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二十五番連隊所属第四小隊2

アルヴィンと別れた俺とロザリーは、言われたとおり演習場の端にある詰め所の前にやってきた。

演習前の軽いブリーフィングなどに使われるたりするらしいが、意外としっかりとした作りで設備も整っていそうだ。


「はーん。なんかすげぇな、こんな部分まで金かけてるのな」

「色々と設備が整ってた方が演習の質も上がって良いみたいなんです。より実戦向きになるからって」

「……演習と実戦じゃ大違いだ。いくら実戦に近づけようが実戦は経験して慣れるしかねぇよ」


実際の命のやりとりが行われる戦場で教科書通りの動きなんてできっこない。相手は人間でもなくただ本能のまま殺戮をするだけの悪魔だ、種類だって千差万別のこの相手にこの場で習ったことなどまるで通用しない可能性だって大いにある。


「でもまぁそれでも生き残る可能性が上がるんならそんなに無駄って訳でも無いけどな」


話を聞いて難しそうな顔をしたロザリーに一言声を掛ける。

ここで習ったことで行動の選択肢が増えることは大いに有用だ。大事なのは演習で習った事を正確に実演するのでなく、どの場面でどういう風に活かすかだ。


「……ブラッドさんって教官の方みたいですね。なんか配属されたばかりの新人さんの雰囲気じゃ無い感じです」

「なんだ、老けてるって言いたいのかコラ」

「ち、違いますよ!」

「チッ、これもあの教官のせいだな。やれやれ……」


と、ひとまず落ち着いたところで詰め所のドアを叩くべく前に出る。


「とりあえず早く済ませて帰りたい」

「し、失礼の無いようにお願いしますね。一応ブラッドさんにとっては上官にあたる方なので」

「はいはい」


気の無い返事を返しつつ、俺はドアを開ける。


「入るぜー」


いざドアをくぐって中に入ると、そこは綺麗に整列した机と椅子が並ぶ会議室のような場所だった。

普通の会議室と大きく異なるのは、ブリーフィング用の大型モニターや演習場の様子を写したモニター、さらに何かに使う電子機器などが正面にどんっと置いてある点だ。


「ほー、中も凄いな。こんな演習場の詰め所に随分手が込んでることで」


一通り眺めて感想を口に出す。やはりどこか力の入れる場所が間違っているような気がする。俺がただの貧乏性なだけかも知れないが……。


「ちょっと! 入る前にノックと声ぐらい掛けなさいよ、失礼な奴ね。ってか誰よあんた」

「ん?」


どこからか甲高い声が聞こえてきた。それは割と直ぐ近くで聞こえるのに何故か声の主の姿が見えない。


「ナニコレコワイ」

「何処見てんのよ!こっちよ!」


そう言われて詰め所の機器に奪われていた視線を落とす。すると目の前には金色の長い髪を持った一人の女の子が立っていた。


「だから誰よ、あんた」


どこか偉そうにしているチビ娘に目をやり、どうしたものかと悩む。俺はとっとと用事を済ませたいんだ。


「あー、後でお菓子やるからちょっとあっち行ってな、チビ助。俺は用事があって忙しいんだ」

「………」


あれ? なんか黙りこくって肩プルプルし始めたぞ。俺なんか悪いこと言ったか?


「ああ、ひょっとして身長気にしてんのか。好き嫌いせずちゃんと飯食えばそのうちでかくな――ブヘェッ!」


不意にチビ娘が床を蹴って俺の顎に強烈な一撃をおみまいしてきた。目にチカチカと火花が散る、大分綺麗に入ったようだ。というか下手すりゃ舌噛んでたぞ、これ……。


「はは、わざわざ私を侮辱して殺されに来たのね。良いわ、望みどおり一瞬であんたの命を終わらせてあげる」

「いや、そんなこと誰も望んでねぇから!」


ヤバイ、なんか本気で殺気立っている。目がマジだ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいセシルさん! 落ち着いてください!」


そこへタイミング良くロザリーがなだめに入ってくれた。


「そうだまず落ち着け……って、うん? 『セシル』って……」


どこかで聞いた名前だ、それも極最近というかついさっき。


「……ひょっとしてこのチビが……隊長?」

「は、はい。この方が第四小隊隊長のセシル・ランベールさんです」

「ロザリー、あんたさり気に今チビって肯定したわね」

「ひぃ! そういう意味じゃないんです!ご、ごめんなさいごめんなさい!」


チビ娘の刺すような視線にオドオドしながらロザリーが平謝りする。なんか見ていて違和感が凄い。


「何? じゃああんたが今日から配属になるっていう例の疫病神? 良い噂なんて全く聞かなかったけど、どうやら概ね正しかったようね」

「どんな噂か知らんが、訓練所のトイレの個室全部壊したとか、腹減って食料調達しに山行ったら無断外出で謹慎二週間くらった、とかって話だったら合ってるぞ」

「……概ねどころか噂以上のバカみたいね」


汚いものを見るかのような冷ややかな目で見られる。どうやら出会ってから一瞬で嫌われたようだ、凄い。


「どういうことですか?」

「なんだロザリー知らなかったの? こいつが例の『死人』とか『悪魔の手先』って呼ばれてるアレよ」

「えっ…………」


今までは気付いていなかったようだが、ここで俺がその噂の人物である事を理解したようだ。

怯えるような表情を浮かべた後、ロザリーは俺から視線を逸らす。


「まぁ良いわ、上の命令だから仕方なく私の隊で預かるけど、私はあんたを全く信用してないからそのつもりでね。それと、変な真似したら処分して良いって言われてるから行動には気をつけなさい。まぁそうなったらそうなったで得体の知れないものもなくなってこっちとしては楽なんだけど」

「……へーへー。後ろから撃たれないように気をつけますよ」


どうやら俺は全く歓迎されていないどころか敵意まで向けられる立場のようだ。ただチビと呼ばれたことから来る怒りとはまた別の感情が篭っている。

自分の知らないところで自分についての話は随分大きくなっているようだ、面倒くさい。


「とりあえずどうすれば良いんだ?」

「……明日の0900までにまたここに来なさい。そこで小隊の予定を伝えるわ」

「了解」


言い終わると、もう俺には目もくれずモニターに向かいあれこれと作業をし始めた。


「先に帰るぞ」


俺は未だに放心した表情を浮かべるロザリーに一声掛けると、詰め所を後にした。


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