第四十章 美華の成長
一年が瞬く間に過ぎた。美華は病気もせずすくすく成長し始めた。華那は美華の世話に慣れてくると、積極的に家事を手伝った。平日の昼間は君子がパートで働きに出ているから家に残るのは華那と美華だけだ。掃除洗濯を済ますと食料や日用品の買い物に出た。買う物は前日に君子に聞いてメモを取り、毎日メモを片手に買い物をして、ついでに図書館に寄ったりCDショップを覗いた。
高校生の時、時々立ち寄った花屋があった。
「随分歳が離れた妹だわね。あらぁ、可愛いじゃない」
花屋の奥さんはおんぶした美華の顔を見てあやした。
「妹じゃなくてあたしの赤ちゃんです」
「えっ、華那ちゃんの子供?」
「はい」
「あらぁ、いつ結婚なさったの。 言ってくれればお祝いを差し上げたのにぃ」
「結婚はしてません」
「そうなの?」
「はい。あたし、シングルマザーです」
花屋の奥さんは驚いた顔をして奥のお婆ちゃんを呼んだ。
「華那さんのお子様ですってよ」
「そう。可愛らしいね。あんたみたいに綺麗な娘に育つといいね」
お婆ちゃんは美華の手を握ってあやした。
「また遊びに寄りなさいよ」
「はい。失礼します」
花屋の奥さんもお婆ちゃんも華那のことは良く知っている。花屋に立ち寄るといつも良くしてくれた。それで時々立ち寄るようになった。
姉の咲恵は大学に通っていたが休日もお出かけして殆ど家に居ることはなくなっていた。相変わらず華那には冷たく、美華を蔑んだ眼差しで見た。
「ママ、来週から夜だけコンビニでアルバイトをするよ」
「美華はどうするの?」
「寝かしつけてから出るから、ママ、様子を見てよ。様子を見るだけでいいから」
「仕方ないわね」
予定通り一週間後から華那はコンビニに勤め始めた。午後八時から午前二時までだ。夜中に帰宅するといつも美華はすやすやと寝ていた。一ヶ月が過ぎて初めて給料を受け取った。わずか十万円しかなかったが、今まで小遣いに不自由して、美華の物を何も買ってやれなかったが、これで少しは買ってあげられると思うと嬉しかった。
こうして二年が過ぎて華那は二十歳の誕生日を迎えた。かねて予定していた通り、役所で岸田華那として住んでいた住所を自分の本籍地に決めて移籍の手続きをした。自分の本籍地が決まってから、娘の美華を自分の戸籍に移籍手続きを済ませた。これで晴れて美華は自分の娘だと実感が湧いてきた。
「ママ、相談があるんだけど」
「改まって、どうしたのよ。相談って何?」




