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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第十八章 暴力

 史朗は暴力沙汰を起こしたくなかった。逃げるが勝ちと言うけれど、華那と一緒では走って逃げても直ぐに追いつかれる。

 史朗は携帯で一一〇番を押した。

「不良中学生のグループ数名に取り囲まれて困ってます。直ぐに来て下さい。場所は中学校の正門前です」

「おいっ、どこに電話してるんだよぉ」

 一番体が大きなやつが手を上げた。史朗は絶対に自分の方から刃向かわないようにした。ここでは時間稼ぎをするのが一番だ。


 史朗が二発腹にパンチをくらって膝を折った時、パトカーが到着した。人を殴ったらその時点で暴行罪が成立することを史朗は知っていた。

 警官の姿を見て逃げる少年たちを警官が追いかけて二名が捕まった。史朗と華那は警官に促されて少年たちと一緒に警察署に行った。

「お前ら理由を言えよ」

「こいつらが援交やってるから脅したんだ」

「援交なんてやってませんよ」

 史朗が口を挟んだ。

「おいっ、お前ら援交現場を見たのか?」

「見てないけどよぉ。兄貴がこいつらは援交やってるからお灸をすえてやれって言ってます」

「兄貴とは誰のことだ」

「……」

 警官は暴力団の舎弟ではないかと思った。

「兄貴とやらの名前を言えよ」

「××兄貴と名前を言ってました」

 また史朗が口を挟んだ。

「うるせいな、余計なことを言うな」

 不良少年は史朗を睨んだ。

 結局××兄貴とは中学の風紀担当教師だと白状させられた。警官は驚いて学校に電話をした所、慌てて教頭がやってきた。


 予想もしなかった事件で学校側は対応に困った。こともあろうに風紀担当教師の指示で暴力事件に至ったのだ。警察に通報されてパトカーが出動してしまったので、隠しきれない。万一メディアに情報が流れてしまったら大変なことになる。


 学校側は校長が史朗の両親と華那の両親を訪ねて詫びを入れ、内々に始末をした。


 事件の波紋は瞬くうちに校内に広がり、風紀担当教師は風紀担当から外され、謹慎処分となった。華那に風当たりが強くなったが、華那は相変わらず平然としていた。


 人の噂も七十五日と言われるが、事件の噂が鎮まった頃、華那は中学三年生になり、咲恵は高校生になった。咲恵はあまり成績が良くなく、入試が厳しくない近くの女子高に進んだ。高校生になった咲恵に父の敏夫が携帯をプレゼントした。華那はまだ中学生なので、相変わらず携帯は持たせてもらえないが、史朗との連絡には自宅の電話か公衆電話で充分だった。

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