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謎茸奇譚  作者: 鹿島
3/6

ロープウェイ

『ピーンポーン!ピーンポーン!』


ボタンを押す者の気持ちを代弁しているかのようにドアチャイムが鳴り響いた。


「はいはい、すぐ開けるからそんなに何度も鳴らさないでよね!」


小言をいいながら玄関のドアを開ける泉。外は相変わらずの晴天で、玄関にはその晴天にも負けない笑顔の悟がたっていた。


「おはよー!昨日はよく眠れたか?」

「まあまあね。コテージのベットは最高だったけど、はじめての場所だし緊張しちゃってさ~。真奈はどう?」

「私もよ。いろいろ考えてたら寝付けなくて。」

「俺も!真奈をどこに案内しようか考えてたら眠れなくて!」

「えっ!?私もいるんですけど!」

「あ、あははは」


3人は挨拶を交わしおしゃべりを楽しみながら靴を履き、早速ロープウェイへと歩き始めた。

コテージの右隣がショップマッシュ。左へ5分ほど歩いたところにロープウェイの乗り口がある。

ロープウェイの停車駅は椎山の麓、中腹、頂上の3ヶ所。

中腹には御茸の広間というお祭りなどが開かれる野外スペースがある。大昔には祠があったそうだが、今は廃れてしまっていて何も残っていない。

頂上には御茸寺とマッシュパークがある。

御茸寺は霊山椎山を信仰の対象とする場で、寺と言いつつも仏教ではなくアニミズム信仰の拠点となっている。熱心な信者が集まりちょっとしたコミュニティが築かれているが、変な団体のように自分達の考えを押し付けてくることは皆無だ。それどころか、山を管理したり、地域のボランティアに積極的に参加したりしており、周辺地域に自然と溶け込んでいる。

マッシュパークは小さな遊園地とふれあい動物園と土産物屋が合わさった施設である。レストランや授乳コーナー、トイレなどの設備が充実しており、子育て世代に人気のスポットとなっている。


「今日は頂上まで行って御茸寺を見学して、マッシュパークで昼めし。で、その後にパークで遊んでお茶でも飲んで帰ってこようぜ!」

「オッケー!悟にまかせるわ!面白くなかったら…分かってんでしょうね!?」

「おう!まかせとけ!」

「私はお昼ごはんが楽しみだわ。マッシュパークのレストランは評判だから。」

「大丈夫!真奈もきっと気に入ると思うぜ!なんたってあのレストランは俺のおじさんとおばさんがやってるんだ!おばさんはお袋の姉さんでさ…昨日の弁当、喰ったろ?あれ作ったのお袋なんだけど、その3倍はうまいから!」

「マジ!超楽しみ!昨日のお弁当もめっちゃ美味しかったんだから~!ね、真奈!」

「そうね、期待しちゃうわね」

「そう言ってもらえると、俺も嬉しいぜ!伝えとくよ、お袋も喜ぶだろーし!」


そんな風に盛り上がっていると、ロープウェイはあっという間に中腹の駅に到着した。


『広間~広間~!お降りの際は、お足元にご注意ください。』


降車案内のアナウンスが流れると、ロープウェイの扉がゆっくりと開いた。この駅で降車したのは竹箒や草刈り機を担いだよく日に焼けた初老の男が6人、スケッチブックと画材の入った鞄を持った中学生くらいの女の子が2人。それと、Tシャツにショートパンツ、サンダルといった軽装で荷物も小銭入れとスマホがようやく入りそうな小さな鞄ひとつ持った大学生くらいの女が1人。


(清掃請負業の人と夏休みの美術課題の子か。最後のあの女性だけなんだか浮いてるな。少し引っ掛かるが…)


真奈が降車する客の様子を見つめていると、悟が驚いたように話し始めた。


「あれ!?今降りてったの楓さんじゃねーか?こないだまでうちでバイトしてた人なんだけど、私生活が忙しくなるからって辞めちまったらしいんだよ。そういやあ、楓さんが最後の1人だったんだよなぁ。ってか、広間に何の用だ?何もねーぜ、ここ…」

「さあね~。あ!あれじゃない?引っ越すから、最後に住んでた街を見たくなった的な?ここなら麓の街が一望できるじゃない」

「あー、そーかもな…。でも、一望したいなら頂上がおすすめなんだけどなぁ。展望デッキがあるし、望遠鏡もあるしさぁ!」

「それはあんたの好みでしょ!あの人はここで十分だと思ったんじゃない?っていうかさぁ、あんた楓さんとやらに気があるんじゃないのぉ?やけに気がかりみたいじゃな~い」

「ばっ!ばかじゃねーの!俺は別にそんな…!気とかねーし!」

「だよね~!あんた、真奈ひとすじだもんね!相手にされてないけど(笑)」

「おいっ!」


悟と泉のやり取りを聞きながら真奈は楓という女性を目で追った。一緒に降車した一団はそれぞれ仲間たちとともに広間の石畳の方へ向かっている。この場はそこしか目的地がないような場所であるからなんの違和感もない。しかし楓は1人、違う方向へ歩いているようだった。


(あの方向…山に入るのか?)


真奈がもう少し様子をうかがおうとした時だった。


『ジリリリリリーーー!お待たせいたしました。まもなく出発いたします。ドアが閉まりますのでドア付近にお乗りの方はご注意ください。次の停車駅は頂上です。』


けたたましいベルが鳴り、発車案内のアナウンスが流れた。到着した時と同じようにゆっくりとドアが閉まり、駅員の笛の合図を受けロープウェイは再び登り始めた。

真奈がもう一度広間の方へ目をやった時には、楓の姿はもうなかった。

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