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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第十一章 拒否

 史朗は華那の母親らしき女性の応答を聞いて、かけた電話番号は間違っていなかったと確信した。この前に電話をした時には若い女性の声で華那なんて子はいないと取り次ぎを断られてしまった。

 華那は継子か養子で末っ子だと聞いていたから、もしかして意地悪されたのかと推測した。今度は母親らしき人に頼んだのでちゃんと自分の携帯の番号を伝えてくれるだろうと思った。


 咲恵は朝登校途中に友達の携帯を借りて史朗に電話を入れた。

「もしもし山形さんですか?」

 史朗は華那からの電話を待っていた。思ったより早く連絡が来たので、

「華那さん、やっと連絡が取れたね」

 と相手も聞かずに答えた。しかし何か違和感がある。最初に会ったとき、お互いに史朗、華那と呼び合う約束だったのに、今日は山形さんですかなんて呼ぶのはおかしい。

「あのう、山形さんですよね」

「はい」

「一人でも会ってもらえますか?」

「僕は構わないけど」

「良かったぁ。じゃ今日の夕方でもいいですか?」

「いいよ」

「おかしいな。声が少し違うような気がするけど」

 史朗は思わず呟いた。

「なんか可笑しいですか」

「いや別に」

「この前のスタバでもいいですか?」

「いいよ。じゃ六時半ってことで」


「上手く行ったな」

 咲恵は華那を出し抜いて自分が山形とデートできると思うとわくわくした。この前華那に黙ってスタバに様子を見に行った時、山形のスタイルや感じを見てすっかり気に入っていた。華那になりすまして行ってから自分は華那の姉だと説明すればいいやと考えていた。


 夕方五時頃史朗の携帯が鳴った。

「もしもし、史朗さんですか?」

「あれっ、六時半に会う約束じゃなかったっけ?」

「そんな約束してません。今初めて電話してますけど」

 それで史朗は全て分かった。六時半に約束した女の子は華那とは別人、多分華那の姉だろう。

 結局華那がお友達を一人誘って六時に史朗のマンションを訪ねることで話は決まった。史朗は華那の姉らしき女の子から電話があり、六時半にスタバで会う約束のことを敢えて言わなかった。


 史朗のマンションは1DKだが、広くて綺麗だった。

「素敵なお部屋」

 華那の友達の麻里が感嘆した。

 華那と麻里はコーヒーをご馳走になってから史朗にパソコンの使い方を教えてもらった。

「夕飯まだだろ? お腹空かない」

「空いてる」

 華那と麻里が同時に言ったので三人で笑いこけた。

「パスタでもいい?」

「もちろん。あたしたちパスタ大好きだよ」


 史朗は手際よく三人前のパスタを作った。


 七時を過ぎても咲恵の前に山形は現れなかった。山形の携帯に電話を入れてみたが電源を切ってあるらしい。午後八時を過ぎて、咲恵は席を立って家路についた。無茶苦茶にむかついていた。こんなにむかついたのは初めてだ。

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