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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第十七章 押し問答

「君、学生だろ? 学生証を見せてくれないか」

 史朗が出すと教師は史朗の学生証を見て、

「へぇーっ、K大か」

 と呟いた。学生証を史朗に返すと教師は強気に出た。

「君、この子と援交やってるって噂があるんだがね、ネットカフェに連れ込んでいいことやるつもりだったんだろ」

 史朗は教師を睨み付けた。

「仮に援交をやってたとして、何が悪いんですか?」

「君、十三歳未満の少女とセックスしたら相手の同意があるなしに関わらず強姦罪になるのを知らんのか」

「証拠があればの話でしょう。先生は僕が華那さんとセックスをした現場を見たんですか」

「ネットカフェの個室に連れ込みゃ何をしたって分からんと思ってるんだろ? 違うか」

「華那さんが僕に嫌らしいことをされたと言っているんですか?」

「本人が否定してもだ、彼女の姉の証言があるんだよ」

「先生、目の前にいる華那さんを信用せずに他人の話を信じて華那さんを陥れる気ですか」

「他人? この子の姉を他人だと言うのかね。大学生なら常識的に他人とは言わないものだよ」

「先生は何も分かってないですね。華那さんと咲恵さんは戸籍上は姉妹ですが、血のつながりが全くない他人ですよ」

 これには教師は驚いた。その時脇で聞いていた華那の担任教師が口を挟んだ。

「先生、彼の言っていることは本当です」

 風紀担当教師は一瞬言葉がつまったが、

「仮にそうだとしてもだ、姉が自分の妹が援交をやってて止めても聞かないと言うなら姉の方が正しい思うがね」


 史朗は、

「先生と押し問答していてもきりがありません。真面目な生徒を悪いと決めつけて責め立てる先生の品位が問われますよ。援交やって小遣いを稼いで遊び回っている子だったら成績が良くないでしょ。彼女はどうですか?」

 と担任教師を見た。

「華那さんは優秀です。いつも学年で一位か二位ですよ」

 と答えた。風紀担当教師はそのことを知らなかった。

「先生、僕が援交をするような不良学生だと断定なさるなら、僕は両親に今日言われたことをありのままに話して教育委員会と校長を訴えてもらいます。なんなら新聞記者にも話してもいいですよ。こんなにプライドを傷つけられたのは初めてです」

 先ほどから何を言い争っているのかと近付いた教頭が、

「先生、ここはこの学生さんに頭を下げて謝って下さい。ことを大きくされたら学校としても困りますからね」


 結局教師は史朗に謝るはめになりばつがわるい表情をして引っ込んだ。


 風紀担当教師が立ち去ると、担任の教師は、

「山形さんっておっしゃったかしら、少しお話をしてもよろしいですか?」

 と史朗の顔を見た。

「はい。どんなお話ですか? 援交の話でしたらもううんざりなんで話を続けたくありません。ほんとばかばかしい話です」

「いいえ、別の話題です。土田華那さんは以前から学習塾に通ってないのに、どうして成績がいいのか疑問に思ってましたのよ。あなたのような方がご指導して下さってるのですね」

 華那は黙って聞いていた。

「いえ、華那さんと知り合ったのは最近です。実は華那さんが物知りなので僕も驚いているんですよ」

 教師は華那に顔を向けて、

「あなた、普段お勉強はどうなさってるの?」

 と聞いた。

「あたし、たいしたことはしてません。本屋さんの立ち読みとか図書館とかで色々な本を読みます。英語とか数学なんかは図書館から参考書を借りて読んで覚えるようにしてます」

 史朗が口を挟んだ。

「華那さんのすごい所は、パソコンなんか教えてますと、自分で分からない所は図書館で下調べをしてきて、それでも分からない所を質問してくるんです。なので、僕の知識でも答えられないことがあります。そんな時は華那さんと一緒に勉強してます」

「そうなんだ」

 担任の教師は驚いた顔をしていた。

「あなた今中二でしょ? 来年は高校受験の勉強をしなくちゃね。志望校とかは決めていらっしゃるの?」

「特に決めてませんけど、進学校でレベルの高い所に行きたいです」

 華那は正直に答えた。

「今の華那さんの実力ならどこの高校でも受かるよ」

 史朗の顔に微笑みが戻ってきた。史朗は担任の顔を見て、

「ご参考になるか分かりませんけど、華那さんのお姉さん、しょっちゅう華那さんに意地悪をします。僕と一緒に勉強をしていても邪魔するんです。僕は好きじゃないのに片思いされてしまって、結構迷惑してるんですよ。多分援交の話も彼女の意地悪だと思います」


「そんなこと、華那さんは今まで一度も私に話して下さらないの」

「そこが華那さんのいい所ですよ。あんな意地悪されているのに、今まで一度も僕にお姉さんの悪口を言ってません」

 担任の教師は今日の出来事の背景が分かったような気がした。そして、物事を一方的に決めつける風紀担当の教師にも問題があると思った。

 史朗と華那は担任の先生に頭を下げて学校を出た。


 校門を出ると、不良っぽい少年に取り囲まれた。

「おいっ、××兄貴の言うことを聞かねえやろう、ちょい顔を貸してもらおうか」

 ××とは風紀担当教師の名前だ。

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