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第七章「突如現れしは無慈悲なる力」

ガィン!

ギッィン!


グラットンの繰り出す一撃を受け流す大男、槍撃を避けるグラットン。

互いに一歩も譲らず、と言ったところか。

しかし、グラットンには幾つもの傷が、浅いとはいえ確実に刻まれている。

「…貴様…絶対に…殺してやる…!」


グラットンの呼吸が上がっている。

彼の体力は並のものではない筈だが、怒りに任せた攻撃からくる疲労なのか、それとも…

「俺の盾を破れぬ者に勝機は…無い。」


反して大男は余裕がある。このままでは、勝負は見えたようなもの…




カムイも女の瞬速から繰り出される双爪の猛攻に手を焼き、フィオも優男の得体の知れない攻撃に近付くこともままならず、コリンも男の連続矢に追いつけずに浅い傷を増やし、パールレインも黒ずくめとの勝機の見えない魔法合戦に苛立っていた。

このまま戦い続ければ…最悪の事態に陥りかねない。


フレッド率いる者達は、皆が皆、並の使い手ではない。

しかし、相手はそれすらも凌駕すると言うのか。


──最悪、皆に力を使ってもらわなくちゃならない。

──しかし、使わせるわけには…


フレッドはひたすら考えていた。

彼の思案する

「力」

とは、一体何なのか…?


暫く考えを巡らせた後。

「…仕方ない。思い出すのは、俺一人で良いッ!」


何かを決心したか、フレッドが顔を上げた。




「さぁ、どうした?その程度で終わるのか?」


ローブの男が不敵に笑う。

「この程度で終わると思って?」


強気に切り返すパールレインだが、額には脂汗がじっとりと浮かんできている。

「では、これは返せますかな?」


男が右手を頭上に揚げた。

その手に魔力が集中し、凝縮されていく。大気が振動した。

赤黒い光玉が掌の上で構成され、大きくなっていく。

まずいわね。

パールレインが心の中で舌打ちした。

これは避けようが無く、受けても無事でいられるかどうか分からない。

ありったけの魔力でガードすれば、死は免れるだろう。

しかし、防いだ後はどうする?

魔力が涸れた魔術師など只の人。

体つきが細い分を考えれば、そこらの男達よりも非力だ。

相手が全ての魔力をこの一撃に込める筈はない。パールレインは焦った。


やられる…

いや、まさか、そんな事…!



「覚悟を決めろ。どの道逃げられぬ。」


パールレインの意図を察したかのように、ローブの男は静かに言い放った。

死の宣告。

パールレインの顔が歪んだ。

「只ではやられないわ。禁忌を破ってでも……ッ!?」


パールレインは言葉を遮った。

ローブの男の生み出した赤黒い光玉も失せている。



何か…来る!



パールレインは分かっていた。来るモノが何であるか。



「…馬鹿。」


パールレインが呟いた。



淡く緑に光る閃が、大空から放たれた。一条ではない。

無数の光線が、大空から落ちてくる…!


空に浮かぶ、同じ色の光に包まれたモノが発しているのだろう。


集落に降り注いでは無慈悲にそこにあるモノを消滅させる光の帯。

神々の裁きであるかの様にも見える。


破壊の力を振るう何か…その背に見えるのは、翼…だろうか。

汚れ無き白と、宵闇の漆の二枚の翼。




フレッドは、その

「翼を持つ何か」

の真下で横たわっていた。

呼吸は浅く、死んでいるようにも見える…


「アレ」

は、フレッドが呼び出したモノなのか?


光の帯は心無く家屋を消滅させ、犬頭人の死体を灰にし、地面を抉った。


グラットンも、カムイも、フィオも、コリンも、パールレインも、過去何度かこの光景を目にしていた。

戦闘を解除し、集落から離れる。

勿論、残った賊達も、手練れの者達も、隠れ潜んでいた犬頭人達の生き残りも。


「一体、何が起きてるんだ!?」


「逃げろ!死んじまう!」





敵も味方もない、人も異形もない。

皆散り散りになりながら、破壊者から離れようとする。




光が止んだとき。



周辺には何も残らなかった。

家も、門も、草木も、死体も、何もかも。

無慈悲なる閃光が、全てを奪い去った。


只一つ、昏倒しているフレッドを除いて。





破壊者が消えたとき、山の端からは太陽が登り始めていた。

夢の中の出来事の様だった。とびきり恐ろしい悪夢。

未だ現実と思えない者も多かっただろう。



世界の終末であるかの様な光景を見て、生き残った犬頭人達…アジトに戻ったであろう賊達も、一体何を思っただろうか。


────…



「俺たちの村が…」


「まだ信じられないわ…沢山人が死んで…そして…」



「命があるだけでも良いって思いなさい。アレに巻き込まれて無事だったんだから…」


呆然と家屋のあった場所を見つめる犬頭人達に、パールレインは小さくそう言った。

その表情はどこか物悲しげだった。

「フレッド…済まない。」


背で昏倒したままの青年に、グラットンが言った。

フィオもフレッドを気遣うようにその肩に腰を下ろし、カムイも俯いたまま黙っている。コリンは泣いていた。



「ごめん…僕にもっと力が有れば…」



カムイの言葉は、犬頭人達に向けられたものか。



魔の夜は過ぎ去り、太陽が嘘のように燦々と輝いている。

空は蒼く高く、過ぎ行く風も心地よい。

気持ちの良い晴天。



しかし、晴れぬは心。

生き残った者全員の心は淀んでいる。



まるで命有る者を嘲笑うかの様に…

空は蒼く、陽は明るい。



一体何が起こったのか?フレッドは何をした?何故気絶していた、何故逃げずとも生き残った?


理由を知るのは軍師達一行だけ。

語る者は、今は無い。

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