復活の司祭
「へぇ、聖騎士軍の到着か。」
「はい。」
「こっちの動きが読まれてたみたいだねぇ。」
「それを踏まえての予定変更……でしたよね?」
「そう、ここ最近何故か先に対策されてることが続いてたからね……となると、内通者でもいるのかな?」
「かもしれません。」
「……まあ、それはともかくこっちの本陣に突っ込んでくる彼はどうしたもんか。」
「確かに彼は一騎当千で雑魚兵では太刀打ちできません……が、マーズ様直々に御相手をする程の者でもないかと。」
「そうかねぇ。まあ、こいつで様子でも見てみるか。」
1人の悪魔信仰者に《マーズ様》と呼ばれた人物が地に……そこに用意された死体に手をかざす。
「死者使役」
一度死んだ体が操り人形のような奇怪な動きで立ち上がる。
そして付与されるマーズの力。
「さあ、君のリベンジマッチといこうじゃあないの。」
マーズの力により強化を経た死体だった者。
蘇り進化を経た中級悪魔ことニコル=ボレウスがゲツヤを殺すべく戦場へと参入した。
そのすぐ近く、敵の本陣に間も無く到着というところで単騎突入を続けるゲツヤはふと思う、余りにも手薄だと。
普通は本陣に近くなればなるほどその防御は強固な者になっていくはず。
だが、全くもってそんな気配はない。
「何かが、何かがおかしい……。」
ゲツヤの感じた違和感、それは何者かに誘導されているというものであった。
(それに乗るか乗らないか……。)
確かに今の所負ける要素は全くないが自分より強い者がこの世界にはいるはずである。
剣を振るいながら、ゲツヤは思慮していた。
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「なっ、なんてこった……。」
彼、白虎聖騎士クテシフォン=シルヴィスが門の外で見た光景は信じがたいものであった。
1つ、来た時よりも明らかに敵軍の数が増加しているということ。
2つ、死んだ兵が次々と死の騎士として蘇っていること。
そして3つ、その大軍の中を2人の人物が各々単騎突入しているということ。
クテシフォンの実力を持ってしてようやく成し遂げられるような事、それを簡単に実行している者がいる。
2人のうち1人は先行している人物を追いかけて行っている形なのでそれほど戦闘は行われていないようだが、敵の本陣まで迫っている人物は相当の使い手であるということは容易に想定できた。
「ふっ……面白い!」
再び両手に氷の爪を纏い、クテシフォンは敵陣に突入を開始する。
遠距離魔法、それらを駆けながら左へ右へと全て避ける。
そして一気に距離を詰めその魔法詠唱者を両手の爪で抉る。
鮮血が白いローブを染め断ち切られた肉がグチャリと音を立てて崩れる。
その音が次から次へと戦場に鳴りブリザードの中心地帯の壮絶さを物語る。
寄る敵を冷凍肉塊へと変えながらクテシフォンは突き進む。
その速さは先へ進む人物に負けずと劣らず。
クテシフォンはその顔に笑みを浮かべ、喜びの念を抱き敵を屠る。
「ツワモノって奴の顔を拝んでやろうじゃねぇか!」
先に進むまだ見ぬ強者への想いを馳せ、クテシフォンはその爪を、その剣を振るう。
クテシフォンが戦う場所から少し悪魔信仰者の本陣に近いところ、そこを駆ける少女が一人。
軽快な足音が戦場、誰もいなくなった戦場に響き渡る。
「これ全部ゲツヤがやったのか。」
ゲツヤの後ろを追いかけるメーナは彼の強さを改めて実感する。
さっきからときどき討ち漏らしかどうかは知らないが死の騎士が出てはくるが、と思っているうちにまた死の騎士が襲いかかってくる。
「いい加減にしてよね、上級火魔法!」
メーナの小さな掌から火炎が生じ死の騎士を閉じ込める。
溶ける鎧、焦げる肉。
C級の魔物が一瞬にしてその命を落とす。
メーナはピュロン山での戦い以降、自身が強化されていることを改めて感じた。
「いやあ、死にかけると強くなれんのかなぁー!?」
冗談にならないような冗談を独り言として放つ。
あと少しでゲツヤに追いつく。
メーナはその脚をより一層動かすのであった。
またその少し先、そこではゲツヤが奮闘している。
敵を切り裂いて切り裂いて切り裂いて、そして本陣へ近づく。
そうして到着まであと少し、というときだった。
ゲツヤの目の前に知った顔。
二度と見ることはないはずの顔が立ち塞がった。
「なんで生きてるんだ、それよりもどうして急にそんな力を……。」
目の前に立つ男、それは昨日殺めたばかりのニコル=ボレウスであった。
そしてその力は強化され、見た目もほとんど人間に近い中級悪魔へとその姿を変えている。
「これは上級まで変身するかもな……。」
「こりゃあ、よく気づきましたねってところだな!」
「死者が意思疎通できるとはな……。」
「いやまあ、確かに一回はぶっ殺されたけど今はこの通りピンピンだぜ?」
「1つ聞きたい、何故生きてる?……」
「そりゃあ企業秘密っすわ。まあ、言うなれば復活……的なやつね!」
「そうか……。」
ニコル=ボレウスは決して紛い物でも何でもなく、本人であることが会話からわかる。
ならば何故蘇ったのか。
復活、それは容易にできることではない。
そしてただの蘇生ならこうした変化は生じないはず。
何か悪魔専用の術でもあるのだろうかとゲツヤは思考する。
疑念を抱きつつゲツヤは目の前の敵へと剣を向ける。
「やっぱそうなるよなぁ、じゃ……俺も戦わせてもらうよ!」
そうして中級悪魔となったニコル=ボレウスが剣を抜く。
ゲツヤの初撃、普通の人間には目視することすら難しい速度の剣撃。
それがニコルの刀とぶつかり火花を散らす。
「防がれたか……。」
以前のニコルなら決して防ぐことはできなかったその一撃、だが強化されたニコルには止められた。
「いやいや、速すぎだろ……。」
ニコルはそうやって余裕のないふりをするが、それが嘘であることは明白であった。
そしてその事実を受け止め、ゲツヤは剣を持ち替える……左から右へと。
「まさか、俺を殺したときって左手で持ってたけど利き手右かよ〜!」
「ああ、右でやるとすぐ終わると思ったからな……。」
手を抜かれていたという事実。
以前のニコルなら理性を失いかねないその一言を今のニコルはさも当然のように受け入れる。
それ程までに今のニコルは力を得ていた。
そして右へと持ち替えたゲツヤの剣撃、それをニコルは受け止めて反撃する。
その反撃はいなされ、ゲツヤの呪剣が皮膚を切り裂く。
「あっぶね〜、掠ったぁ!」
ニコルはすこし焦る。
ここまで強化されてもまだ遠く及ばないことに気づきはじめたからだ。
「究極土魔法!」
ニコルの唱えた魔法、究極土魔法により生じた岩石の密室、それにゲツヤは閉じ込められる。
「秘技、密室殺人事件ってな!」
閉じ込められたゲツヤ、それに向け再び詠唱する。
「上級水魔法!」
岩石の密室の中に大量の水が生じ、部屋の中を満たしていく。
「どーする?窒息するか、出てきたところを叩き斬られるか。」
ゲツヤはニコルの笑い声を密室の中から聞いていた。
究極火魔法を最小限に調節し、生じた水を蒸発させる。
気づかれないように密室に無数の小さな空気穴を開け、空気を逃す。
そんなことも知らずに高笑いしているニコルがゲツヤにとっては愚かに思えて仕方がなかった。
このまま部屋から出ればニコルはそこをここぞとばかりに狙って斬りかかってくるだろう。
それは明らか……だが、ゲツヤは敢えてそれを実行する。
密室を呪剣で斬り裂き脱出するとそこへニコルの刀が迫る。
「死にやがれぇぇぇぇぇ!」
ニコルの渾身の一振り、それは決して避けられるものではない。
密室を崩し生じた隙を的確に狙って放たれたその一撃はゲツヤを捉える。
だが、吹き飛んだのはニコルであった。
「痛っ……。」
彼の肩に穴が空いている。
(以前にも味わったことのある痛み……そうそれはあの総帥と同じ……いやそれ以上!?)
そしてそれを放ったであろう人物を見る。
ゲツヤの後ろには光り輝く魔法陣、そしてそこから顔を出した筒。
(たしか西のカルデア王国、魔法よりも科学に長けたそこで使われている武器……銃。)
この痛みとその神々しい見た目から光魔法であるとニコルは理解した。
「なんだ、光魔法に強弱はないはずだ!上級も究極も存在しないはずだ!?」
「何言ってる、正真正銘の上級光魔法だ……。」
ただでさえ使い手の少ない高等魔法の光魔法。
強化版のないはずの魔法。
だがそうでないことは目の前で起きてる事実が証明している。
「お前……化け物か!?」
光魔法など、どんな魔術師だろうとたったの一撃で魔素を使い果たす。
だが、ゲツヤは上級光魔法なるものを使って、しかも魔素切れの様子はほとんどない。
「初代教皇……。」
ニコルの脳裏をよぎるのはかつて世界に存在したという圧倒的な魔力を持った大魔導士……悪魔信仰創始者とされる人物であった。
「だが、それと勝敗は関係ねぇさ!」
恐怖をこらえ、ニコルは指を鳴らす。
それと同時に出てきたのは巨大な穴、空間に開いたその穴にニコルは手を突っ込む。
「こいつはなあ、悪魔信仰者でも大司教にしか使用権のない武器なんだよ!」
取り出したその武器、一見普通の刀……だがそれに込められた魔力はとてつもない。
妖刀、伝説級の魔剣が今世に解き放たれた。




