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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter2:サザンカ動乱
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第一次悪魔信仰者侵攻(後編)

 戦場で1人の男が暴れている。


 たった1人で何人もの人間と相対し、素っ首を叩き斬っていく。


 返り血で穢れた顔、その血を舌でペロリと舐めるその様はまるで鬼。


 かつてルナヒスタリカ王国の天才聖騎士と呼ばれた男の姿であった。


「うおりゃぁぁぁぁ!」


 聖剣を振り下ろしす。


 左肩から斜めに両断された悪魔信仰者ディモニストはあたりに血を撒き散らし、上半分が地に落ち、下半分は膝から折れる。


 背後から迫る刃、それを水剣流による水の流れでいなす。


 受け流され体勢を崩した所にカウンター、一合のもとに頭と胴が離される。


 その胴を盾がわりにし、右の敵の腕を切り落とす。


 聖剣の切れ味で豆腐のようにスッパリと切断されたその腕はボトリと地面に落ちた。


 上級聖騎士にはなれなかったものの、ザクス=シルヴィスの実力は通常の域を超えていた。


 水剣流、受け流しを得意とするその魔法剣術を好む彼は、受けの戦いを主体とする。


 1つのミスも許されない緊迫した状況にザクスは興奮を覚えていた。


 長らく感じなかった、命のやり取りの緊張感、それが心地よいということ。


 1人、また1人と、ザクスは首を落とすたびにその顔を歪んだ笑みへと変えていった。


 素朴な美しさを持つ聖剣は、返り血がこびりつき、赤黒く変色していた。


 ザクスの一瞬の隙をついて悪魔信仰者ディモニストが背後から斬りかかる。


「水剣流、逆流閃」


 その声に呼応し、ザクスの身体が動く。


 すんでのところで小刀を回避し、体勢を崩した悪魔信仰者ディモニストに対し、背を向けたまま聖剣を逆手に持ち背後に突き刺す。


 聖剣は水流を纏い加速し、悪魔信仰者ディモニストの肉体を容易に貫く。


 カウンターを綺麗に決めて、倒した敵をザクスは見つめることもなく、次の敵へと注意を向ける。


 50人くらい殺しただろうか、そう考えているうちに縦に真っ二つにした男を蹴り飛ばし、次なる敵を求めて走る。


 悪魔信仰者ディモニストたちは、その化け物じみた強さを持つ敵将に恐れをなして逃げ惑っていた。


 初心を忘れ、ひたすら己の武を誇示する快感に浸っていたザクス、だがその目の前に他の雑兵とは一風変わった1人の悪魔信仰者ディモニストが立ち塞がった。


 純白のローブ、他と違い一筋の赤い線がフードに入っている。


 逃げ惑う雑兵とは明らかに異なる威圧感を放つその存在が、上位のものだと瞬間的に把握した。


 ゆっくりとゆっくりとゆっくりとその脚を進め近づくその男は、ザクスから2m離れたところでその脚を止め、フードを外した。


 そこから現れたのは赤黒い髪色の短髪の青年。


 光を失ったかのような漆黒の瞳は鋭くザクスを睨みつけている。


 沈黙が続く。


 不気味……ザクスはその感情のもと、厳戒態勢をとった。


 その沈黙を崩したのは青年であった。


 色の薄い、生気を帯びていないその唇が動かされた。


「やあ、俺は この部隊の隊長をやってるものなんだ。名前はニコル=ボレウス!」


 見た目に伴わないその軽い口調で名乗った男、ニコルはヘラヘラと笑っている。


「ただの隊長ではないな……。貴様一体何者だ!?」


「難しく言うと、悪魔信仰ディモニズム七曜教会〈火〉派の司祭ってことになってるよ。」


 その事実はザクスを震撼させた。


 悪魔信仰ディモニズムの総本山は7つあり、その一柱の司祭。


 聞く所によると、司祭クラスは上級聖騎士と互角かそれ以上と言われている。


 だが、ザクスは恐れなかった、それどころか喜びに満ち溢れていた。


「あぁ、お前を殺せば俺は上級聖騎士と同じかそれより上ってことか……。」


 かつて途絶えた夢、それに今、届くかもしれないという期待をしていた。


「え、これ聞いても諦めてくんないの?戦うの面倒なんだけど……。」


「ほざけ!そう余裕ぶっていられるのも今のうちだ!」


 聖剣を構えなおし、タイミングを見計らっている。


 ザクスは集中し微動だにせず、ニコルはヘラヘラと笑って辺りをキョロキョロと見回している。


(舐めるなよ!!)


「せいやぁぁぁぁ!」


 赤く染まった聖剣が弧を描きニコルの首に迫る。


 数多の命を刈り取った一撃、それが敵が油断している所に完璧に決まる。


った。)


 しかし、その刃は首まであとほんの少しというところで全くもって動かなくなってしまった。


 ブルブルと震える刃、その根元には二本の指がある。


 ザクスの剣撃は、ニコルの人差し指と中指に挟まれ、その動きを止めていた。


(こんな差があるか!?ここまで上級聖騎士に及ばないのか!?)


 自分の最高の一撃を赤子の手をひねるかのように防がれ、ザクスは自身の力量との差に驚愕していた。


 ニコルが指を離した瞬間にすぐさま剣を戻し再び斬りかかる。


 縦横無尽の乱撃、一太刀一太刀が一撃必殺のそれをユラユラと避けられる。


 悔しさと怒り、ザクスの心はその2つが占領していた。


「はぁぁぁぁぁ!」


 ニコルの心臓目掛けて剣を突き刺す。


 しかし、実際につきさせたのは空……。


 トントンと何者かに肩をつつかれる。


 咄嗟に背後に振り向くと、そこにはニコルのにやけた顔があった。


 慌てて横に薙ぎ払うも、上体を曲げかわされる。


 全くもって当たらない、どう足掻いても勝てない、ならば……。


 ザクスは自身の間合いから身を引き、ニコルから離れる。


 剣技を得意とするザクスが身を引いたのには訳がある。


「どうだ?いくら貴様らでもこの魔法はほとんどお目にかかれないぞ?」


 そう言い放ったザクスの手には先程までにはなかった弓が握られている。


 白く輝き、ユラユラと不定形のその弓が物質でないことは明白であった。


 ザクスの最後の手段、強力な魔法だが、それ故にたったの一発で魔素切れに陥る。


 光魔法シャイーラ、基本5属性を超越する属性である闇と光。


 禁術指定されている闇と対となっているこの魔法こそがザクスの隠し技であった。


 神々しく光り輝くその弓矢はニコルの心臓を睨む。


「へぇ〜、光魔法シャイーラねぇ〜。」


「ヘラヘラ笑っていられるのも今のうちだ!」


 余裕な態度を崩さないニコル、まさか……反射魔法リフレクションでも用いるのだろうか!?


 魔法攻撃において重要なのは反射魔法リフレクションを敵が使えるかどうかだ。


 余程の魔力差がない限り、反射魔法リフレクションは有効である。


 だが、その考えを鼻で笑った、反射などされる訳がないと。


「去ね……。」


 ザクスの口から放たれたその言葉は、これから死にゆく者への手向け、そのような雰囲気を醸し出していた。

 

 ザクスの右手の指は、光の矢を放した。


 一瞬、ほんの一瞬あたりが光に包まれた。


 放たれるのとほぼ同時にニコルの胸には穴が空いていた。


 光魔法シャイーラ、それは光の矢。


 それは光の速さ、そしてそれはありとあらゆる防御系魔法を貫通する。


 反射魔法リフレクションを使ったのかどうかは知らないが、この世間一般にあまり知れ渡っていない性質は強力な者であった。


 それ故に、普段から使用せず、表に出るのを避けていたのだが……。


 胸に穴の空いたニコルは笑った顔のまま、地面に倒れ臥す。


 だが、それと同時にザクスも魔素切れで倒れる。


 このままでは死ぬだろう、しかしザクスは一切恐れはなく、心の中は上級聖騎士に匹敵する存在を打ち滅ぼした事への喜びで満ち溢れていた。


 俺は上級聖騎士を超えたのだと……倒せたと思っている間はそう思えた。


 だが様子がおかしいことに気づく。


 ニコルは胸を撃ち抜かれたというのに全く血が出ていない。


 それに、自分たちの司祭が討ち死にしたにも関わらず雑兵どもが一切の狼狽を見せていない。


(おかしい、おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい)


 ありえない出来事に混乱して、不安していた。


 そしてその不安は見事に的中するのであった。


「いやぁ、効きましたよぉ!」


 軽い口調の高くもなく低くもないその声が、静まり返った戦場に響いた。


 死んだはずのその男、ニコル=ボレウスは何事もなかったかのように立ち上がった。


 それも、その胸に直径2cmの穴を開けて。


 何故倒せなかった、それよりも何故生きているのだ!?


 殺したはずの相手。


 自身最大の魔法で打ち滅ぼした敵。


 その男が手に持つ小刀を舌でツーと舐め、こちらに迫ってくる。


  ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと。


 ニヤリと笑みを浮かべる死神、魔素切れで抵抗できない中、その死神の鎌は振り下ろされようとしていた。


 全てはニコルの掌の上、それに気づきひたすら悔しさが込み上げる。


 今まさに自分を殺そうとする男の顔を残された力で睨む。


「バイバーイ!」


 ヒュッと音を立て振り下ろされる小刀。


 自分の死を悟ったザクスは静かに目を閉じた……。


 ここにサザンカ軍と悪魔信仰者ディモニスト軍との初戦は幕を閉じたのであった。

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