援軍
街に侵入した悪魔信仰者を殲滅したサザンカ軍から歓喜の声が上がる。
それもこれもたった1人で敵軍の中を突っ切った闇聖騎士のおかげであろう、ということは誰もが理解し彼に感謝をしていた。
カゲミネ・ゲツヤ、変わった名前かつ風貌のその少年は二度にわたり自分たちを救ってくれた。
英雄として今後も語り継がれていくだろう……と誰もが思っていた。
そして安堵する。
だがそれはほんの僅かな時間であった。
「うわぁぁぁぁ!」
敵の再侵入に備え監視をしていた兵が叫びを上げ、それと同時に全兵士に動揺が走る。
「どうした!?何があったんだ!?」
あまりの部下の慌て具合に総帥であるザクスが驚きを露わにする。
「あ……ああ……あの、死の騎士の軍勢……がこちらに向かっています!」
「なっ!?死の騎士だと!?」
その驚愕の事実に誰もが恐れをなした。
死の騎士、それはC級とされるモンスター。
強力な順にA〜G級とモンスターは区別されるのだが、C級……それは下級聖騎士3人分の力を持つということを意味する。
一体でも危険。
よって発見され次第、即討伐依頼が出されるモンスター、それが1000体。
「うわぁぁぁぁ!」
突如現れた魔物の大群が街に侵入する。
街の守護者たるサザンカ軍にそれを防ぐ術はない。
ただただ慌てふためいて蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ惑う兵士たち。
先鋒など敵にとってはただの前座に過ぎなかったのだ。
これからが蹂躙の開始なのだと気づき、兵士たちは絶望して恐怖に囚われひたすら逃げる。
だが逃げられるわけもない。
そもそも能力に差がありすぎるのだ。
それは走力や体力においても圧倒的なまでの差がついていた。
1人、また1人と兵士たちが死の騎士に追いつかれる。
そしてとうとう1人目の犠牲者が出ようとしている。
天に高々と掲げられた禍々しい風貌の大剣は、弱い人間を叩き斬らんとする。
そして振り下ろされる……そのときだ。
「究極火魔法!」
閃熱が蠢く影の塊を穿つ。
あまりの高熱に炎に包まれた者の鎧は溶けて中身が叫びをあげる。
その閃熱の出元、兵士たちはそこは目を向ける。
宿屋の娘、かの英雄カゲミネ・ゲツヤの仲間、メーナ=テーラーの姿がそこにあった。
「上級火魔法」
先程のものより一回り小さい閃熱を両手から放ち、メーナは歩みを進める。
立ち塞がる魔物たち、だが彼女はその先に待つゲツヤの元へ向かうべくその脚を動かす。
その勇敢な姿が見ていた大人たちを突き動かす。
「ちっちゃな女の子が戦ってんだ!兵士が戦わねぇでどうする!?」
震えを必死にこらえ、再び剣を握る。
街を守るため、己の命を守るため、そして愛するものたちを守るため、兵士たちは再び立ち上がり、不可能への挑戦を図る。
「うりゃぁぁぁぁ!」
最も早く立ち直った兵士が目の前の黒い鎧に斬りかかるが、その刃は通らない。
「なんて硬いんだよ……。」
反撃、それがその男の命を奪う。
それは誰が見ても理解できた。
だがその巨剣の一撃は防がれる。
「待たせた、すまなかったな。」
死の騎士、その目の前に突如現れたのは1人の少年。
白く短い髪に、140センチほどの身長、そして冷たくも可愛らしい目。
第一印象はクールな少年といったところか。
そんな少年が、右手に持った剣で怪物の一撃を受け止めていた。
サザンカ近くまで迫った軍勢、それはコルトニアより派遣された聖騎士軍であった。
「何とか間に合ったか。」
早急に編成された聖騎士軍の責任者を任されたその少年こと白虎聖騎士クテシフォン=シルヴィスはそう呟いたのであった。




