伝説に抗う白
「ふぅ……。」
雪原にたなびく白い髪、その持ち主の少年は疲れからのため息をつく。
「雪月花剣を使った上に冬将軍まで使用したのに5分近くかかったか……。」
白く美しい剣を鞘に収めて彼、クテシフォンは重くなった足をやっとこさ動かしてゆっくりと歩き出す。
「街に戻らねぇとな……。」
冷え切った空、季節違いの積雪、その中で足を引きずって歩みを進める。
彼の放った技、冬将軍の反動で体は思うように動かない。
「部下を信じるか……。お前もそう思うだろ?」
同意を求め振り返る。
その視線の先にあるのは、骨の髄まで凍りついた竜骨。
「まあ、とりあえずは帰らなきゃな……。」
そう言って彼はその場、自身の力により異常気象となった戦場を後にした。
誰もいないその場所に強い風が一つ。
巨大な氷像は風の衝撃で粉々に砕け散り、キラキラと光を反射し輝いて、崩れ去ったのであった……。
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一方サザンカ外壁付近。
「くっ……。」
重い一撃がザクスを襲う。
戦闘経験を多分に積んだ彼でさえ本で読んだことがあるくらいがせいぜいの珍モンスター。
その伝説になるほどの化け物と俺戦っているのだ、という実感を攻撃を受けるたびに感じざるを得ないほどに骸龍の力は強大である。
左から迫る爪をどうにか聖剣で弾くが完全には威力を殺せず、聖剣から伝わる衝撃でクテシフォンの腕が強く痺れる。
ついこの間まで平和に浸かっていた彼が、このたった2日の間でとてつもない化け物どもと戦う羽目になっている……その現実離れした現状にただただ笑うしかなかった。
敵の攻撃をなんとか凌ぎつつ、こんな伝説を相手にしようとしていた若き頃の弱く無知な自分を愚かだと嗤い蔑む。
爪を躱しそれを弾く、そして空いたところに効果の無いであろう剣での攻撃を加える……そんなやりとりをもう何十回と繰り広げていた。
ザクスを噛み砕こうとする骸龍の攻撃を紙一重で回避し、骸の顔に聖剣の一撃を叩き込む。
だがその剣戟は鈍い音を立てて弾かれる。
激しい音を立て、骸の硬い骨は彼の聖剣を寄せ付けようとしない。
「やはり斬れないか……。」
ザクスが相手をしている骸龍の他、方々に散った2匹の龍をちらりと見る。
どちらも味方の大軍を相手に圧倒的なまでの優勢を保っているようであった。
全滅、その最悪な出来事が彼の頭をよぎる……が、全力でその考えを振り払う。
「そ……んなことには……させねぇよ!」
骸龍の腕を弾き、ザクスは自身最大の剣撃を放つべく構えを取る。
最大の一撃、氷魔法を込めた氷剣流の技を頭蓋骨にぶつける。
力と力のぶつかり合いが、骨と剣との間に光り輝くエネルギーの渦を発生させ、辺りを震わせている。
このままでは部が悪い……押し返されそうだ、そう判断しさらに力と魔力を込める。
「どぁらぁぁぁ!」
硬いものと硬いものがぶつかり擦り減りあう耳障りな音が響き渡る。
その音と共に劣勢であった競り合いを均衡まで持ち直す。
それでも均衡だということに苛立ちを覚える。
このままでは拉致があかない、このままでは。
互いにそう思った。
故に先に動くは力を余した骸龍であった。
「ダキャァァァ!」
雄叫びを上げて龍はさらに力を増す。
「なん……だ?俺が非力だって、馬鹿にし、てんのか……!?」
屍のこちらを見下したかのような叫びに怒りをあらわにする。
だが、彼はニヤリと笑った。
「確かに……このままじゃあ俺は勝てねえわな……。だがな、今ならこれが当たるんだよ!」
ザクスは腕に込める魔力とはまた別の魔力を放出する。
空に魔法陣が浮かび上がり、そこから黄金の弓が姿を現わす。
闇を払う一矢、光魔法。
残った全魔素をその魔法に込めるべく魔力へと変える。
「これで、眠れ……。」
掛け声とともに宙に浮いた弓の弦が引かれる。
そして放たれた光の矢、それは剣を弾く骨すらをも簡単に貫き通す。
頭蓋から背骨、まっすぐ続いていたその骨を光の中に消し去る。
「ガァァァァ!」
頭蓋骨に穴を開け、背骨の大半を失った骸龍は、断末魔を上げて崩れ落ち、光の粒子となって空へと消えていった。
「奥の手……2日続けて使用……かよ……。」
ザクスは魔素切れで動かなくなった身体で、大の字になって寝転がった。




