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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第十六章 風紀担当教師

 華那を指導しようとしている風紀担当教師は学校では厳しい先生として怖がられていた。

「おいっ、土田、この店は十八歳未満の者は入店禁止だ。こんなとこに入って何をするつもりだ?」

「山形さんと言う大学生にパソコンを教えてもらってて、ここで待ち合わせしてます」

「パソコンの勉強ならこんな店でなくてもできるだろ? 援交やってるんじないのか?」

「あたし、そんなことしてません」

「まあいいや。言い訳は学校でじっくりと聞かせてもらうよ」

 華那と教師の間のやりとりをネットカフェの受付の女性は興味深そうに聞いていた。


 教師は華那の腕を引っ張るようにして学校に連れて行った。教師は華那の家に電話をかけた。電話には運悪く姉の咲恵が出た。

「先生、お恥ずかしいですけど、華那は援交やってるんですよ」

「姉として注意してないのか」

「妹は何を言っても聞きませんから」

 この会話で教師は華那が援交目的でネットカフェに入ろうとしていたと確信した。

「援交は犯罪だよ。中学生になればそれくらいは知ってるだろ」

「先生、あたしはそんなことやってません」

「相手は学生だってな。そいつを呼んで聞いてやろうか」

 華那は強気だった。

「いいですよ。呼んで話を聞いてから判断して下さい」

 教師の予想は当たらなかった。普通援交をしている場合は相手方に迷惑がかかることを考えてのらくら逃げ回るのだ。しかし土田は(ひる)む様子がなく堂々としている。

「分かった。電話番号を教えろ」

「教えますが、先生もしあたしが何もいかがわしいことをしてなかったら、彼とあたしにきちっと謝って下さい」

 教師はますます自信が揺らいだ。こんなことは指導を始めてから初めての経験だ。


 史朗はネットカフェに着くと辺りを見回したが華那の姿がない。おかしいなと思いながらキョロキョロしていると受付の女性と目が合ってしまった。

「あのう、土田さんと言う女性は中に入られましたか?」

 先ほど教師との会話を聞いていた女性は、

「もしかして山形さん?」

 と聞き返した。

「あっ、はい。山形です」

「それでしたらさっき学校の先生に捕まって学校に連れていかれました」

「えぇっ、学校に?」

「はい。失礼ですが、援助交際をやってるとか言われて」

「そうですか。援助交際なんて失礼なことを言いますね。僕は一度もそんなことをしたことがないし、彼女には単にパソコンの使い方を教えているだけですよ」

「私にそんなことを言われましても困ります」

 その時史朗の携帯が鳴った。

「××中の教師ですが、山形さんですか?」

「はい、そうです。先ほどこちらで援助交際とかなんとか言っておられたようですが、僕はそんなことをした覚えはありません。これからそちらに伺います。彼女はそんなふしだらな女性じゃありません」

 教師は華那の姉が言ったことと学生が言ったことのどちらが正しいのか分からなくなった。

 そこに史朗が厳しい顔つきで訪ねてきた。

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