第二章「軍師求むるは明日への糧か」
「この度の活躍、感謝の言葉もありません。」
フレッド達六人はサラディンの宿で一夜を過ごした後、町長宅へと招かれていた。
執務室へと案内され、現在謝礼の最中である。
「フィオ・フレアダンス殿。」
「はいはい。」
妖精の少女が、名を呼ばれて前に出る。
「パールレイン・アポクリファ殿。」
次に、車椅子の女性が前にでた。その表情は非常に面倒そうなものだったが。
「グラットン・ヘヴィブランド殿。」
呼ばれて前に出たのは、巨大剣を背に負う巨躯。パールレインと同じく無言ではあるが、表情は…無い。
「コリン・スナイプハント殿。」
「はーい!」
元気に手を上げて返事。
ぴょんと軽く跳ねて前に出たのは、幼いポニーテール。
「カムイ・イーストエッジ殿。」
「はい。」
短く答えて、ボサボサ頭の黒衣の青年も前に出る。
「そして、軍師、フレッド・コマンドチーフ殿。」
最後に、フレッドが前に出る。
「あなた方には本当に助けられました。町の危機を救っていただいた英雄と言っても過言ではありますまい。」
「いや、俺はただ、策を用意しただけですよ。」
こういうの、苦手だ。
フレッドは、こうやって凝り固まったカチカチの場というものが苦手だった。
しかし、断るわけにもいかない。
「あなた方には、もしよろしければずっとこの町に留まっていただきたい。勿論、それなりの報酬は御約束しましょう。」
「残念ですが…」
すかさずフレッドが切り出した。
今まで軍師として働いた後は、必ずこのような事を言われてきている。
しかし、彼には… 彼らには、断らざるを得ない理由が有るのだった。
「そうですか… しかし、今回の働きぶりに応じた報奨金を用意させて下さい。」
残念そうに町長が言う。こういう表情をされるのも、何だかバツが悪くなると言うか…苦手だった。
「で、さ。何でまた断ったわけ?別に良いじゃない、ここに身ぃ置いてもさ。」
町長宅を後にして立ち寄ったレストラン。陽はもう真上。昼食時だ。
フィオが出された肉料理をつつきながら、フレッドに問う。体の小さいフィオならそれほど必要ないと思われるが、他の面子と同じ量の肉料理だ。
「理由なら、いつも話してるだろ?」
「俺たちは同じ所に留まるべきじゃない、ってやつ?良いんじゃない?別に、気にしなくても。」
むしゃむしゃ。
「無駄よ。フレッドは飽きっぽいから、一つの場所に留まりたがらないから。」
「お前はいつも一言多いよな、パール。」
「あら、本当の事じゃないかしら?私は間違ったことは言わないから。」
「仮にそうだとしても、いちいち言う事ァ無ぇだろ!」
もぐもぐ。
「食事中だ…喧嘩は…よせ。」
酒をあおりながらグラットン。
フレッドが歯軋りしながらパールレインを睨みつけたが、パールレインの方は気にせずサラダを口に運ぶ。その冷ややかな表情を見て、またぎりぎりと歯軋りする。
「フレッドちゃんて、飽きっぽいの?」
パールレインのローブの裾を引っ張りながらコリンが訊く。
見事な追い打ち。本人には悪気は無いのだが。
「うるさいわね。見てれば分かるでしょ。」
「ふ〜ん…そなんだ。」
「おい、お前等なぁ…」
もぐもぐ。
「まぁ、僕は各地を転々とするのも、良いんじゃないかなって思うけどね。退屈はしないし。」
テーブルに身を乗り出そうとするフレッドを抑制しつつ、カムイが取りなす。
「そだね、ボクもそう思う!フレッドちゃんに付いてくと面白いもん!」
おっと、身を乗り出したのはコリンの方だったか。
ぱくぱく。むしゃむしゃ。
「まぁ、そんな事より僕が思うのは…」
「言わないで。分かるから。」
フィオの前にある五枚の中皿が、カムイが言わんとしていたことを語っている。
「いつも通り、見事な食べっぷりだな。見事すぎて泣けてくるよ。」
フレッドがぼやく。
妖精の小さな体のどこにあれだけの肉が入っていったかは不明だが。
「明日の馬車代くらいは、ちゃんと残るんでしょうね?」
「パール、お前も俺たちの経済力を知ってて言ってるんだよな…」
「手元にある分で切り盛りするのも、アンタの役目でしょ。」
フレッド達が各地を転々とする理由は、何も旅好きだからという理由だけではない。
理由の一つとして、これがあるのだ。
お金がない。入っても、入ったそこから根こそぎ使われる。
後は宿、更に馬車。
フレッドは察していた。
これ以上の金策を用意しても、恐らく無駄だろうなと。
一気に軽くなった財布を腰に下げ、店を後にする。
この後は、男性陣からは文句は出ないが、女性陣からは非難の嵐を受けることになるため、宿も
「安くて綺麗で過ごし易いところ」
を探さなければならないのだ。
軍師フレッドの策がかなわない敵は、むしろこれなのかも知れない。