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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter3:東の砂漠の黄昏
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才能の開花

 突然の闇夜の到来……。


 世の光という光を全て飲み込み浸食していく終焉の暗黒。


 広がる黒い影は一筋の光も逃さずその身に取り込んでゆき、少しずつその勢力を強めていく。


 辺りの光が集まっては消えて行く……いわば光の終着点とも言える闇の中心、そこに彼……漆黒の瞳を薄っすらと光らせて、同じく漆黒の男性にしては長い髪をたなびかせる少し背の低い少年、カゲミネ・ゲツヤが佇んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 才能の開花、それはいつも唐突に訪れる。


 キュリメスの知る限り、かの勇者や英雄、戦姫、武帝……常軌を逸脱したものを更に逸脱した真の強者として歴史に名を刻まれし者たちは誰しもがそうだ。


 彼らにも伝え聞く限りでは逆境というものは存在した。


 絶体絶命の危機……だが彼らはその危機を見事に回避している。


 それこそ才能の開花……それによって……。


 無論、彼らの伝承が全て史実ではないであろう……しかしだ、それはキュリメスが警戒を怠る理由とはなり得ない。


 むしろ、彼らの伝承が史実に基づいていることの方が多い……であるからこそキュリメスは警戒をするのだ。


 ゲツヤを次代の英雄として……。


 だが、警戒をすると言ってもキュリメスが動揺していないと言ったら嘘である。


 才能の開花……そうだとしてもゲツヤの身に起きていることは不可解極まりないものだ。


 触れるもの全てを呑み込む漆黒の闇。


 未完の禁呪……闇魔法ヘルーラ、かつて数多の魔術師たちが研究に研究を重ね、試行錯誤を繰り返し、様々な工夫を行い……それでもなお制御するに至らず、範囲内のすべての生命を剥奪する狂気の殺戮魔法。


 故にその使用を全世界共通で禁止され続けてきた忌むべき魔法、それを目の前にいるたった1人の少年が操ろうとしているのだ。


 真なら魔導師(アポリト・マゴス)と呼ばれたキュリメスだ。


 そんなキュリメスがこれ以上に魔法関連で度肝を抜かされたことがあっただろうか……。


 警戒を続けつつも、驚愕のあまりどこか弱気な小さい声がキュリメスの唇から零れ落ちる。


「〈月〉……どうやって闇魔法ヘルーラの制御を……。」


 溢れた囁き……弱音など敵に聴かせるわけにはいかない、漏れたと言っても最小限には抑えてあった……が、光と同様にこの小さな空気の振動も闇に吸われてゲツヤの耳元まで届いたのであった。


「……適性ってやつかな……?」


 いやにハッキリと聴こえる声。


 キュリメスの囁きとは対照的な自信に満ちた声、それを発しながらゲツヤは己の身体を見渡す。


 特にこれといった変化はない……がゲツヤの足元、そこに黒い大海が広がっているのが目視出来た。


 どこまでも……どこまでも……果てしなく広がっていく漆黒の波。


 その闇の中で唯一の存在……ゲツヤのすぐ足の下に敷かれた黄金の魔法陣。


 直径10メートルはあろうそれがこの暗黒の発生源である……ということは火を見るよりも明らかだ。


 ただ、ゲツヤは身体を見渡して一つ不自然なことに気がついた。


 つい先ほどまでボロ雑巾のように草臥くたびれていた身体……それがすっかり元の健康体へと回復を遂げているのがゲツヤには理解ができない。


 いくら平静を装おうとしても苦痛に顔が歪みそうなあの傷が、だ。


 ゲツヤの疑問に満ちた表情、それを納得がいったと言わんばかりのしたり顔を浮かべるキュリメス。


「あぁ……遂に七曜に覚醒したってわけか。それならこの急成長と超回復に納得できる。」


「だから……七曜って何なんだよ……。意味のわからないことばかり言って……。」


「そういうの……相手をぶちのめしてまでして聞き出すのが戦士、いや男ってもんだろぉが!」


 声を荒げ一喝、それにより苛立ちに満ちていたゲツヤの表情が一変、どこか楽しげに、少しだけ口角が上がった。


凍てつく(パゴスアネモ)竜巻ストロヴィロス!」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 キュリメスの混合魔法、猛烈なブリザードがゲツヤを襲う。


 だが、全てを凍結させ斬り刻む吹雪でさえもゲツヤの掌に現れた闇の渦の中へと消え去っていく。


「ならばっ!」


 キュリメスの声、それにゲツヤが気付いた時には既にキュリメスの姿は目の前にない。


 吹雪の全てを無力化したが、その魔法が放たれている間にキュリメスは移動をしていた。


 一瞬、戸惑いを覚えた……が、すぐに声の聞こえた方へと視線を向ける。


 そこには、大地を蹴り宙へとその身を預けたキュリメスが何かを握っているのが見えた。


 先端がほのかに赤く輝いている黒鉄のナイフ、それが指と指の間に挟むような形で両手にそれぞれ3本ずつ握られている。


「させるかぁ!!」


 ゲツヤの叫び、それとともにゲツヤの右の掌から黒く悍ましい闇の渦という名の盾が顕現する。


 小型のナイフ……投擲用以外に他ならない。


 勿論、ただのナイフではないであろう……それ故に細心の注意を払って対応をする。


「ふっ!」


 指から離された6本のナイフ、その速度は今までにゲツヤが体験したことがないほどの速さを誇っている。


 人知の域を超越した投擲、無論その速度はゲツヤの反応速度を遥かに凌駕している……いや、していた。


 反応できずに貫かれていたのは過去のゲツヤであり、今のゲツヤではない。


 今のゲツヤは、つい先ほどまでの満身創痍の状態にあったカゲミネ・ゲツヤとはもはや別人と言ってもいい。


 それほどまでに身体能力が向上しているのを他ならぬゲツヤ本人が実感していた。


 軽い……今までは鎖か何かで地面に縛り付けられていた、そう思えるくらいにはゲツヤは今の自分の俊敏さに驚いていた。


 故に、神速とも言えるキュリメスのナイフの動きに対し行動を移すことができ、闇の渦という全てを呑み込む盾でナイフの直撃を避けられるのだ。


 ………結果としてはナイフは直撃しなかった、いやもともと直撃はしないものであった。


ーーーーーーパチン


 ナイフが闇に呑まれるか呑まれないか……という刹那、心地よい乾いた音が一つ鳴り響いた。


 そこからは両者にとって永く感じ取れた。


 時間にしては本当に一瞬のこと……しかしその音は、時間という川の流れがダムにせき止められ、ゆったりとしているかのように……ゆっくり、鮮明にゲツヤの鼓膜を震わせた。


 死の宣告……耳元で死神がそれを告げたかのように……。


 そしてダムが決壊し、先ほどまでのゆったりとした時間が嘘のように急速に時が流れ始める。


 その瞬間、闇に呑まれんとするナイフが……闇に抗うかのように光となって弾けた……。























「俺の勝ちってことだな……〈月〉。」









 白光に包まれた空間、一点の淀みも許さない光の世界。


 闇を祓うことで生じたほんの一瞬だけのこの白い世界。


 そこに、キュリメスの放った普段よりも若干弾んだように聞こえる声が響いた。


 

 




 

 

 


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