第十九章 進学
咲恵が中学三年生の時、学力は概ねクラスの中間であったが、高校に受験した時の学力偏差値は概ね四十六だった。この程度の学力では大学進学率の良い高校には進むのが難しく、結局自宅に近い私立高校に推薦入学した。
蝋梅が綺麗に咲き始めた一月早々、華那は担任教師に呼ばれた。
「土田さん、進学したい高校、もうお決めになったの?」
「はい。第一志望はH高、第二志望はS高にしたいなと思ってます」
「そう? 今のあなたの学力なら狙えるかもね。推薦入学をご希望でしょ」
「いえ、あたしは一般入試の学力検査に応募したいと思ってますけど」
教師は驚いた顔をした。学力検査表に目を落とすと、
「あなた凄いわね。偏差値、七十五もあるのね」
と華那の成績に感嘆した。
「はい。調べてみましたらH高クラスで七十四以上あればなんとか滑り込めそうなので」
「どうして一般入試になさったの」
「腕試ししたいので」
「へぇー、珍しいわね。落ちたらどうなさるの」
「レベルを落として二次募集に応募するつもりですけど」
教師は納得して、華那は自分が考えている通り願書を提出することにした。華那との対話は職員室でもちょっと話題になった。
梅の蕾がほころび始めた二月早々、華那はH高に願書を提出、二月下旬に予定通り入試を受けて、二月末に合格発表を見に出かけた。母親の君子には具体的なことは何も話をしていなかったので、合格発表は史朗に一緒に行ってもらった。
「華那さんの受験番号、これだろ? すごっ、合格だよ」
この時初めて史朗は華那を抱きしめてくれた。華那は合格はもちろん、史朗に抱きしめられて胸がドキドキした。ずっと勉強を見てくれた史朗は自分の妹のように華那をじっと抱きしめていた。
「お父さん、あたしH高に合格したから、通わせてもらってもいい?」
普段はあまり話をしない華那に突然相談されて父親の敏夫は少し驚いたが合格した学校が都立の有名進学校だったので、
「華那、よくやったな。お母さんと相談して通えるようにするよ」
と答えてくれた。
桜の花が咲き揃った四月上旬、華那は私鉄とメトロを乗り継いで片道四十分かけて通学始めた。
そんなある日、警察から電話が来た。君子が受話器を取ると、
「土田咲恵さんはそちらの娘さんですか?」
と問い合わせの電話だ。
「咲恵が何か?」
「あ、詳しいことは来てもらってから、とりあえず署の方に来て下さい」
電話口の警官はやや横柄な応対だった。




