべきだ、と反射的に思った。


 すると、微かながら魔素がゲツヤの身体に流れ込んでくる……微かといっても大技が一つ打てそうなほどにはある。


 魔素の受け渡し、それが完了したのを確認すると、その男は口角を上げて……そして腕が下りて、瞳に光がなくなり……キュリメス=ヘルマはその生涯を綴じた……。


 その死に顔は、ゲツヤから見てもやけに嬉々としているのが分かるほどであった。


「キュリメス……ヘルマ。」


 どことなく聞き覚えのある名であった。


 ずっと昔……遥か遠い過去に友人から聞いたことがある、そんな気がしていた。


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