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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第八十章 華那の結婚

 自分の中にこんな激しい感情があったのかと思うほど華那は史朗の心地よい愛撫に応えて燃えた。二人は窓の外が薄明るくなるまで愛し合った。


 何時間眠っただろう。

「もう十時過ぎだよ」

 華那は史朗に揺り起こされてやっと目が覚めた。遅い朝食か早お昼か、兎に角二人はレストランに行って食事を済ませると、近くのパルメンガルテン植物園に歩いて向かった。エントランスまで三百メートルくらいしかない。公園は綺麗で静かだった。

「華那さん、結婚しないか? 一度失敗したけど、華那さんとなら上手くやって行けると思うんだ」

「あたしも、史朗さんの奥さんにならなってみたいな。でも条件があるの」

「どんな条件?」

「養父母と同居して欲しいの。この条件がダメだったら、あたし結婚できないよ」

「それなら大丈夫。僕は次男だからさ、しかも一度離婚してるから親は反対しないと思う」


 二人は同じ飛行機で隣り合わせの席にした。成田に着くまで、史朗は華那の手をずっと握っていた。華那はもし史朗と結婚したらこの手を絶対に離すまいと思った。

 成田に着くとまた近々会う約束をして華那は史朗と別れた。

 久しぶりに家に戻ると美華がくっついてきて離れなかった。

「美華、ずっとお留守してごめんね。お利口さんしてた?」

「美華はお利口さんしてたよ」

 両親と世里子と皆で夕食を済ませた。澄子はご苦労様パーティーをしている気持ちで華那をもてなした。史朗のことは明日打ち明けることにしよう。そう思ってその夜は美華を抱いて眠りについた。


 史朗と華那はお互いに良く知っている仲だから、結婚前にデートを重ねる必要はなかった。

「お父さんとお母さんにお話したいことがあるの」

「なんだね? 改まって」

「実はフランクフルトで昔勉強を見て下さった方に偶然出会ったの。それで彼にプロポーズされたんだけど一度会ってくれない?」

「そう、良かったじゃない。わたし、あなたがずっとこのまま独身を続けるのか心配してたのよ。是非連れていらっしゃい」


 数日後の日曜日、史朗は手土産を持って新道家を訪ねてきた。

「今どこにお住まいですか?」

 澄子は史朗を見て第一印象は○だと思った。それで細々としたことを聞き始めた。離婚のことなどは予め華那から聞いていた。

「品川駅近くに1DKの小さなマンションを借りています」

「お勤めも近くなの?」

「はい。会社は芝浦にあるK松ですので山手線で二駅目です」

 澄子は久が原から通うとすれば一時間はかからないと先回りして考えていた。

「K松とはあの大手の商社かね」

 美津彦が初めて尋ねた。

「はい。その通りです」

 澄子が続けた。

「華那のこと本当はどう思っていらっしゃるの?」

「華那さんとなら絶対に幸せになれると思っています」

「美華のことは?」

「娘さんが生まれた経緯は良く知っています。真っ先にどうしたら良いか相談を受けましたから。美華ちゃんが僕に懐いてくれるよう努力します」

「華那が相談した時、どうお答えになったの?」

「僕は本当に相手と愛し合っていたら産れてくる他人の子も一緒に愛するだろうなって言いました。でも両親が猛反対したら結婚は無理だとも言いました」

「そうだったの。あなたのご両親が華那との結婚をお許し下さることが大前提ってことですね」

「はい。親の反対を押し切って結婚しても華那さんが本当に幸せになれるとは思いませんから、その場合には別れるしかありません」

「で、今回はご両親は何て言ってらっしゃるの?」

「離婚してますから良い相手なら子供さんがいる人と結婚してもいいと言ってます」

「ご結婚なさったら華那と美華を連れて品川に住むおつもり?」

「いえ、華那さんのたっての願いなので、ご両親がお許し下さるならここに同居させて頂きたいと思っています。そのことは僕の両親にも言ってあります。華那さんが一人っ子だから仕方ないと納得してもらいました。もちろんご両親を大切にします」


「華那と結婚してやってくれないか? ただし華那は可哀想な子でね、もしも君が華那を悲しませるようなことをしたら僕は許さんぞ」

 美津彦がはっきりと言った。


 史朗の両親と顔合わせが済むと、山形家から結納が届けられた。結婚式は都心の神社で済ませた。史朗と華那の友人が大勢集まり賑やかな結婚式だった。


 新婚旅行は華那の意見を入れて北欧にした。ベルギー、オランダを経由してデンマークからスエーデンを回りノルウェーまで二週間旅した。

 新婚旅行から戻ると史朗は荷物をまとめて華那の所に越してきた。

 その日から、家族五人の楽しい生活が始まった。心配した美華は史朗によく懐き、まだオジサンと呼んだが仲良く過ごし始めた。

 華那は美華に素敵な父親ができて良かったと思った。


 結婚後華那は早速新しい事業の立ち上げに邁進したが、史朗は不服を言わず華那を支えてくれた。

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