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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第二十三章 出会い

 夕方六時、咲恵はネットで教えられた場所に出かけた。母親の君子には学校が終わってからお友達とお茶する予定で帰りが遅くなると思うと告げてあった。だから君子は全く心配をしていなかった。


 目印の茶封筒を持った男をキョロキョロ目で捜したが、約束の場所にはそれらしい男は居なかった。三十分ほど待ってみて、来ないので仕方なく帰ろうとすると、

「もしかしてハナさん?」

 年配の、多分四十歳を少し過ぎていると思われる男が咲恵に近付いてきた。咲恵はネットではハナと言う名前で登録していたから、相手はハナさんと声をかけて来たのだろう。

「はい、ハナですが」

「良かったぁ。僕は次郎、森口次郎です。よろしく」

「うそぉ、ネットでは二十七歳って書いてありましたよ」

「あはは、ごめん。正直に歳を書き込んだらハナさんは来なかったでしょ?」

「もちろん来ません」

 咲恵は内心腹が立った。怒って帰ろうとする咲恵の腕を男はつかんだ。

「せっかく来たんだから、何かご馳走させてくれよ。今夜は親しい仲間が集まっているから一緒に来てよ」

 男はぐいぐいと咲恵を引っ張って行ってタクシーを呼び止めて咲恵を押し込んだ。

「新橋駅前のチャボロック」

 次郎が告げるとタクシーは走り出した。店の前で降りると、咲恵を引っ張り出して店の暖簾(のれん)を潜った。

「おいっ、次郎遅いじゃないか」

 店の中では数名の中年男がテーブルを囲んでいた。この界隈では有名なちょっとした焼き鳥屋だ。香ばしい焼き鳥の匂いが立ちこめていて、咲恵は急に空腹を覚えた。

「紹介する。こちらは友達のハナさんだ」

「へぇーっ、相変わらずだなぁ。今日は新しい彼女かぁ」

 咲恵がちょこっと頭を下げて挨拶すると、向かい側に座っている男と目が合った。見つめられているうちに、咲恵の胸はドキドキしてきた。

「こっちに来ませんか?」

 男が手招きすると、他の男たちも行け行けと目で合図している。咲恵は次郎にちょっと会釈して手招きした男の横に座った。

「一目惚れって言うのかなぁ、僕のハートがあなたに鷲づかみされて取られちゃったよ」

 と男は胸に手を当ててはにかむように笑った。その笑い方が咲恵には新鮮に感じられた。

「僕は加藤利昭(かとうとしあき)。よろしくな」

 と手を出した。咲恵は軽く利昭の手に触れると顔がほてっているように感じた。男は優しかった。咲恵に何を食べたいかメニューを見せて、食べたいものを次々と注文してくれた。

「お酒、飲めるのか?」

「少しなら」

 男は梅焼酎のお湯割りを頼んでくれた。

「乾杯」

「いただきます」

 咲恵は少し酔いが回ってきて利昭の肩にもたれかかった。


 飲み会がお開きになった時には咲恵はかなり酔っていた。

「次郎、彼女は僕が預かるよ。いいだろ?」

 次郎がOKすると、利昭はタクシーを拾って近くのホテルで降りた。咲恵を抱きかかえるようにフロントに向かうと部屋を取った。

 部屋に入ると咲恵を抱きかかえてベッドに寝かせて利昭はメモを残して静かに部屋を出て支払いを済ませた。咲恵に悪戯しようと思えば自由にできたが、利昭は咲恵の身体に触れなかった。利昭はもし次郎だったら、今頃この小娘は次郎の餌食になっているに違いないと思った。

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