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第四章「少年導くは異形の集落」

異形の少年が目を覚ましたとき、フレッド達は昼食の真っ最中。

陽は真上、吹き抜ける風が心地よい、のんびりとした昼下がりだった。のだが。

「あぁ、それアタシのなのに!」


「甘いわ!茸は俺が貰った!」


「フレッドちゃん、ひどぉい!ボクも食べたいのにぃ!」


「ああもう、これじゃゆっくり食事も出来ないよ。」


「うるっさいわねぇ、黙って食べれないの、アンタ達!」


「何を言う!食事中は戦闘と知れ!」


「今がチャンス!頂きッ!」


「あ、この野郎!」

食事風景は何とも苛烈。

怒声とフォークが飛び交う食卓!異形の少年は、しばらくその光景を唖然として見つめていた。

穏やかな日溜まりの中で織りなされる、食物を争っての醜い戦闘が展開する様は、第三者の目にはどう映るのか想像に難くない。

「あら、いつの間にか目、覚ましてるわよ、この子。」

唖然としている少年を最初に見つけたのはパールレイン。その他一同が少年の方を向いた。

「あ、目覚ましたんだ!おはよー!」


「やぁ、ようやく目が覚めたかい?怪我は大丈夫?痛まない?」

手を差し伸べるカムイ。

傷の具合を看ようとしただけなのだが、少年はその手を払い退けた。

「人間が、どうして俺を助けた!」

キッとフレッド達を睨みつけ、牙を剥く。

「…別に捕って食おうって訳じゃないんだけどなぁ。」


「ちょっとアンタ、助けてもらっといてその態度はないでしょ!」

カムイの呟きを消すフィオ。だが、彼女は何もしていない。寝ていただけ。

「誰も助けてくれ、なんて言った覚えは無いね!」

警戒心を増す少年。

生意気な態度にフィオが怒りで赤くなった。

背中には炎を背負っている上、鎌まで取り出している。しかし…

「フィオ…落ち着け。」

グラットンに言われ、唇を噛みしめる。

やがて炎は消え、鎌も背のバックルに戻った。

しかし怒りはなかなか治まらず、プイっとそっぽを向くと、フレッドに対して鬱憤晴らしを開始する。


「俺たちは…異形だからと差別はしない。助けたのは…その為だ。」



今度はグラットンが少年に話しかける。


「…何故あんな奴らから狙われたのか…無理には訊かない。俺たちの行動を迷惑と思うのならば…お前の行きたいところへと去るがいい。しかし、俺たちの言動の意図が解るのなら、話を聴かせてくれ。」


いつもは寡黙なグラットンがこの少年にここまで親身になるのには、訳がある。

彼は仲間内でさえ、その事を話そうとしないが。

グラットンのお節介焼きの理由を知るのは、フレッドだけである。

フレッドもまた、その話を語ろうとはしないが…


暫く少年は黙っていたが、やがて口を開いた。

「この話は、人間には絶対に言わないでほしいんだ。

この近くに、俺たち獣頭人の集落があるんだ。

人間とか他の異形との争いを避けるために、ひっそりと作られた小さな集落が。

このまま静かに暮らせれば良かったんだけど…最近仲間の一人が人間に見つかって、城西都市ダラスとかいう町の討伐隊がこれを出したんだよ。」


少年が、一枚の紙を取り出す。

そこには、『近隣に現れし異形を討ち取った者に、一頭毎に金貨五枚を渡す。

尚、証拠として討ち取った異形の首を持ってくること』と書かれていた。

「酷ぇなこいつは…」


思わず眉根を寄せるフレッド。

パールレインも流石に良い気がしないのか、苦い表情。

「それで、さっきの賊達は俺の集落の場所を訊こうとして…」


「…成る程、ね。よく頑張ったね、言わないように。」


辛そうな面持ちの少年に優しく笑うカムイ。

「…フレッド。」


黙って話を聴いていたグラットンが口を開く。

「分かってる。お前とは長い付き合いだしな。」


フレッドが笑って返す。

二人は他の面子よりも、ずっと前からの知り合いだった。

二人共、互いの性格は充分に分かっている。

「…すまない。」


「私も、今回の仕事には悪い気がしないわね。グラットンのお節介焼きでも。」


パールレインも珍しく乗り気の様だ。

「アタシも。こういう馬鹿達は、ちょっとお灸据えとかなきゃね。」


言った後に、このナメガキの為じゃないけどね、と付け加えるフィオ。

「ボクは、フレッドちゃんに着いてくよ!また楽しいことやるんでしょ?」


コリンは話を理解…どころか聴いていたかすら分からないが、兎に角乗り気の様だ。

戦闘イコール楽しいこと、という意味合いだとしたら、非常に危険な思想ではあるのだが。

「じゃ、その集落とやらに案内してもらおうかな。」


少年に笑顔を向けるフレッド。その笑顔は、少年のような無邪気なものだった。丁度、サラディンの守護兵団長サーライルに見せたような。



満場一致で仕事を請け負うのは稀なことだった。

パールレインが面倒くさがる為、という理由で。

しかし、全員が本気を出せる仕事は、大抵巧くいっていた。


フレッドも、今回の件は必ず巧くいくだろうという自信があった。



やがて馬車は長い休憩を終えて再び走り出す。

道を外れた森の中に向かって。

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