決戦の幕開け
骸龍4匹、生前の記憶はなく骨となってからの記憶しかない。
そんな彼らは500年前、悪魔信仰の大司教マーズ=アレスティアの死者使役により再び生を受けてから4兄弟として仲睦まじくマーズの下で働いてきた。
自身らが身を置いた悪魔信仰という宗教こそ肩身は狭いものの、彼らは現在に至るまで長い年月可愛がられてきた。
そんな彼らの厄災としての最初の活動、それは今から400年ほど前のことだ。
闇を司る悪魔、それに対抗すべく北の国で開発された光魔法という秘術。
その存在を消すべく彼らは出動した。
「悪魔信仰の存在は秘匿義務がある。お前たちが最適なのよぉ!」
何故、表立って組織が動かないのかは彼らには分からない。
だが、主人からの命令だ……それが何よりも誇らしい。
4匹の兄弟龍は北の国の上空、そこから炎を放つ。
あっという間にその国は滅びた。
確かに光魔法は驚異的な攻撃であったが、彼らの骨格の持つ耐魔性の前ではさしたる意味を成していなかった。
彼らの不安はただ一つ、主人であるマーズがあの恐ろしい教皇に罰を受けるか否かということだけ。
動物的反応の強い彼らはあの教皇という人間が異次元の強さを誇るのをそれとなく察知していた。
ただ漆黒の髪が珍しく、死んだような光を映さない瞳を持つということだけが特徴のあの男。
だがその男が任務遂行に失敗したマーズを叱責する姿は幾度となく見てきた。
もし仮にだ、あの時あの国を滅ぼせてなかったら、300年前の悪魔大戦は惨敗していただろう。
そのことを考えるとあのときの彼らの活躍は悪魔信仰者にとって多大な影響を及ぼしたといえるし、何よりそのおかげでマーズが今の地位にあると言っても過言ではなかった。
こうして、新興国を滅ぼした4匹の骸龍、彼らの存在は災厄の象徴として伝説となった……。
だがその伝説の厄災が今はどうだ!?
兄たちが皆死んだ。
500年間ずっと片時も離れることなく一緒だった兄たちが。
ポチ、クロ、シロ……みんなみんな死んでしまった。
唯一残された末妹、アルクレシアス=セルメニアは哀しみに暮れ、困惑していた。
1匹は圧倒的な力の前に細氷となり砕け散った。
1匹は弱者を侮り、隙を突かれて、過去の遺物のような魔法の元に光となって消えた。
1匹は戦うべきなのか迷っているうちに氷の像となってしまった。
クロ以外は絶対に勝てたであろう敵。
唯一残されたアルクレシアス=セルメニアは兄の仇を討つべく哀しみを胸の内にしまい、憎悪で心を埋めた。
たかだか人間だと侮れば兄たちと同じ過ちを繰り返すことであろう……それ故に全力を初めから出す。
あのマーズのような大司教や枢機卿、教皇といった一部の化物を除いて人間など種としての力が龍種に遥かに劣るのだから。
手を抜くことなく、一人一人を確実に捻り潰し、そして炎に消してやろう。
兄の仇への復讐心。
骸龍としての自尊心。
それらを胸に油断をなくした伝説は街を業火で包み込む。
彼女の通った後には血の海と焼け焦げた建物しか残らない。
燃え盛る街、逃げ惑う人々、焼かれ潰された死体、その地獄を上空からことの元凶が見下ろしていた。
「もう……まともに戦える人はいないみたいですね……。」
「そ……うみたいだニャ……。」
レミーナとアティスは周囲を見渡し、戦える者がいないことを確認する。
倒しても倒しても沸き続ける死の騎士を何度も何度も倒してきた彼女たち。
しかし、とうとうその魔素が尽きようとしていた。
「あの骸龍……一番強いのでは?」
「油断してニャいニャ……。」
前方、そこには空から地を見下ろす骸龍が蹂躙をしている光景が広がっていた。
「き……君たち!まだ……動けるか!?」
左側から走ってくる中年の男性は体をボロボロにしながらも、その眼にはまだ闘志が宿っている。
「あなたは?」
「サザンカ軍の総帥かニャ!?」
「ああ、君の言う通りだ。俺の名はザクス=シルヴィス。」
ザクスの体は近くで見れば見るほどボロボロであった。
恐らくは何か所も骨折しているだろう。
「失礼ながら、君たち2人が骸龍を倒すのを目撃してだな、一緒にあいつと戦ってはくれないだろうか?」
そう言ってザクスが指差す方向には、やはりあの骸龍がいた。
レミーナとアティスは目を合わせる。
そして答えはもちろん……
「はい!レミーナたちも戦おうと思っていたところでした。ザクスさんに協力していただけるなら心強いです!」
「さすがのアタシたちの魔素も残り少ニャいから、勝算低いけどニャ……。」
アティスの言葉で3人とも沈黙する。
「それでも、我々が戦った方が兵士が戦うよりはずっと勝算が高い……違うかね?」
「それは……そうだニャ!」
「勝てるから戦うのではない!勝たなければならいから戦うんだ!」
ザクスは手にした聖剣を龍の方は突き出す。
「でしたら、少しでも早くあれを止めに行きましょう!」
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
こうして3人の戦士が最後の骸龍を倒すべく走り出した。
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「い……行かなきゃ!」
「待って!まだ安静にしてないと……。」
看護師の制止など気にせず、急いで服を着替えて魔法杖を手にする。
長い金髪を一つに結び、彼女は仲間の元へと走り出した。




