神撃火魔法
「究極火魔法!」
ようやく追いついた、でもそこでメーナの見た光景は想像を絶するものであった。
ゲツヤの敗北、そして今にもその命が奪われようとしている。
メーナは驚き、そして焦る。
取り敢えずは、ゲツヤを殺そうとしている敵を遠ざける事が重要。
その考えに至りメーナは自身の最大の魔法を放った。
それは派手に炸裂し、敵は後方へと吹き飛んだ。
だが実際のところほとんどダメージがないだろう。
それ程までに敵から感じる魔力が高い。
ともかく、メーナは瀕死のゲツヤの元へと駆け寄った。
「大丈夫!?大丈夫なのゲツヤ!?」
瞳に涙を浮かべ、ゲツヤに寄り添う。
メーナは懐から小瓶を取り出しゲツヤに降りかける。
それはゲツヤがファルマコ草から製造した万能薬であった。
ボロボロだったゲツヤの身体は、万能薬の輝きに包み込まれ、瞬く間に元どおりの健康体へと戻った。
「助かった……。」
「うん、どういたしまして!」
ゲツヤがピンチを救ってくれたメーナへ感謝を述べると、瞳の涙を散らして嬉しそうな笑顔でメーナは頷いた。
2人のそんな微笑ましい光景。
そこへ向けられる尋常ではない殺気に2人は振り向く。
「やっぱり効いてないみたい……。」
禍々しい刀を持った男が何事もなかったかのようにゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。
「てゆーかあれって!?」
「ああ、俺が昨日殺した奴だ……。」
「やっぱり!」
ニコルの復活とその強化ぶりにメーナは驚きを全身で表現する。
「それで、ゲツヤでも倒せないってことはないよね?」
「ああ、その気になれば一瞬で片付くさ……でも、それをしたら辺り一帯が吹き飛んだりするけどな……。」
「うん、それはやめてね!」
「しないさ、多分……。」
最後のボソリと言った一言に多少の不安は覚えるものの、ゲツヤの言葉に自信があることから大丈夫なのだとメーナは悟る。
「じゃあ、メーナはあいつを近づけさせないでくれ。その間に俺は倒す準備をするから……。」
「分かったよ、任せといて!」
ゆっくりと近づくニコル、彼に向かってメーナは自身の魔力を解き放つ。
「究極火魔法!」
灼熱の熱線がニコルに襲いかかる。
射線上の大地は溶け、空気は熱され、そしてニコルに命中する……だが、その熱線をニコルの持つ妖刀が受け止める。
究極火魔法を寄せ付けない妖刀の魔力。
「あ……の刀っ、なんって……魔力な……のっ!」
最大火力の魔法が受け止められ、それどころか押し返されそうになる。
メーナは手のひらに込める魔力をより一層高め、押し返されないようにと必死に堪える。
高い魔力と魔力のぶつかり合い。
それは大地を轟かせ、大気を震わせる。
あちらこちらに飛び火し、辺り一帯火の海となっている。
「くっ……まだだぁぁぁぁ!」
必死に堪えるメーナ、その後ろには魔力を練っているゲツヤがいた。
「さあ、それだけ強いんだ……。実験台になってもらうとするか……。」
ゲツヤは呪剣に最大級……つまりは神撃級の魔力を込める。
通常、制御の問題で奥義でさえも究極級でしかない。
なら仮に、神撃級が魔法剣で制御可能ならどうであろうか……。
そしてゲツヤはもう一度魔力を込める。
一本の剣に2つの魔力を、しかも神撃級の魔力を込めることができるのか……。
極技・星竜一閃は5属性全てが付与されているものの、その魔力は全て上級である。
それでようやく調和させ、一つの剣に宿すことが可能になるのである。
常人にその制御は不可、ではその魔力をさらに高めるとするならばさらに逸脱した者でなければ不可能。
そして、そのような人間は歴史上存在しない。
それ故に未だ試したことがなかった。
仮に失敗すれば、自分を中心に魔力が暴発し死に至るのだから……。
だが今魔力を込めているゲツヤは何故か自信があった。
俺ならできる、という根拠のない自信が。
「くっ……やっぱ制御がきついな……。」
荒れ狂う強大な魔力を二つも込められた呪剣はその刀身に炎を纏っている。
「一応は制御できたか……。」
未だ不安定ではあるが、一応制御はできた。
あとは放つだけ。
「メーナ、離れろ!」
メーナはゲツヤの呼びかけに応じ、掌から放出していた魔力を抑え込み後ろへと下がる。
メーナの後退により妖刀の魔力刃がメーナを殺そうと迫る。
「そうはさせない……。」
魔力刃の射線上に躍り出たのはゲツヤ、その顔には焦り。
自身の魔力に呑まれそうになっていることへの焦りが如実に表れていた。
「死にやがれ……。」
そう呟いてゲツヤは呪剣を縦に振り、その刃に宿した魔力ごと剣撃を放つ。
「嵐炎波、とでも言っておこうか……。」
あまりのネーミングセンスに言っておきながらもゲツヤは顔を赤らめる。
(流石に厨二臭かったかな……。)
だがその名前のとおりゲツヤの放った一撃はとてつもないものであった。
全てを焼き尽くす灼炎の刃、それが風に乗り飛ぶ斬撃となる。
その飛ぶ斬撃は激しい嵐を纏い、触れるもの全てを斬り刻む。
嵐炎波の名にふさわしい一撃であった。
「くっ……。」
とてつもない魔力を込められた一撃。
それを防ごうとニコルは妖刀を突き出す。
妖刀から放たれる膨大な魔力もこれの前では微々たるものでしかなかった。
「くそっ……くそくそくそぉぉぉぉぉ!」
膨大な魔力に呑まれた妖刀はその身を砕き、抵抗する術を失ったニコルはゲツヤの一撃を全て受け止めた。
(このままじゃ死ぬ……。)
それを悟ったニコルは最後の手を使う。
「魔天変化……。」
ボソリと呟いたそれと同時に、ニコルの周りを闇が包む。
「魔天変化ってやつか……。まあ、妖刀を持っていたときの方が強いだろうがな……。」
ゲツヤは砕け散って地に落ちた妖刀を見つめる。
(ちょっと欲しかったんだがな……。)
「メーナ!」
「ん、何!?」
ゲツヤの剣技の美しさと威力に目を奪われていたメーナはゲツヤの呼びかけに驚きつつも応じる。
「多分、あいつは今のお前の魔法で倒せる……。」
「えっ!?でもさっき全然効いてなかったし……。」
自身の未熟さにメーナは俯く。
それを許さないとばかりにゲツヤはメーナの頭に手を置き、優しく撫でる。
「お前の魔法はすごいさ。さっき効かなかったのはあいつの持ってた刀の所為だ……。武器に頼ってただけだ……。」
「うん……。」
「だから気にするな……。」
ゲツヤは落ち込むメーナへそう言ってぎこちない笑顔を贈る。
「うん!」
だがそれがメーナにとっては何よりも嬉しい贈り物であった。
元気づけられたメーナとゲツヤは、闇が終息しそこから姿を現した者へと視線を向ける。
そこにいたのは元のニコルからは想像がつかないほど悠然と佇む、貴族のような雰囲気を持つ悪魔であった。
「上級悪魔か……。」
上級悪魔は強さにしてB級、上級聖騎士2人分の強さというところである。
そのような化け物となったニコルが以前のような笑みを浮かべ、ゲツヤたちにゆっくりと近づいてくる。
「いやはや、まさか上級悪魔になれるとはねぇ!」
自身の力の上昇をニコルは満足げに語る。
そんなニコルの接近を前に、メーナは己の魔力を練る。
「さっき防がれたお前程度の魔法で俺が死ぬとでも!?」
「やっぱりお前は愚かなままだったか……。」
「なんだと!?ふざけるのも大概に……」
「ああ、俺から教えてやるよ!お前がメーナの魔法を防げたのは妖刀のおかげだ!そして、あの刀の発してた魔力は決してお前の魔力じゃない!もともとあの刀に込められていた魔力だ!そこのところを勘違いするな……。」
「んなわけ……そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!」
「なら、試してみるんだな……。」
ゲツヤの言葉に激昂したニコルは、メーナの魔法を正面から受けるべく立ち止まる。
「撃て……。お前ならできるさ……。」
ゲツヤと目配せをし、メーナは己の掌に全魔力を込める。
今まで込めることのできなかったくらい膨大な魔力を掌に込める。
(もし失敗してもゲツヤが助けてくれる……でも、絶対にそんなことはさせない!)
そう固く決心しているメーナは絶対に成功させるべくこの魔力という名の荒波を押さえつける。
消費した魔素はゲツヤに回復してもらい、現在は満タン状態、その魔素を総動員させてメーナは魔法を放つ。
「神撃火魔法ァァァァァァ!」
誰も制御することのできない獄炎、それをメーナは掌から放つ。
その荒れ狂う獄炎は、あたり全てを焼き尽くそうと広範囲にわたり放たれる。
暴走……だが、それをしつつも獄炎は確かにニコルを包み込んだ。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!お前らは、揃いも揃って、化け物かよ……。」
全てを焼失させる獄炎により、ニコルは灰となった。
「やっばい、ゲツヤァ止められない……。」
敵を焼き尽くしてなお放たれ続ける獄炎、それは街の方へ向かう。
このままでは本当に全てを焼き尽くしかねない。
「まあ、及第点だろうな……。」
獄炎の放たれる先、そこに立っていたのはゲツヤであった。
「神撃風魔法……。」
ゲツヤの詠唱とともに現れた高密度の竜巻は、荒れ狂う獄炎を散らし、鎮火させる。
それと同時に、全魔素を使い果たしたメーナはその場に崩れ落ちる。
「ふにゃあ。」
「よくやった……。」
倒れ込んだメーナを抱き上げ、労いの言葉をゲツヤはかけてやる。
そして自身の魔素をメーナに少し譲る。
ここをもってメーナは魔法使いとして世界のトップの一角となったのであった。
まだ制御はからっきしではあるものの……。




