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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第三十九章 子育ての始まり

 大学への進学を諦めた華那は高校卒業後の五月に無事出産した。女の子だった。未成年だから自分の戸籍は持てない。それで産れてきた子供は父親の養子として戸籍に入れてもらうことになった。

 病院のベッドで隣に寝かされた赤ちゃんを見て、華那は自分の血が流れた家族ができたと思った。小さな可愛い手、そっと触れると娘は華那の手をしっかりと握った。ママ、いつまでもこの手を離しちゃ嫌よとまだ目もはっきりと見えないかも知れない赤ちゃんが自分にしがみついて訴えているように思えた。

「大丈夫よ。ママは決してこの手を離さないから」

 華那はそう呟いてこれから先どんなことがあってもこの手を絶対に離さないようにしようと決心した。


 退院すると、母の君子は産後の養生はとても大切だからと華那の身体を労ってくれた。産む前まではそんなことはないと思っていたが予想に反して君子は優しかった。

「この子の名前だけど、考えてある?」

「まだ決めてない。あたし可愛らしい名前がいいな」

「華那は可愛らしい名前だから、そうねぇ、調べてみたら、華那の華と言う字は花が美しく咲き揃った枝って意味だそうよ。ママは美華(みか)にしたらどうかなと思うんだけど」

「ママ、それ素敵だぁ。パパがOKなら美華でいいよ。可愛い名前だな」

 父親の敏夫に相談すると、

「僕はこの子を認めたわけじゃないから勝手にしてくれよ」

 と素っ気なく突っぱねられた。

「華那ちゃん、美華にしましょう」

 君子は不満そうに夫の顔を見た。敏夫は顔を背けると部屋を出て行った。

 役所に敏夫の養子として美華の出生届を出すと華那の気持ちは落ち着いてきた。華那が成人になったら華那の戸籍を作って移籍するつもりでいた。


 十日も過ぎると華那は美華の世話で忙しくなった。君子は自分の孫だと思って美華を可愛がってくれたから、毎日平和な日々を過ごすことができた。

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