ユメヒトヨ
こんな夢を見た。
私は一人の女だった。
父は王に仕えた。
だから私は王子と幼馴染だった。
私が十八のときだった。
父は王に反旗をひるがえし、殺された。
当然、娘である私も捕らえられた。
「春蘭…」
牢屋に入れられた私に会いに来た王子。
王子は鍵を開けて牢屋に入ってきた。
悲しかった。
私の夢は王子の妻となることだった。
「私は裏切り者の娘。
もうあなたの妻になることは出来ないのですね」
私は無理に微笑んだ。
「そんなことはない!
誰が何と言おうと、妻になるのは君だけだ…!」
嬉しかった。
そう言ってくれたことが何よりも嬉しかった。
強い腕が私を抱きしめる。
ああ、この温もりに触れることは、もうないのだ。
涙を必死に堪えた。
「いけませんよ。
次代の王となられるお方が、こんなことでは」
「なぜだ?
君は何もしていない。
だから傍において何が悪い?」
まるで子供のようだ。
彼のそういう性格を愛おしいと思う。
「わがままですね」
私の一言に彼は眉をひそめた。
いつもそうだった。
不機嫌になるとそんな顔をする。
「ずっとあなたの妻になることを夢見ていました」
そうしてそれが現実になることを疑いもしなかった。
ずっと傍にいたから。
これからもそうなのだと信じていた。
それなのに、その夢は一夜にして崩れてしまった。
「ならば叶えよう」
彼はそう言うと、王家に伝わる首飾りを私にくれた。
それは婚姻の証。
代々受け継がれていく大切なもの。
ああ、ずっと欲しかったものが手に入ったのだ。
私は首飾りに触れ、微笑んだ。
彼の胸にあった首飾りは温かかった。
彼が私を抱き寄せる。
優しく、強く、包んでくれる。
もう十分だと思った。
「どうか、強くなって下さい」
そうしてこの国を守って下さい。
私はいつも身に付けていた薬を飲み込んだ。
それは、いつか彼のために使おうと思っていた薬だった。
鋭い痛みの後、口から血が溢れてきた。
驚いた彼の顔が見える。
崩れ落ちる私を抱きかかえ、泣いている。
私は彼の頬に手を伸ばして触れた。
彼が私の手を握り返した。
「ありがとう」
もう目が霞んで彼の顔を見ることが出来なくなっていた。
「春蘭…!」
遠くで彼に名前を呼ばれた。
泣かないで。
そう言いたかったが、声もでなかった。
私は愛しい人の腕の中で死んだ。
それは穏やかな終焉だった。