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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第一章 自転車事故

読者の皆様にお読み頂く三作目は前の二作品よりやや短編です。

いずれの作品も複雑な現代社会を駆け抜ける女性をテーマにしたもので、

好きになった男との出会いと別れなど生きていれば避けて通れない人と人との関わりをどのようにくぐり抜けて行くのか主人公の身になって見守って下さることを期待します。

なお、この作品が終わりましたら続いてやや長編のドラマをアップしようと予定しております。どうかファンになって下さりこれからもご愛読下さいますようお願いします。


 公衆電話機に十円玉を入れて、女はどこぞに電話をかけた。だが何度ダイヤルしても受話器の向こう側で空しく呼び出し音が鳴り続けるばかりだ。

「もういやっ。ついてないな」

 受話器を置いてコロリと戻った十円玉を取ると女は公衆電話ボックスを出た。

 女は駅から一キロ半ほど離れた所のぼろアパートに住んでいる土田華那(はな)だ。毎日一円玉を大切にして生きている華那にとっては十円玉は大金だと言っても良かった。世間では高額のブランド品が良く売れ出したといわれるが、携帯も持ってない華那はそんな生活は一生自分には縁がないと思っていた。

 携帯電話が普及して公衆電話の数が減ったので、華那は自転車で駅前広場まで来た。


 駅前の電話ボックスを出ると自転車にまたがって華那は歩行者を()けながら商店街の歩道を走った。ついてない時は何をやってもついてない。文具店から飛び出してきた子供を咄嗟に避けようとして、華那は高齢の男を引っかけてしまった。自転車に接触した男は、倒れた弾みに腕をつき、鮮血が滲み出ている。

 華那は一瞬やばいと思って自転車に乗り直して立ち去ろうとした。だが立ち上がった男の手が後ろの荷台を掴んだ。

「おいっ、待てよ」

 歩道を走る自転車に世間の目は厳しい。いつの間にか数名の野次馬が華那と男を取り囲んでいた。

「あたし、治療費とか払えませんから」

「人を痛い目に遭わせておいて、他に言うことはないのか?」

 華那の頭の中は真っ白になり、脚の震えが止まらない。

「……」

「あんたなぁ、先ず謝れよ。治療費だの慰謝料の話はその後だよ。この頃の若い人は謝ることを知らないんだよな」

「でも治療費とか払えませんから」

「治療費を払えとまだ言ってないよ。先ずごめんなさいだろ?」

 周囲の野次馬が頷いて華那を冷たい目で見ている。

「ごめんなさい。お怪我、痛くないですか?」

「痛いに決まってるだろ。そうよ、最初にその言葉をかけるのが大切なんだよ。もう行っていいよ。気を付けて行けよ」

「治療費とかは大丈夫ですか?」

「払えない人に払えと言うほど意地悪じゃないよ」

「すみませんでした」

 華那はほっとした。深々と頭を下げてから男の顔をもう一度見た。優しげな目で早く行けと言っている。

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