第一次悪魔信仰者侵攻(中編)
血に染まったサザンカ近郊、空は青々としており、心地よい風が吹くこの平原。
真っ白な景色の中、それに立ち向かうべく1人の男が名乗りをあげる。
「我が名はザクス=シルヴィス。この街の守護軍総帥にして、ルナヒスタリカ王国の中級聖騎士の肩書きを持つ者。腕に覚えのある者は我と剣を交えよ!」
撤退命令、総帥自ら部下を逃すために命を賭けたこの命令に、サザンカ兵たちは涙をボロボロとこぼしながら従った。
何人もの兵が総帥の所に戻ろうとした、しかし総帥の覚悟を無駄にしないためと止められていた。
結局のところ自分たちが行ったところで何1つ変わることはない。
ならばせめて総帥の望み通りにするしかないのだ。
その場にいた兵士全員が自分の無力さを嘆いていた。
敵が自分に注目する中、部下の撤退を確認したザクスは、目の前にごまんといる悪魔信仰者を睨みつけ、改めて構えなおした。
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ザクス=シルヴィス、彼はただの町民からひたすらに努力を重ね17歳のときに下級聖騎士となった。
その後も、日々の努力を重ね任務を忠実にこなし、その力を着々と高めていった。
そんな彼は僅か5年という月日で中級聖騎士へと昇格した。
異例のスピード出世、周りからは天才と騒がれ、近いうちに上級聖騎士になることを期待されていた。
23歳の秋のこと、幼馴染の女性と結婚。
その翌年には長男が誕生し、幸せな家庭が築かれた。
それから10年もの月日が流れた。
長男は10歳となり、将来の夢はザクスのような立派な聖騎士だそうだ。
だが、肝心のザクスは聖騎士としての実力の限界を感じていた。
いくら修行に励んだところで上級聖騎士にはなれなかった。
若いうちはまだまだ努力が足りないだけだと思えたが、今になれば分かる。
特別な才能が必要なのだと。
普通の人である自分には到底登ることのできない階段なのであると。
かつての栄光は既になく、冴えない1人の聖騎士として日々の生活を送っていた。
質素ではないものの、決して華やかではない至って普通の生活。
そんな日常にも慣れ、当たり前になっていたある日のことであった。
一人の下級聖騎士が誕生した。
僅か10歳にして下級聖騎士の称号を獲得した彼はシルヴィス家の長男であった。
自分の息子の才能に喜ぶ、本当に心の底から喜ぶ。
だが、自分がひたす、努力してようやく届いた領域に、大した努力すらしていない子どもが到達したということに不快感を抱いていた。
聞く所によると、一切鍛錬はしておらず、興味本位で受けた聖騎士認定試験に合格をしたとのことだ。
自分が17歳まで必死に勉学や鍛錬を重ね、ようやく受かった試験に、我が息子がそんなことは一切行わず、才能だけで受かったというのだ。
嫉妬するなという方が無理がある。
それから瞬く間に彼の息子は出世し、気づけば己より遥かに上の存在となっていた。
立場を失ったザクスは自身より位が上となってしまった息子に対し決闘を申し入れた。
木刀による模擬戦であったが、結果はザクスの惨敗であった。
どこで学んだのか、息子は氷剣流を極めていた。
圧倒的な実力の差で瞬時に敗れたザクスは、家を棄てただ1人サザンカへと移転した。
それが今から2年前のことであった。
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ザクスの脳裏には棄ててきた自身の過去の栄光の産物が浮かんでいた。
富、名声、家、妻、そして尊敬する息子。
やけに早い走馬灯の登場であった。
あの楽しかった日々のことが、まるで昨日のことのように、目を閉じると鮮明に浮かび上がる。
ここで死ぬであろう自分は成長した息子に再び会うことができないのであろうと寂しく思っていた。
自身の培ってきた実力、それを試してここで潔く美しく散ってやる。
死を覚悟して彼、ザクス=シルヴィスは白い奔流の中へと消えていった……。




