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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第六十二章 終の棲家の完成

 デザインが決まり工事が始まって半年が過ぎた。工事は大手のMハウスが担当したが、下請けとして朝倉の紹介で下町から腕のいい棟梁が何人かの職人を連れてきたので丁寧な造りになっていた。ささやかな竣工式が終わり後片付けを済ますと美津彦の終の棲家は完成した。盛り土のお陰で陽当たりが良く南側の眺望もまずまず、明るい家となった。

 一緒に棲みたいと言っていたデザイナーの邦子は、

「やっぱ自信がないからやめときます」

 と気まずそうに頭を下げた。美津彦は邦子のような可愛い娘が欲しかったが無理強いはしなかった。

 家具会社から家具が届き、家電の量販店から電気器具が届くと家らしい雰囲気になった。庭には知らぬ間に雑草が育ち始めて、草むしりも一仕事だ。


「あなた、最近よくお出かけするわねぇ。外にいい(ひと)でもできたの?」

「バカいっちゃいけないよ。この年で不倫なんてしている元気はないよ」

「ほんとかしら?」

「何年夫婦やってんだ? 今更澄子を裏切ってまで遊ぼうなんて考えてないよ」

 田舎町の家に帰ると妻の澄子は最近ちよくちょく出かけるので訝った。だが、美津彦は終の棲家が完成したことは伏せていた。


 広い家に一人で居ると家事が苦手な美津彦は掃除洗濯に困った。それにやや広くとった庭の手入れも気になった。雑草は容赦なく()い茂ってくる。そこで、お手伝いさんを雇おうと決心した。


 一日殆ど自分の仕事部屋で過ごす美津彦は株式相場が終わるとお手伝いさん募集の公告案を考えてみた。


 お手伝いさん募集

 年齢を問わず、ガーデニング、掃除、洗濯が好きな方

 給与は月額二十万円、賞与は夏冬各一ヶ月分程度

 勤務時間はフレックス制で一日五時間程度

 社会保険(厚生年金、健康保険、雇用保険)

 及び有給休暇有り

 子育て中のシングルマザー歓迎


 ご希望の方は電話を下さい。〇三・××××・××八八

株式会社ミツシン


 美津彦は資金管理を目的としてミツシンと言う屋号の法人登録をしていた。週に一回程度契約している会計事務所から若い女性がやってきて伝票整理などをやっている。半田世里子(よりこ)と言う名の未婚女性だ。


 街の広告代理店と相談した結果、久が原だと蒲田に近く、蒲田界隈の方が適任者が見付かり易いと言うのでその辺り限定で新聞の折り込み広告を出すことにした。

 折り込み広告を出すと直ぐに反応があり、十三名もの応募者があった。美津彦は蒲田駅前の小さなカフェーを借り切って面談をすることにした。当日会計事務所の女性に手伝いを頼んだ。

「久が原の駅前の洋菓子店でロールケーキを二本ずつ入れた紙袋を十二個頼んでおいてくれないか」

「はい。今度の日曜日ですよね」

「ん。それと封筒に五千円を入れてそれぞれの袋に入れておいてくれ」

「交通費としてですか?」

「経費で落とせれば何でもいいよ」

「あのう、十三名応募がありましたよね。十二でいいんですか?」

「ああ、内定者には渡さないつもりだ」

 世里子は会計事務所の社員だけあって税理にも詳しい。


 土曜日の夕方若い女性から電話があった。

「お手伝いさんの募集、まだ間に合いますか?」

「応募者が多くて締め切ったよ」

「あたし、どうしてもやらせてもらいたいです。ダメでしょうか?」

 女は食い下がってきた。

「仕方がないですね。じゃ、明日日曜日の午後一時に蒲田駅前のサロメと言うカフェーに来て下さい。遅刻はなしだよ」

「嬉しいっ、あたし絶対に行きます」

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