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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter3:東の砂漠の黄昏
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安らかな眠りのあらんことby山羊

 砂漠南部から夜が到来するより少し前、テオドア帝国首都ラルト東門、そこで事態は起こった。


 東西南北四つの門、それら全ての戦況が膠着状態を開戦後1時間は維持していた。


 だが、東門に突如出現した一つの転移魔法陣……それが戦況を大きく揺るがしたのであった……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「負傷者は救護テントへ!我ら4班は敵の追撃を食い止める。」


 帝国軍第4班の班長、彼の指揮とともに各兵が次の動作へと移行していった。


 傷つき倒れた仲間を運ぶ者たち、そんな彼らを守る者たち、そして……腰に下げた曲刀《シミター》を引き抜き眉を吊り上げ雄叫びを上げ、死地へ飛び込まんとする者たち……。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 曲刀《シミター》を振りかざす兵達は、その表情に恐怖の念を浮かべている……それでもその脚を止める者は誰一人としていない。


 彼らの逃走、それは即ち先程後退した友軍の死を意味する……そんなことできない、できるわけがない……帝国兵の第一心情は『護るための闘い』だ。


 皆その理念に賛同して集まった者達、故に決してこのような絶望的な状況であろうとも『逃亡』という選択肢はないのだ。


 ここにいる帝国兵の誰もが己の信念を突き通し、寄る恐怖の波を押しのけていた。


 そして……そんな彼らの前に奴が立ち塞がったのであった……。


「悪魔め……俺らがお前をぶっ殺してやる!」

「仲間達の仇ぃぃぃぃ!」

「……………死ね!」


 その他多くの言葉と感情が入り混じる中、帝国兵は斬りかかった……が、その全ての剣撃が何かを捉えることは無かった。


「ムフフ……ムフフフフ!」


 奇妙な笑い声が、空振って体勢を崩した帝国兵を包み込む。


 背丈は180センチほど、純白の肌を持ちそれと対比するかのような漆黒の翼。


 その身に纏うは西のカルデア王国の兵服に似た赤い服……現世における軍服のようなものである。


 かき上げた紫の髪は持ち主の不気味さを際立たせているよう……だが極め付けは、顔を覆い隠す仮面である。


 真っ黒に染まった山羊の仮面……言うなれば中級悪魔《バフォメット》の頭部をそのまま用いたかのような仮面、その左眼の部分は意図してか、円形に切り取られている。


 反対の眼は小さな穴が開けられており、そこから外を見ているようだ。


 そんな珍奇な格好をした悪魔が、今しがた剣を空振りした兵達を見下す。


「ムフフ、哀れな愚者よ……汝らに安らかな眠りのあらんことを……」

「待っ……」


 4班の班長が叫ぶ……しかし遅かった。


 悪魔の右手が右から左へと素早く振られる……それと同時に、空振って体勢を崩した帝国兵全員の首が飛んだ……。


 首から上が無くなった身体は、糸を切られた操り人形のように無残に崩れ落ちる。


 その切り口からは絶えることなく真紅の鮮血が噴き出しており、それが死んだ彼らの衣服を染め上げていく。


 大地は血に汚れ、赤い水溜りが広がっていく。


「あ……あああ!」


 彼らの死、それを目の当たりにした4班の班長は愕然とする。


 彼は悪魔が殺気を放ったことに気づいた、にも関わらず、仲間を救えなかった……今彼の胸の内を占めているのは溢れんばかりの自責の念であった。


 瞳から次から次へと溢れ出る涙は仲間の死を悲しんでのものか、情けない自分へのものか、彼には分からなかった。


「班長!」


 部下の一声、それが彼を立ち直らせる。





ーーーーーー自分にはまだ仲間がいる……決して失うわけにはいかない仲間が!だから……自分を責めてる場合じゃない!





 折れた膝に力を込め、彼は立ち上がる。


 殺気を込めた視線、それを悪魔へと向け、そして曲刀《シミター》を構える。


「お前ら、奴は化け物だ!死ぬかもしれない、でも敢えて言うよ……死ぬな!!生きて勝利の美酒に酔おうじゃねぇか!」


 彼の言葉に続くかのように兵達の「おぉ」という掛け声が響き渡る……それを眺める悪魔はその口角を上げている。


「ムフフフ……何が『死ぬな!!』だ、まさか我を笑い死にさせようという魂胆か!?汝らは永遠《とわ》の眠りを与えられるのだ、我が手によってな!生きようなどと……愚か極まりない!」


 言葉の終わり、それと同時に悪魔の両手に魔力が宿る。


 彼らは感じた……その魔力が、昨日の爆発する岩やそれの直撃を見事阻止したサリアたちの魔力に匹敵していることを……。


 それとともに湧き上がるのは絶対強者への恐怖……何がどうなっても勝てる相手ではない、誰もがそう悟った。


 しかし、それは逃げる理由にはならない。


 恐怖を感じて、逃げるどころか寧ろ気合がより一層入っているようであった。


「さあ、汝らに安らかな眠りのあらんことを!」


「くっ……来るぞ!」


「灼熱《ボルケーノ》!」





ーーーーーーやはり感じた魔力の質通り、火魔法《フレーラ》の類か!





「全員、曲刀《シミター》で防げ!」


 班長の号令、そのすぐ後に彼らは炎の渦に呑まれた。


 だが、その炎の渦はすぐに搔き消える……曲刀《シミター》に埋め込まれた上級水魔法《ウルアクーラ》によって。


 服も、付与された防御魔法《プロテクション》により端が少々焦げる程度にすんでいた。


「反撃!」

「はっ!」


 班長の声、それとともに全兵が悪魔へと突撃する。





ーーーーーーあれ程の魔法を放ったのだ、悪魔はその反動で動くことはできまい……故に好機!





「ぐがぁ」


 班長の作戦、それはこの喘ぎによって脆くも崩れ去った。


「べふぅ」


 また力の抜けた声が上がる。


 そして、全兵が立ち止まる……そう、先程可笑しな声を上げた二人の首から上がないのだから……。


「お……お前らぁぁぁぁぁぁ!」


 班長の叫びが虚しく響く……しかし、いくら響けど死んだ彼らに届くことはない。


 駆け抜けながら切断された頭部は慣性の法則に従い、身体から数メートル離れたところに転がっていた。


 その最後の表情は、死に気付いておらず勇ましいものとなっている。


 倒れた身体からはまだ熱い血液がドクドクと外へ流れ出ており、それが砂へと染み込んでいく。


 そんな二人の身体より少し後ろ、そこの空中から血が滴っていた。


「糸……か……?」


 呆然とする班長が小さく言い漏らすと、静寂となった辺り一帯に、拍手が響き渡った。


「ムフフフ、愚者にしては察しが良いな……だが気づいたところで我の力の前にはなす術がないだろうがな!」


 そこからは早かった。


 悪魔の周囲に張り巡らされた鋼鉄の糸、それが外敵の侵入を阻む。


 曲刀《シミター》を持ってしても断ち切ることのできない糸は突撃する者を切り刻む。


 攻めることを禁じられた帝国兵は防戦一方、じわりじわりと悪魔に甚振られ続けるのであった。


 そして、一人また一人と力尽き脱落していくものが出てくる。


 最初は被害は少なかった……だが、時間が経つにつれ脱落者は増大していった。


 時間にして悪魔の発言から15分、生き残ったのは班長一人となっていた……。


「……まだだ……俺は……し、死ねない!」


「汝のしぶとさだけは褒めてつかわそう。汝に敬意を払い、我が安らぎを与えてやる。」


 悪魔の右手に込められた魔力……それが今までで最大であることに気づき、それとともに彼は死を悟る。


ーーーーーーアリス様……申し訳ありません!俺……自分は帝国兵として責務を果たせませんでした!!


「灼熱《ボルケーノ》」


 視界が赤く染まっていく……果たしてそれが炎なのか己の血なのか、彼にはもう判断がつかなかった。


 全身の感覚はなくなり、痛みも熱さも感じない……そのことに少しだけ感謝する心があった。


 死への恐怖は全くない、唯一あるのはこれで死んだ仲間の元へと逝ける……ということだけであった。


「氷炎魔法《エル・ブレーラ》」


 炎に包まれた班長、そんな彼が炎の檻から解放された。


 閉じた瞳を彼が開けると、そこには美しい光景が広がっていた。


 フワフワと宙を舞う炎と氷の花弁、ここが天国かと思わせるその光景、それを見届け彼はその瞼を下ろした。


「大丈夫、生きてますよ!」


「よかったぁ、ボクたちがあとちょっと遅かったら危なかったね!」


「さあ、仇をとってやろうしゃないの!」


 遊撃隊:サリア=メナス レミーナ メーナ=テーラー、敵軍の悪魔と交戦開始

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