第九章 疑惑
華那に会ってから一週間が過ぎて史朗は華那が教えてくれた番号に電話をしてみた。
「もしもし、山形です。土田さんのお宅ですか」
「はい。土田です」
「もしかして華那さん?」
電話に出たのは咲恵だった。
「いいえ」
「すみません。華那さんをお願いします」
「……」
しばらく間があいた。
「華那さんはいらっしゃいますか」
「いません」
突っ慳貪な返事だ。
「じゃすみませんが山形がこの前のスタバで待ってますと伝えてもらえませんか」
「CDショップの先のスタバ?」
「はい。そこです」
ガチャンと電話は切れた。
スタバで山形は華那が笑顔で入ってくるかと出入り口を見つめていた。だが一時間過ぎても二時間過ぎても華那は来なかった。
「おかしいな。ちゃんと電話をしたのになぁ」
咲恵は山形と言う男がどんな奴か知りたくなった。それで華那には伝言を伝えずに密かにスタバに行ってみた。客は少なくカップルが二組の他に学生風の男が人待ち顔で入り口の方を見ていた。咲恵が店に入った時もはっと自分の方を見ている感じだった。咲恵は店を出ると外から店の中を覗いて男の顔を確かめた。
「華那の彼氏だな」
と呟くと家に戻った。
史朗は一週間後もう一度華那に電話を入れた。
「もしもし、華那さん?」
「……」
「もしもし、土田さんのお宅ですよね」
「あんた、華那、華那と言うけどそんな子は家にはいないよ」
ガチャンと電話は切れた。史朗は電話の相手を訝った。確かに[そんな子]と言っていた。おかしい。相手が華那に関係のない者であれば、華那がそんな子だと素直に口には出ないものだと史朗は思った。