白い塔3
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「えー、『ブラッド・ハーヴェスト 男 19歳』ナイトメア三体相手の個人戦闘演習で評価ランクSか……君ホントに先日まで訓練生だったの?」
「ああ」
「全く、とんでもない話だね。でも感染レベルはステージⅡか……うーん、元々高い戦闘センスがあったのかな」
「なんだ?そのステージⅡって」
聞き慣れない単語に俺はつい聞き返す。
メイナードは、え? と言う様な驚きの表情を浮かべた後、ああそうかと納得の表情を浮かべる。
「君は記憶が無いんだっけ?」
「ああ、やんちゃで純粋だったであろう少年期の記憶は全く無いもんでな。生憎名前と戦場での立ち回り以外はほとんど何も知らん」
「……ヴァルター教官もそういう基本的な事を教えてなかったのか。やれやれ……」
よいしょ、とメイナードが椅子に座りなおす。
「良いかい? まずは感染者――インフェクターについて教えておくね。世界中に黒点が現れたのは君も知ってるだろう?」
「流石にそれくらいはな」
「その黒点が現れてしばらく経った後に、黒点が出現した地域にいた者たちの中から人間には考えられないくらい高い身体能力を持った者が現れ始めたんだよ。その数は次第に増えていって今やほとんどの軍属の者は感染者と言っても過言じゃないんだ。僕や君を含めてね」
「へぇ、何が原因でそんな風になったんだ?」
「はっきりと分かってはいないけど、恐らく黒点から出る何らかの因子が原因だろうと研究者達は見ているらしい。それなら時間の経過で感染者の数が増えたのにも説明がつくしね」
「なるほどな」
「それで、この感染の進行度合いを表したのがステージって呼ばれるものなんだ。ステージはⅠからⅤまであって、数字が大きくなるほど人間離れした強さを持ってるって事になるね」
「じゃあ俺はまだ軽い方なんだな」
「まぁ、それでも十分普通の人間とは違うけどね」
確かにそうだ。
先日の演習のときもビルから飛び移ったり、飛び降りたりとしたが、よくよく考えたらあんなの普通の人間には無理だ。保護されてからそんな事が普通に出来ていたので、今まで疑問に思わなかった。
「それに、ステージが高いほどナイトメアに近づくって事なんだ。ステージが高ければ大きな力を得られるけど、その分人間からは遠ざかるって訳だね。嫌な話だよ……」
「俺のステージがこの先進む事もあるのか?」
「いや、極稀に進行するケースもあるみたいだけど、殆どは一度診断されたステージからは進行しないよ」
そう言うとメイナードは一息つく。
「で、その感染者の力を利用してナイトメアと戦う人のことをインフェクターって呼ぶんだ。質問はあるかい?」
「今どのくらいインフェクターとやらがいるんだ?」
「ステージによってかなり差があるけど、ステージⅠやⅡはかなり多いね。ステージⅢもそこそこの数はいるよ。全部で数十万から百万人前後くらいはいるんじゃないかな、今戦線が保たれているのも彼等のおかげだね。ステージⅣ以降は要職を勤めるケースが多いよ。総じて戦闘力も高いけど、こちらは数が少なくて世界に数百人ってとこかな。ステージⅤに至っては世界に4人しかいないんだよ」
「へぇ……あんたは?」
「ステージⅣだ」
なるほど、やたら強いと感じたがそういう事だったのか。
「さて、長々と話してしまったね。まぁ、明日からは君もそのインフェクターの一人として頑張ってもらうよ。期待してるからね」
「具体的にどうすればいいんだ?」
「とりあえずこっちの方でどこかの隊に入れる手続きは取っておくよ。隊に入ったら後は隊長の指示を仰いでくれ」
「りょうかい」
話は終わりの様だったので、俺は席を立ち司令室を出ようとした。
「ブラッド君」
すると去り際にメイナードに呼び止められる。
「君の噂は尾を引いてかなり大きくなってしまっている。事実と違う事まで言われるかもしれないが気にしてはいけないよ」
「……元々そんな事気にするような性格じゃないんでね、ご心配なく」
そう言うと今度こそ俺は扉に手を掛け、司令室を後にした。