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異世界転移は孤独な私を笑わせる  作者: 鈴谷 卓乃
Chapter2:サザンカ動乱
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薬を求めて

 魔物たちの安住の地、数多の種類の魔物たちがそこでは暮らしている。


  とてつもなく弱いもの、とてつもなく強いもの、互いによりよい環境を求めて力を誇示し、争い、奪い合う。


 そうした結果、この山では頂上に行くにつれて強力な魔物が生息している。


  雲を貫くその山頂には雪が積もっており、環境は最悪、何故そこを魔物たちは狙うのか。


  ピュロン山、その頂上に生えるファルマコ草、解毒作用を持ち栄養価も高いその植物を我こそはと魔物たちが求め競い合っている。


上級水魔法ウルアクーラ!!」


  ゲツヤたちがピュロン山登山を開始してから1時間、魔物たちの襲撃は止むことを知らない。


  既にゲツヤたちで一体何匹の魔物を葬ったことやら。


  急いでも急いでも、行く手を阻む魔物たち。


  レミーナの放った上級水魔法ウルアクーラは一閃の水流となり魔物の胴体を貫く。


  魔物を貫き、その血を纏い赤く染まった水の槍は地を這う蛇の如くその身を曲げて更に魔物を貫こうと宙を駆け巡る。


上級火魔法ウルフレーラ!!」


  小柄な猫耳少女の放った直径1メートルにもなる火球は熊のような魔物を業火に包む。


  熊型の魔物の皮膚を焦がし、肉を焼く。


 しかしその魔物はその炎をものともせず、メーナめがけて突進を仕掛けてくる。


  己の命を投げ捨て、ただひたすらに他の命を狩ろうとするその巨体、それを同じく猫耳の女の子、いや男の娘が目の前に立ちはだかり受け止める。


防御魔法プロテクション


 アティスの体の表面に張られたそのバリアは魔物の攻撃を防いだ。


「あたしのお顔に傷を付けるのは100年早いニャ!!」


 アティスの右手に装着されている鉄の鉤爪、それが魔物の喉を深く切り裂く。


  喉から血を吹き出し、ピクピクと痙攣を繰り返すその亡骸を蹴り飛ばして先へと進む。


  魔物たちは混乱していた。


  滅多に人間の来訪のない安住の地、そこに人間が現れた。


  しかも、その人間はとてつもない強さを誇り、着実に頂上めがけて進んでいる。


  魔物たちは住処を圧倒的強者に襲われるという恐怖に怯え、怒り、そして抗おうと、魔物特有の嗅覚を頼りに侵入者の排除に向かっていた。


  普段は敵対しあい、殺しあう他の魔物であってもこの瞬間だけは手を結んでいた。


  だが結果は全滅。


  所詮は下位層の魔物だ。


 ゲツヤ、レミーナ、メーナ、アティスの4人の進撃は破竹の勢いであった。


 レミーナは日が赤くなるのを見て、焦りを隠せなかった。


(まだ、半分も登れてない……)


  1日かけて、しかもこの先は更に魔物が強力になるであろう、今のこの状況にレミーナは焦っていた。


 正直なところ寝る間すら惜しい。


  とはいっても、ここで休まずに進んで全滅……それだけは防がねばならない。


 よって夜間の休息は省けない。


  レミーナは1人悩みながら食事をとっていた。


  山の中腹にて焚き火をして野宿をすることにした。


  食べられる物はただの携帯食料。


 味のしないそのパンを乾かしたものは、昨晩の幸せなひと時と今とを対比しているかのようであった。


  交代制で見張りをしようとレミーナがゲツヤに提案したところ、「俺が一晩中するから……」と頑なに意見を通された。


  徹夜して、翌朝には死んでましたでは意味が無い、そう思いつつも「ゲツヤ君ならできる」という謎の根拠のない自信がゲツヤの意見を聞き入れる形となった。


 メーナとアティスは事前に用意しておいた寝袋を使いすっかり眠ってしまっている。


  ゲツヤは周囲の見張りをすると言って何処かに行ってしまった。


  どこにも放つことのできない焦燥感を胸にしまい、レミーナは1日の戦いで乱れきった銀髪を結び、寝袋の中へとゴソゴソと入り込んだ。


 そして何事もなく夜が明けた。


  朝日が眩しい。


  目を覚ましたレミーナは、まず他の全員の無事を確認した。


 メーナとアティスはレミーナのすぐ側で寝ていたので、起こそうと体を揺さぶり頬を軽く叩いた。


  未だ眠そうに顔をこする2人を見て、レミーナの心が少し休まる。


  先に進む準備を整えていると、ゲツヤが山の上の方から歩いてきた。


  どうやら一晩中、レミーナたちが襲われないように見張っていてくれたらしい。


「ありがとうございます。」


  レミーナの感謝の言葉に全く反応を見せないゲツヤ。


 それを見て夜の間に何もなかったことをレミーナは確認した。


 一行は軽く準備を済ませたのち、再び山を登り始めた。


  登山開始2日目、昨日の苦労が何だったのか、全くもって魔物との遭遇が無い。


 おかげでスムーズに先へと進めるのだが、気味が悪いというのがレミーナ、メーナ、アティスの3人の心境だ。


 ピュロン山は魔物の住処であり、こんな平穏が訪れることはないはずだ。


「おっかしいなぁー、魔物さんがいないんじゃボクの魔法も使えないよー!」


「確かにいニャいってのはおかしいニャ?」


  足を動かしつつ3人がこの疑問にモヤモヤしていると、ゲツヤからとんでもない事実が明らかにされた。


「ああ、ここら辺の魔物なら夜に粗方片付けといた……」


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」


 レミーナたちは驚いた。


 驚きに驚いた。


 仰天だった。


 昨日のことからゲツヤは魔物を倒しながら進むことの非効率さを身をもって知った。


 そこで、夜のうちに山の上の方まで登り、魔物を掃討していたのだ。


「さっすが!!ゲツヤのお兄ちゃん!!」


 メーナがゲツヤに飛んで抱きついている。


  それが満更でもないかのようなゲツヤ。


 それがレミーナには少しばかり面白くない。


「昨日はあまり目立ってなかったけど、お兄さんってあたしくらい強いのかニャ?」


「そ……そんな無茶なことをしてたんですか……。ほんとゲツヤ君には呆れるばかりですよ!!」


  レミーナたちから見ればゲツヤは勝手に1人で危険な真似をしたということになる。


 結果論としては成功だが、失敗することもあり得たわけだ。


 だが成功に終わり魔物はぐんとその数を減らした。


 その事実がレミーナの心に余裕をもたらしたからか、自然に笑みが零れる。


  そんなレミーナを見て一瞬、ほんの一瞬だけゲツヤ君の口元が緩んだ……彼女にはそう見えた。


 この勢いだと後1日もあれば頂上にたどり着けるであろう。


 それからしばらくの間、ほとんど魔物と遭遇することなく日が暮れるまで山を登り続けた。


 気がつけば警戒こそすれど、多少は話を交えて楽しみながら登っていた。


  残り3分の1となった山頂までの道のり、ゲツヤたちは明日に向けて再び野営をすることとした。


  闇夜の中、呪剣カストールを携え、ゲツヤは先へと進む。


  浮遊魔法ウィール風魔法ウインラを用いて飛行し、先を探る。


  このまま、頂上まで行きたいのだが、それでは夜が明けてしまう。


  また、あまりにも地上から離れて飛ぶと強風により制御が効かなくなる。


  結果としてゲツヤにできる最良の選択はこれであった。


  探知魔法プサクフで半径10キロ圏内の人や魔物の位置情報を探り、一匹一匹を仕留める。


  大概は一撃で終わる、と思ったもののそう簡単にはいかない。


 昨晩からすると相当な高さまで山を登った、故に生息する魔物の強さが桁違いのものとなっていた。


 軽い一撃ではその命を落とさない魔物が増えてきている。


 尚更急がなくては、尚更先に排除しておかなければという思いが強まる。


 魔物の掃討を一晩で終わらせる、そのことへの焦りが増大していた。


  確実にこのままではいつか誰かが良くて負傷、悪くて死亡してしまう。


 そう確信を得たゲツヤはひたすら闇を掻き分け、魔物の首を刎ねる。


 黙々と魔物たちの息の根を止めていると、いつのまにか夜明けが迫っていた。


 そしてそのとき気づいた。


  頂上付近に魔物たちが大量に集まっていることに……


  魔物たちは一箇所に集まっていた。


  しかも、自分たちにとって圧倒的に地の利が働く場所。


  ゴツゴツとした巨大な岩がいくつも転がるこの場所には多くの抜け道がある。


 魔物たちはそこでこれからくるであろう招かれざる客を迎え撃つべくヒッソリと息を潜めている。


  魔物にも知恵の働くものはいる。


  高度な魔物であれば言葉を理解する個体さえいる。


  このピュロン山の魔物たちを一箇所に集めた魔物も言葉を理解できるとまではいかないが、ある程度知恵を備えた魔物であった。


  そピュロン山の魔物を統べる強大な魔物は自分の生息地を脅かさんとする人間を迎え討とうとしている。


  地龍ランドドラゴン、彼は襲撃者を今か今かと首を長くして待っていた。













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