第三十章 襲いかかる不安
婦人科の医師にもしかして妊娠するかも知れないと言われたことがいつまでも頭の中に残っていて。華那は不安な日々を過ごしていた。あれから一週間も経たないうちに、華那の勉強机の上に二通の封書が届いていた。婦人科の病院と宿泊した施設から請求書だ。産婦人科の請求書の中には診断書が同封されていた。多分母親の君子が置いたに違いない。
案の定、
「華那、病院から届いた郵便、何なの?」
と君子に聞かれた。
「何でもないよ。旅行先で車酔いしたから診てもらったんだ」
「そう? それなら心配ないけど、何かあれば正直に話してちょうだいよ」
「分かった」
華那はうまく誤魔化せたと思った。病院の請求額は二万五千三百円となっていた。こんな大金を華那は持っていないからこっちの方が問題だ。宿泊施設の方は六千五百円、合わせて三万一千八百円だ。こんなお金を母にお願いしたら、確実に白状させられてしまうと思うと不安になった。
夏休みが終わって新学期が始まった。学校に通う途中、ついあれこれ考えてしまう。お金をどうするか思案したあげく、史朗に貸してくれと頼んでみようと思った。
しばらくぶりに史朗に電話をかけてみたが通じなかった。それで、近日中に会いたいです。メールを見たら電話を下さい。念のためあたしの携帯の番号です。とメールを入れておいた。二日経っても史朗から何も連絡がなかった。華那は珍しくあせった。史朗さんに会えなかったらどうしよう。もう一年以上会ってないからあたしのことなんか忘れちゃったのかなぁとかまた色々考えてしまう。
四日後に史朗から電話が来た。
「華那さん、しばらくだね。ずっと元気にしてた?」
「はい。ご無沙汰してしまってごめんなさい。また会ってくれます?」
「ああ、いいよ。骨折して一週間ほど入院してた。携帯、電池切れちゃってさ」
「そうなんだ。どこの骨を折ったんですか」
「左足の臑のあたり」
「痛かったでしょ」
「そりゃ痛かったよ。バスケで遊んでいる時転んで、打ちどこが悪くてさ、折れちゃった。痛いのなんのって死ぬかと思ったよ」
と史朗はカラカラと笑った。多分大分回復しているのだろう。
「じゃ、直ぐに会えないよね」
「まだ杖をついてるけど、会いたいなぁ」
二日後に会ってもらえることになって華那は良かったと思った。史朗には全てを打ち明けて助けてもらおうと思った。




