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白い塔2

幾つかの検査とチェックを受け、俺は白い塔の中に入ることを許可された。

中に入ってみるとこれまた圧巻で、塔の中央部分は中庭の様な構造になっており、なんと塔の天辺まで吹き抜けが出来ていた。外から見ては分からなかったが、この塔はドーナツ状になっている事になる。


「なんか変にこだわって作ってんな。この吹き抜け無くせばもっと色々設備入れるスペースできたんじゃねぇのか」


中庭も塔のでかさに比例してかなり大きい。野球なんかが余裕で出来てしまうほどのスペースだ。

生憎美術的センスなどと無縁な俺は何でこんな風に作ったのか理解できない。まぁ、何かしら理由があるんだろう、大事な理由なのかしょうもない理由なのか知らんが。

中央の中庭も然ることながら、ドーナツの輪の部分もかなり広い。多くの人が行き来していて、まるで空港のターミナルだ。


「流石前線基地だけあって活気あるな。てか司令室ってどこだ?」


こちらに着いたら司令室へ行けとの御達しを受けていたが、これだけ規模がでかいと何処になにがあるやらさっぱり分からない。

俺が途方に暮れていると、そこへタイミングよく書類を抱えた士官らしき女性が通りかかった。


「なぁ、ねーちゃんちょっと良いか?」

「えっ? きゃあっ!!」


急に声を掛けられて驚いたのか、派手に書類をぶちまけながら小柄な女性が転倒する。周りを通りがかった人も何事かとこちらを見たが、転倒した女性を見ると妙に納得した様子で苦笑しながら通り過ぎていく。

俺はなんてベタな……と思いつつも、どうにも原因は自分にあるらしいのでぶちまけた書類を拾ってあげる為しゃがみ込む。


「す、すみません。私一個の事に集中すると咄嗟の事に対応できなくて……」


平謝りしながらバツの悪そうな顔で小柄な女性が謝る。


「別にいいって。でももっと柔軟な生き方身につけねーとこの先大変だぜ」

「う、意外とハッキリ仰るんですね……」


ちょっぴりショックを受けた様子の女性と一緒に書類を拾う。そんなに多い数ではなかったので、割と直ぐに書類は集まった。


「あ、ありがとうございました。助かりました」

「ああ、何か悪かったな仕事増やして」

「い、いえ……私が不器用なせいですから」

「まぁそこは否定しない」

「う……ハッキリ仰るんですね」


またもや落ち込んだ様子の女性だったが、こちらを見ていた周りの人間の「ああ、いつもの事か」的なオーラを読み取ると不器用だと言うのは間違いないのだろう。


「で、聞きたい事があんだけどさ」


思い出したように本来の目的を言う。ただ道を聞きたかっただけなのにえらく時間を喰ってしまった。


「司令室ってどこにあるか分かるか?」

「司令室ですか? それなら85Fにエレベーターで行ってもらって、そこの北区になります」

「北区?」

「はい。このタワーは回りの輪の部分を4等分して東西南北に従って区画分けされてるんです。仕事でどこかの部署に行くとき、ただ何階って言われただけじゃ広すぎて迷っちゃうので分かりやすいようにしたらしいです」

「まぁこれだけでかけりゃなぁ、納得」


改めて回りを見渡しても色々な物が目に付く。例え区画分けされていたとしても、慣れないうちは目的の場所を探すのは一苦労しそうだ。


「なるほど、分かったよ。助かったわ」

「いえいえ、お役に立てたようで良かったです」

「じゃあな、もう書類落とすなよ」

「さ、流石に大丈夫ですよ。うわわ……」


やはりどこか危なっかしげな女性士官に別れを告げると、俺は上へ向かうべくエレベーターの方へと歩き出した。

エレベーターに乗り込み、85Fと書かれたボタンを押す。


「全部で120階もあんのかよ、てかボタンありすぎだろ……打ち込み式にすりゃ良いのに」


ブツブツと来たばかりの建物に文句を言いながら、目的の階層までエレベーターが到着するのを待つ。段々と中央の中庭が小さくなっていく、やはり相当高い位置まで行くようだ。


『85Fです』


無機質な音声が階層を告げると同時に扉が開いた。

俺はさっさとエレベーターを降りて、言われたとおりに北区を目指す。幸いこの階は下に比べて人も殆どおらず、部屋数も少ないようで目的の司令室と書かれたプレートは直ぐに見つかった。

ドアの前に立ち軽くノックをする。……訓練所にいた頃、お偉いさんの部屋にいきなり入ったら教官にえらく怒られたので、ここでは一応しっかりとしておく。


『はーい。開いてますよ、どうぞー』


ドア越しに気の抜けるようなユルい返事が来たので、ドアを開けて中に入る。

司令室の中は意外とこじんまりとしていて、派手な装飾品などといった物は一切置いていなかった。壁に掛けられている賞状の様なものが唯一目を惹くくらいである。

そんなこじんまりとした空間には不釣合いな大きなデスクが部屋の中央ドンッと構えており、そのデスクには眼鏡を掛けた優男といった風貌の男が大き目の椅子に座ってこちらを見ていた。


「あんたがここの司令か?」

「あ、あはは。普通入ってきたら『失礼します』とか言うものだよ君」


どうやらまたやってしまったらしい。どうもこのレイギサホウというものはめんどくさい。


「すまん、次からは善処する」

「そういう便利な言葉は知ってるんだね……。まぁ良いや、とりあえず座りなよ」


差し出された来客用の椅子に腰掛け、改めて相手を見る。

年齢は結構若い。40はまだいっていないだろう。見た目も大して鍛えてるようには見えないが……。


(なるほど。強いな、こいつ)


気配で分かる。見た目からは想像もつかないが、こいつから漂う気配は多くの戦場を経験したものが出せるそれに類似していた。


「こんな優男が司令で驚いたかい?」

「いや、納得だ。あんた相当な数の戦場経験してんだろ」

「…………へぇ」


相手は驚いたように目を細める。


「ヴァルター教官が『手の掛かりそうな馬鹿教え子が行くかもしれないが、実力は本物だから宜しく頼む』、って言って来たけど、どうやらホントのようだね」

「あのクソ教官また余計な事言ってやがったのか」


ホントに余計なお世話だっつの。

しかし、司令は急に表情を険しくしてこう続けた。


「でも、君はあの『死人』……だね? ああ、気を悪くしないでくれ、悪意は無いんだ」

「……別に構わないさ。呼ばれ方はどうだろうが事実だしな」

「そうか、大変だったね」


『死人』、『生きてるはずの無い人間』、『悪魔の手先』など色々な事を囁かれているが、俺自身は余り気にしたことは無い。俺は俺としてここにいる、悪魔の手先でもなければ死人でもない。


「君は確かS-01区画で保護されたんだっけ」

「ああ、そうだ」

「そうか……今じゃあそこに近づく事すらままならない。ヤツら――『ナイトメア』もここ数年でかなり数を増やしてきているね」

「打開策は未だ見つからず……か」

「うん。このまま時間が経てば経つほど僕達は追い込まれる。早いところ手を打たないといよいよ本当に人類は絶滅するかもね」


そう、今世界――人間は絶滅の危機に瀕している。

それは30年前、突如として地球の数箇所に黒い穴が出現した事から始まる。

『黒点』と名付けられたその穴は当初沈黙を保っていたが、ある時その穴から未知の生物が現れた。

現れた生物は知能の欠片も持ち合わせておらず、破壊と殺戮の本能を剥き出しにし人類に牙を向いた。

人間も軍事力で対応したが、当時の人類の兵器で倒せる数は少なく、その後もその生物は黒点からどんどんと湧き出してきて増える一方だった。

穴から現れた生物はまるで神話に出てくるような悪魔のようであり、これらがみせる所業に人類は恐怖しヤツらを『ナイトメア』と称し恐れた。

ナイトメアの爆発的増殖と強さに、当時まだ一つにまとまれていなかった人類は対抗できず大きな犠牲を出したが、その犠牲を糧に一つとなりナイトメアと戦う道を選んだのだ。

今じゃ国という概念は消失し、世界連合として人種や宗教の垣根を越えてナイトメアと戦っている。


――と、以上が俺が教官の所にいたころに教えられたことだ。

これぐらいは知っておかないと人としてヤバイみたいだ。5歳児ですら知ってるらしい。


で、そんな状況の中、俺はナイトメアの根城となっているS-01地区と呼ばれる黒点周辺地域で軍隊に保護された。

今までナイトメアの支配圏で民間人が生きていた報告など皆無だったので、この件は大きく取り上げられて、騒ぎになったらしい。

最初は他にも生きている人間がいるかもしれないという希望に繋がっていたが、次第に「何故こいつだけが?」「悪魔の仲間ではないのか?」といった欺瞞の声が大きくなり、俺は「生きているはずの無い人間」として疎まれるようになった。

まぁ、当の俺本人が保護される以前の事をほとんど何も覚えていないので、そんな事言われてもどうしようもない。

ちなみに、唯一判明した名前は、保護された時に身につけていた十字架を模った様な首飾りに『ブラッド・ハーヴェストへ。兄弟より』と彫られていたからだ。


「なんか暗い話になっちゃったね。ま、そうならない様に僕達が頑張らないとね。君の経歴はどうあれ、共に戦う仲間として僕は君を歓迎するよ」

「そう言ってもらえるとこっちも気兼ねしないで良いから助かるな」

「そうか、それは良かった。まぁ、君はこういう事あんまり気にしてないようだけどね」

「よく分かったな」

「あはは、本当に君は変わってるなぁ」


くっくと微笑すると、司令は俺に手を差し出す。


「改めて、世界連合軍C-25地区基地『バベル』――通称タワーにようこそ! 僕がここの司令官のレスター・メイナードだ。これから仲間として宜しく頼むよ」


差し出された手を見て、最初は少し呆気にとられていたが、やがて俺はその手を握り返す。


「ブラッド・ハーヴェストだ。ま、適当に頼む」


そう言うとメイナードは満足げな表情で微笑んだ。


「よし、じゃあとりあえず今後の事について話しておこうか」


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