第二次悪魔信仰者進行
門が突破された。
その報が町中に届くのにほとんど時間はかからなかった。
軍が油断していたわけではない、敵が多すぎたのだ。
狭い門から大群が押し寄せる。
なだれ込む白いローブの集団。
そこで繰り広げられるはサザンカ軍との戦闘、いや蹂躙と言う方が正しかろう。
圧倒的な数の暴力、その前にサザンカ軍はなす術を持たない。
「全軍、持ちこたえろ!住民を逃すんだ!」
「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」
「現在、総帥殿がゲツヤ殿を呼びに行っている。彼の者が到着するまでの辛抱だ!」
空を首や血が飛び交う。
次から次に、数の奔流に飲まれ、その儚い命を散らしていく兵士たち。
それでも悪魔信仰者に必死に抗おうとする。
ただ1人、この状況を打破できるかもしれない少年を信じて……。
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街の端、そこから目指すは正反対の位置にあるサザンカ門。
とてつもないスピードでゲツヤはそこを目掛けて疾走する。
あと3分以内には到着する。
ゲツヤはそれでも一分一秒でも早く到着しようと込める魔力と筋力に集中する。
遠方からは炎の音や氷の輝き、風の囁きや大地の呻きが聞こえる。
その音の大きさからするに、その数は昨日の比ではないことがわかる。
ゲツヤはひたすら門を目指すのであった。
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「まだぁ?遅いわねぇ?」
真っ白いローブ、金と銀の装飾が施されたそれで全身を包み込む人間。
背丈は180センチほどの其の者は、ある人物の出現を待ちわびている。
自身の部下を葬った少年……中級悪魔の下位種とはいえ、悪魔をあっさりと葬ったのだ、見過ごすことはできない。
「正直、あの無能なニコレ?のような奴には興味はないのだけど、その人間実に興味深いわねぇ!」
フードに包まれた顔、それが怪しげな笑みを浮かべた。
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劣勢、その重い事実はサザンカ軍の心をへし折らんとする。
それでもたった一つの希望にすがり、その剣を振るう。
一体何人の仲間が討たれたのだろうか……きっとその数は計り知れないだろう。
それでも剣を振るう。
そして門突破から2分が経過した頃だった。
街側の兵士たちから歓声が上がる。
そう希望の到来、絶望の終焉、それをもたらすあの少年がこの戦場に降り立ったのだ。
幾人もの悪魔信仰者が同時に襲いかかる。
普通なら死ぬ、ザクスでも危ない、そんな状況で彼は冷静な表情を保つ。
彼の手に持つ悍ましい装飾の柄。
だが刃が美しくエメラルドグリーンに輝いている剣、それが弧を描く。
その一太刀、それが襲いかかった悪魔信仰者全員を真っ二つに斬り裂く。
いくつもの上半身が赤い血を噴出させなが、ドサリと音を立てて地に堕ちる。
それが開始の合図なのか、それと同時に今まで兵士たちを襲っていた悪魔信仰者たちも彼に襲いかかる。
そこから彼ら目にしたのは正に神の所業。
正面からの剣を受け止め、左からの剣を避ける。
右から迫る敵は土魔法系で作った岩弾で弾き飛ばす。
そして前の敵を退かせ、剣を振るい、ぐるりと回転する。
エメラルドグリーンの刀身、それが焔に包まれる。
その炎を纏った一撃は迫るものを拒み、近づくものを灰へと変える。
高度にまとめられた火剣流、美しく燃え盛るその刃が弧を描いて舞う。
火剣流、炎渓環。
斬られたものは死……もしくは重度の刀傷に加えて火傷。
その驚異的な力で次々と悪魔信仰者を薙ぎ払う。
ゲツヤを2度目の波状攻撃が襲う。
敵の初撃、それは虚しく空を斬る。
斬りかかった敵の頭、そこを支点に右手を使って空に飛び上がる。
戦場を羽のように軽い身のこなし、そのまるで曲芸師のような動きで駆け巡る。
そして立ち塞がる者の首を刈り取る。
「速い……速すぎる。」
ゲツヤの戦いを目にした一人の兵士が思わずそう呟く。
目では追えない速さでゲツヤは戦場を舞う。
兵士の誰もが唖然としていた。
なにせその少年は自分たちが苦戦していた大群の中をたった1人で突き進んでいるのだ。
「っ……私たちも彼に続くぞ!」
(いくら彼でも大軍全ては相手にできない、我々も戦わねばならないのだ。誰が敵の強さに恐れを成すことができようか、いやできるわけがなかろう!彼が、我々よりずっと年下である彼が1人で奮戦しているのだ。そう彼、我々を一度救ってみせた英雄、闇聖騎士のカゲミネ・ゲツヤが我々を再び救わんとしているのだから!)
ゲツヤに救われた兵士たちは彼の戦いぶりを目の当たりにし、鼓舞されて、軋む体に鞭を打つ。
ゲツヤに続き、愛するこの街、サザンカを守護するために。




