死者使役
アクロバティックな動きで軽やかに敵の攻撃を避けて、文字通り宙を舞う。
剣先で喉笛を搔き切る。
戦場を舞うたびに上がる鮮血は、サザンカの街並みを真紅に染め、立ちはだかる者たちの命を刈り取っていく。
刈り取られる者=悪魔信仰者を次から次に流れ作業のように処理していく少年、カゲミネ・ゲツヤはただ真っ直ぐに敵の本陣と思わしき場所へ突き進む。
「ふっ……。」
声とともに横に薙ぎ払った剣が、白いローブを横に裂き、ジワリジワリと白を赤へと変えていく。
ゲツヤの神速が返り血を浴びることを防ぎ、ゲツヤの衣服には一滴も血液が付着していない。
次々と襲い掛かってくる悪魔信仰者たち、殲滅系の魔法はあたりの街を破壊しかねないので使えない。
それ故、地道にその首を落としていくしか方法がなかった。
「はあ、また1人蚊帳の外か……。」
遠距離から火の玉を放ち、悪魔信仰者を退ける1人の少女、メーナは1人突き進むゲツヤへの不満を口にする。
「ボクだって戦えるのに……。あぁぁもう!」
掌に込める魔力を高める。
そして威力を上昇させた火球は迫る敵を灼熱に包み、焼き焦がす。
「ちょっとは強くなったのかな?」
メーナは地龍との戦闘以来、魔素容量が増加した気がしていた。
メーナが己の強化について考え込む中でも御構い無しに悪魔信仰者は進軍を続ける。
そして、前線を突破した団体。
彼らが前に立ちはだかるメーナの首を目掛けて襲いかかる。
「究極火魔法!」
業火が直線を描き射線上の全てを焼き払い、焦がし溶かし尽くす。
熱波の終息とともに訪れるのは、石の道が溶けて焦げた肉の匂いが蔓延し、すっかりその姿を変えた街並みであった。
「うん……。この調子なら、あと4回はこれ撃てる!」
以前なら、3発までの究極火魔法、それが5発も撃てるほどに強くなっていた。
己の成長、それに喜び威力も上がったであろうその魔法で周辺の敵を殲滅した彼女。
「んじゃ、へーしさんたちは、ここがやられないように頑張って!」
「ああ、分かった……が、君はどうするんだい?」
「うん、ゲツヤを追いかける!」
兵士の問いにそう答え、すぐさまゲツヤのいるであろう所へ走り出す。
少し高い所へ行き、辺りを見渡す。
そしてサザンカ門近く。
何かが華麗に飛び跳ね、その度に何かが宙を舞って、その地面は赤く染まっている。
「ああ、あそこにいるっぽいな……。」
常人なら決してできない無双ぶり。
それが行われている所……ゲツヤのいる所へ猛ダッシュを開始した。
「ニコルじゃないんだ!一昨日の夜、ボクが感じた怖いのは……。あんなのじゃないんだ!」
その小さな体を震わせて、言いようのない不安に駆られゲツヤの助けになろうとひたすらその脚を動かす。
「嫌な感じがするんだ、とってもとっても嫌な……。」
少しずつ宙を舞う鮮血が近くなっている。
ゲツヤの元へ到着するのに、さして時間はかからないだろう。
メーナは取り敢えず、最悪の事態が回避できそうだということに安堵した。
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「ふふっ……ふふふふふっ!」
悪魔信仰者本陣、そこに怪しげな笑い声が響き渡る。
「先鋒は壊滅状態らしいわねぇ。」
悪魔信仰者の先鋒は、ゲツヤたちの活躍により殆ど全滅していた。
このままの状態が続けば、サザンカに勝利の女神は微笑んだであろう。
だがそうはいかなかった。
「そろそろ本当に滅ぼしにかかろうかしら。えぇっと、先鋒が500人?くらいよね。」
従者のような女性たちが敵味方問わず戦死した者たちの亡骸を台車に乗せ運んできた。
白ローブに身体を隠した其の者が手を死者たちにかざす。
「死者使役。」
その詠唱とともにかざした手から淡い紫の光が発せられ、辺りを包む。
そして、その光が死者たちに吸い込まれ、その亡骸が再び息を吹き返したかのように立ち上がる。
起立、それと同時に起こるのは形状の変化。
皮膚から、黒い靄が生じて身体を包む。
その靄は、厳つい鎧へと変化して亡骸は死の騎士へと変化を遂げる。
見るからに悍ましく、気味の悪い光景。
それが戦況を大きく変化させる。
「さあ死の騎士たちよ、あの壁の中の街を滅ぼしなさぁい!」
滅亡への指揮棒が振られ、死の騎士たちは進軍を開始する。
その数1000……それがサザンカ軍を絶望の淵に立たすべく、歩みを進めたのであった。
「足掻いて見せなよ?まあ、あたしの七曜印、軍神の戦略には手も足も出ないでしょうけどねぇ!」
そう述べた女から悪どい笑い声が発せられ、それが辺りに響くのであった。




