第三十二章 母子手帳
史朗がくれたお金で病院と民宿の支払いを済ますと、華那は勉強に専念した。学校の図書室の蔵書は充実していた。やはり歴史が長い学校は大したものだと改めて感動させられた。華那は放課後図書室で色々な本を読みふけった。周囲のクラスメイトは大学受験勉強に時間を取られ、友達同士お茶したりお喋りする機会は殆どなくなった。華那は入試問題の参考書も読んだが、それよりも英語や仏語、中国語など外国語の参考書を読む量が増えた。進路は漠然としか決めていなかったが、史朗が理工学系で、最近理系女の人気が高いことから自分も理工系の学部に進みたいと思っていた。
史朗に会ってから一ヶ月半ほど経って予定日より半月過ぎても月のものが来ないことに気付いた。それで薬屋で妊娠検査薬を買ってきてトイレで使ってみた。
小水をかけてから線が出る窓を見つめている時の気持ちは何とも言えない祈るような気持ちになった。見つめていると、最初うっすらと線が出て、その内はっきりとした縦線に変わった。検査結果明らかに妊娠の表示が出てしまったのだ。レイプされてから二ヶ月も過ぎている。
「あたし、どうしよう」
しばらくぼんやりしていたが、トイレを出ると病院の婦人科に行った。学校には急用で半日休むと届けを出した。
産婦人科の前では小さな子供や妊婦が大勢受診待ちしていた。誰もが幸せそうな顔をしている。
「あたしみたいな人、いないだろうな」
そう思いながら周囲を見ていると、
「土田さん」
と呼び出しがあった。病室に入ると女医さんがそこに座ってと手招きした。予め問診票で妊娠検査と伝えてあったためか、超音波診断と尿検査をしてくれた。
「おめでとう。あなた妊娠されてるわよ」
にこやかに話しかける女医さんの顔を複雑な気持ちで見た。
「あなたまだ未成年だわね。妊娠がはっきりしましたから役所に行って妊娠届けを出して母子手帳をもらっておくといいわ。お大事に」
費用が心配だったが一万円で少しおつりがきて助かった。史朗に余計にもらったお金が役にたった。
役所の窓口で母子手帳を受け取った時、初めて自分のお腹に赤ちゃんが出来てしまったのだと実感がこみ上げてきた。
妊娠したことはまだ母親の君子には打ち明けていなかったが、朝食の時急にむかむかしてトイレに駆け込んだのを見て、
「華那、もしかして妊娠するようなことしたの?」
と君子に聞かれた。横で聞いていた咲恵が驚いた顔で華那を見た。咲恵は多分史朗とHしたに違いないと思った。
華那は咲恵が居るところで答える気にはなれなかった。
「お母さん、学校から帰ってからにして」
そう言い置くとそそくさと家を出た。




