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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter3:東の砂漠の黄昏
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ゲツヤの不利

 テオドア帝国の首都であるラルト、その中心から力と力のぶつかり合いによる激しい衝撃波が巻き起こっている。


「はぁぁぁ!」


 四方八方、縦横無尽に駆り出されるゲツヤの剣撃。


 その一振り一振りによって生じた斬撃の嵐が雲を裂き、地を砕き、その嵐の後には何も残らない……目の前にいるたった1人の男を除いて……。


 ゲツヤが繰り出す重く速い攻撃は、この男……キュリメスにはかすりすらしない。


 ヒラリヒラリと軽やかに回避を続けるキュリメスは何処と無く涼しげな表情を浮かべている。


「なめるな……」


 その態度に怒りなのか焦りなのか……それとも両方なのか……言い表せない感情がゲツヤの胸の中に湧き上がる。


ーーーーーー炎剣流奥義・朱雀演舞


 激しく燃え盛る火炎、その紅蓮の渦が呪剣カストールの刀身を包み込む。


 背から噴き出す灼熱の炎が織りなすその光景は、さながら炎の翼……朱雀を思わせる。


 火炎の翼は静かに動き始め、それと同時にゲツヤの体が宙に浮く。


 瞼を閉じたゲツヤは、朱雀の如き神々しさを身に纏って天を昇る。


 そして、キュリメスから見てゲツヤの姿が太陽に重なったそのとき……ゲツヤは閉じた瞼を一気に開いた。


 そして、その瞬間にゲツヤの空いた左手には炎熱のショートソードが握られている。


「くたばれ……」


 上空から急下降しキュリメスに襲いかかるゲツヤ、そのスピードは今までの比ではない。


 紅蓮の双剣による乱撃、それが炎剣流奥義[朱雀演舞]である。


 縦横無尽に繰り出される炎の剣撃の嵐は、キュリメスを包み込む。


 ゲツヤが呪剣カストールを振るうたびに、鋭い熱風が辺りを駆ける。


 背の翼がゲツヤの速度を上げる。


 その動きは普通の人間には不可視……しかし、あくまで普通の人間ならば……


「はぁ……この程度かよ……」


 魔力を込めるキュリメス、その瞬間にゲツヤの魔力が掻き消された。


 激しく燃え盛る業火は一筋の風により揺らめき、その熱と光を空の彼方へ奪っていく。


「なっ……!?」


「なんだ……マーズを殺して七曜を奪ったんじゃないのか?」


「七曜……!?」


 突如現れた知らない単語にゲツヤは戸惑いつつ、その雰囲気から何か重要な言葉だと察していた。


「知らないのならいい……。」


ーーーーーー普通なら七曜が無い者が七曜を持つ者を倒せば譲渡される……そうでないのならば奴には既に……


 キュリメスの呟き、それを遮るが如くゲツヤの剣撃が迫る。


 だが、それもまたキュリメスは紙一重で避ける。


「ならばっ……!」


 炎の翼を広げてゲツヤは飛翔する。


 そして再び急降下、先ほどと全く同じ展開である……それにキュリメスはため息をつく。


「学習すらできないのか!」


 期待はずれもいいところなゲツヤに落胆し、トドメを刺すべく左腕に魔力を込める。


 キュリメスに向かって急接近してくるゲツヤ、彼の変化にキュリメスは気づかなかった。


 魔力がキュリメスの左の手に圧縮され、あとは詠唱するだけ。


 近づくゲツヤを討取らんと口を開いたときであった……。


ーーーーーー笑ってる……!?


 その瞬間、キュリメスは身の危険を感じ咄嗟に詠唱をやめ回避に行動を転じた。


 だが、時すでに遅し……。


 キュリメスのバックステップ、それと同時にゲツヤの背に生えた炎の翼が跡形もなく消え、左手に握られた炎の短剣はキュリメスに向けて投合されている。


「くっ……」


 投げられた炎の刃はキュリメスの頬をかすめる。


 ジリジリと肉が焦げる感覚に顔を歪めるキュリメス、そんな彼を倒すべくゲツヤは次なる一手に移る。


 呪剣カストールに込める魔力は燃え盛る火炎と荒ぶる竜巻。


 ゲツヤは全ての意識を魔法剣の生成に集中させる。


 その異常なまでの魔力の圧縮率にキュリメスは焦りを覚え、阻止せんとゲツヤに向けて魔法を放つ体制に入った。


 キュリメスの両腕に込められた魔力は、これまた常識を逸脱した圧縮率を誇っている。


 超魔力と超魔力のぶつかり合い、それは既に始まっている……それを表すかのように二人の上空を中心に暗雲が渦を巻いている。


 先に動いたのはゲツヤであった。


 これまでで最強であることは間違いなしの敵に出し惜しみは無用。


 ゲツヤは自身最大の技に全てを賭ける。


 限界を超越した神撃メシア級魔法を2種混合させたゲツヤ究極の魔法剣。


 そのあまりの強大さに、操るゲツヤの腕がブルブルと震え悲鳴をあげている。


『ぴしっ』


嵐炎波レーヴァテイン


 両の手でしっかりと握られた呪剣カストールが急降下する先のキュリメスにむけ一閃に振り下ろされる。


 全てを焼き尽くす獄炎と全てを崩壊させる竜巻がつがいとなってキュリメスに迫る。


 大気を焼き焦がし、空気を巻き取る斬撃は通った後に何も残すことはないだろう。


 そして、その斬撃が今にもキュリメスを呑み込もうとした瞬間、真なる魔導師(アポリト・マゴス)は閉じた両眼を力強く見開いた。


 そして、迫る厄災を退けるべく差し伸ばした両腕から魔力を解放する。


死を呼ぶ魔の五重奏(ペンタ・マギア)

 

 虹色の光が辺りを包み込む……前方の厄災を含め。


 そして、各々が色の主張を認め合い、1つの色へと投合される。


 厄災を飲み込んだ虹の光は、全てを輝きの中へと消し去るエメラルドグリーンの閃光となり、空中のゲツヤへと迫るのである。


 神秘的な輝きを目の当たりにしたゲツヤは、ふと言葉を漏らす。


「極技・星竜一閃に似てる……」


 調和された五属性全ての魔法。


 それが死を呼ぶ魔の五重奏(ペンタ・マギア)


 ゲツヤの極技・星竜一閃と事象そのものに大差はない。


 決定的な違いは込められた魔力の差である。


 そもそも、五属性の完全な調和など不可能である。


 五属万能魔法(ニュークラ)は調和しきれなかった魔力の暴発にすぎない。


 だが、それをゲツヤは剣を媒体とすることで幾分か制御を可能としている。


 しかし、キュリメスは違う……ギリギリのラインで調和を保つのではなく、余裕を持って調和を可能としている。


 ゲツヤはその事実に気づいたこの時に、この世界に来て初めて壁にぶち当たった。


 絶対に超えることのできないであろう高い高い壁に。


 身を包む明緑色の光、それを少しでも軽減すべくゲツヤは魔力を込める。


反射魔法リフレクション


 ゲツヤの身体を半透明のバリアが覆う。


 そして、ゲツヤは激しい翡翠色の爆発の中へと消えていったのであった。

 

 

 

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