復活と死滅
四方八方から迫り来る猛攻、それを間一髪で躱し続けるレミーナ。
負けるわけにはいかない……そう思えたのはほんの僅か数分だった。
体力も魔力もすり減った状態、そんな満身創痍に近い身体で回避を続ける内に彼女の心境は徐々に変化していった。
そう……救いを求めるものへと……。
レミーナ・アティス・ザクスの3人が最後の骸龍を仕留めるべく動き出してから僅か5分、彼女たちの疲弊は限界に達していた。
救援なく、ひたすら気を張り続け猛攻を凌ぐ。
刹那の中、延々と続くかのようなその命がけの作業……だが、それも遂に終焉を迎えようとしていたのだ。
「ギャァァァ!」
「くっ……。」
疲労による判断の遅延、それが仇となり骸龍の大地をえぐるかのような巨爪による一撃がレミーナを襲おうとしている。
アティス・ザクスは己の無力さを呪いつつアティスは目を背け、ザクスは叫びをあげる。
(だれか……助けて、ゲツヤ君……!)
そして辺りは……世界は冷たい炎に包まれた。
キラキラと美しい青と赤がヒラリヒラリと天を舞う。
神々しいその光景、その美しさとは裏腹にその赤青に光る花びらは触れた先、竜の爪をボロボロと崩すのであった。
その一連の出来事、時間にして僅か5秒。
だが、その場にいた者たちは目を奪われ、唖然とし、その時間を永遠のように感じていた。
「グガァァァァァァァ!」
左腕の爪が粉々に砕け散り、骸龍が叫びをあげる。街中を包む叫びにレミーナたちは我に帰る。
「これは一体……。」
目の前で起こった不可思議な事象に未だ呆気にとられているザクス、彼に向けレミーナは目を輝かせる。
「これは……この魔法は……!」
レミーナは後ろを振り向く。
その視線の先に映るのは崩れた家の屋根の上に立つ1人の少女であった。
「今さっき目覚めて急いで来たんだけど……遅れてごめんね。」
レミーナに微笑みながら謝る金髪の少女は右手に持った杖を構える。
「話をいっ〜ぱいしたいけど、まずはこいつを片付けないとね!」
「はい!サリアお嬢様!」
サリアの復活、それがレミーナの気力を全快させる。
その光景がアティスとザクスの士気も上げたのであった。
「では、私が魔法で援護をするから猫耳ちゃんとおじさんは骨の奴に突撃して!そしてあいつの足に攻撃を!」
「了解ニャ!」
「おじさんって……俺はまだ34だ!」
「「おじさんだよ!」」
ザクスの反論にサリアとアティスがシンクロして言い返す。それを見てレミーナは微笑んだ。
「あと、レミーナはちょっと待機!」
「えっ!……分かりました……。」
予想外の指示に不満を隠せないレミーナ。
そんなことは気にせず、アティスとザクスは骸龍目掛けて走り出す。
そんな彼らを屠るべく、巨大な右腕が迫り来る。
ー静かなる冷気 凍れる吹雪よ 今こそ我に 汝の真髄を示せ ー
サリアの左手に冷気が宿る。
ー涌き出でたる焦熱 消失させたる炎熱よ 我が魂へと集えー
さらに右手の杖に熱気が宿る。
「じ……嬢ちゃん、援護を!」
必死に攻撃を防ぐザクスが叫んだそのとき、サリアは右手と左手を合わせ握る。
その両手に握られた杖を中心に青と赤の光が溢れ出る。
「氷炎魔法!」
冷たさと暖かさが骸龍の右腕を包み込む。
火と氷、相反するその2つの力が何かしらの外的影響を受け1つになったら一体どうなるのであろうか……その結果がここには示されていた。
「う……うぉぉぉ!」
光とともに訪れた衝撃にザクスは声をあげ、アティスは呆然と佇む。
「な……何してんの!?はやく、骨の奴に……攻撃を……。」
「わ……分かった!」
全ての魔力を解き放ち、その場に崩れ落ちたサリア、それを見てザクスとアティスはこの機を逃すまいと剣と鉄の爪を何度も何度も振るう。
その一撃一撃は効いていないかのように思える……だが、確実にダメージは蓄積される。
大きな隙、そんな状況ならばダメージを与えることは容易いことであった。
骸龍が態勢を立て直す頃には何度も攻撃を受けた骨がボロボロになっていた。
「ギャァァァ!」
「おいおい……片腕無くしてまだやる気かよ……。」
依然として攻撃態勢を崩さない骸龍、アティスとザクスはすぐさま撤退する。
その光景を歯がゆい思いで見守るレミーナ、そんな彼女にか細い声が届いた。
「今よ……すぐにチャンスが来る。ぜっったいに攻撃は……こない……。だから、あいつの首に思いっきり叩き……こんできて!」
「分かりました!」
サリアの命令……というよりはお願いのように感じたレミーナはいつも以上に指示の完遂を求め、そして走る。
銀嶺突剣を鞘から抜き、魔力を込める。
「グガァァァァァァァ!」
骸龍が叫び、レミーナを喰らおうと脚に力を入れた……その途端、アティスとザクスにボロボロにされていた足の骨が重さに耐えきれなくなり崩れる。
「今だ!」
倒れる骸龍、その首にレミーナは自身最高の一撃を叩き込む。
無い魔力は絞り出せばいい……メーナからそう学んだ。
全身から吸い上げた魔力で水を生み出し、それを銀嶺突剣で凍結させる。
「幻の如き薄氷の剣撃」
新たに得た魔力、それを駆使しその上に今まで見せられてきた技術を重ねた技。
薄く、殆どその存在を確認できない氷の刃、鋭利なその薄氷が強固な骸龍の骨を断ち切った。
斬られたことに気付かないほどその一撃は繊細であり、骨を通過した後すぐに氷は砕け散った。
そしてそのすぐ後にはレミーナが地に伏した。
「大丈夫!?レミーニャ姉ちゃん……って何笑ってるの?」
心配で駆けつけたアティスの不安を払拭させるレミーナの微笑み、それはただひたすらに美しく彼女の喜びを表している。
自身最高の一撃、それの構成する全てがゲツヤから得たもの。
その事実がレミーナに甘い幸福を与えてくれる。
まるでゲツヤに直接、優しく教えてもらったかのような感じが彼女を包み込む。
「レミーナがこんな笑うなんて……よかった!多分これもきっと彼のおかげなのね。」
そう言ってサリアは空を見上げた。
決っして笑顔を見せようとしなかったレミーナ、そんな彼女が心を開いている。
それのキッカケとなった彼。
すぐ近くにいるであろうゲツヤへの想いを込めて。
「ありがとう」と感謝の想いを込めて……。
サリアは一筋の涙を垂らし天に向かって微笑んだのであった。
------------------------------------------------------------
「クソがぁ!」
サザンカ門を目指し1人歩みを進める。次から次に襲いかかる死の騎士を薙ぎ払い、彼クテシフォン=シルヴィスは街中の戦闘の行く末を案じる。
「待っとけよ……。俺が今すぐ行くから!」
冬将軍の使用で体が思うように動かない……それでも、クテシフォンは決して足を止めようとしない。全ての人を救う、それが彼の信念なのだから……。
「ゼェ……ゼェ……きりがねぇ……。」
門まで距離にして僅か150m、だがそれが恐ろしいほど遠く感じられる。果たして自分の部下たちは無事なのか、街の人々は無事なのか……心配が焦りを呼び、クテシフォンの体を突き動かす。
「だれも……だれにも……失わせたりしねぇぞ!」
僅か13歳の少年にして四天王まで登り詰めた聖騎士の悲痛な叫びが戦場を木霊した。あの日の絶望……あんなことを二度と味わいたくない、味わせたくない。
疲れた体に鞭を打ち、クテシフォンは再び敵の中へと消えていった。




