白い塔
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「おーい、兄ちゃん。そろそろ到着するぜ、起きな」
野太いおっさんの声が聞こえる。モーニングコールとしては最低だ、起きる気力が全く沸いてこない。
俺はそんな声を振り払い、気にせず眠り続ける。
「おーい、兄ちゃんってば――」
しつこい、俺は寝るんだ。
「にーいーちゃーん!」
「うるっせーっ!! 正月は夜まで起こすなっつってんだろうが!」
ガバッと跳ね起きると自然と思い浮かんだ言葉をそのまま言い放つ。
「おいおい……寝ぼけないでくれよ兄ちゃん。てか例え正月だとしても寝過ぎだと思うぜ」
ガタゴトと揺れる車内で、俺はまだ重たい瞼を開け体を無理やり起こす。窓から明るい日が射しているところを見るともう昼ぐらいだろう。もうもうかれこれ12時間は揺られているという事だ、勘弁して欲しい。
「ふぅ、ようやく着くのか?」
「ああ。今は『タワー』周辺の演習場の辺りだよ」
窓から辺りを見ると、確かに周囲の景色は演習場そのものだ。塹壕が掘ってあったり、山が作られていたり、平地がやたら綺麗に整地されていたりと結構手が込んでいる。
「うげぇ……広いな。罰則でここ走らされると思うと嫌になるぜ」
「も、もう罰則の心配してんのかよ。なんかどうも兄ちゃんはあんまし軍人って感じがしないねぇ」
「軍隊の堅っ苦しい規律に束縛されるような人間じゃ無いもんでな」
「それは軍人と呼べるのか大分怪しいラインだねぇ……」
こんなアホみたいな会話をしながらも俺を乗せたジープは広めに作られている軍用道路を進んでいく。
少し進むと、緑に生い茂った木々が頭上を覆い始めた。どうやらこの辺りは森林というシチュエーションを想定した演習場らしい。
「ここを抜けると『タワー』が見えるよ。結構凄い迫力があるから前見てなよ」
「ほう。どれどれ……」
俺は座席から身を乗り出してフロントガラスから景色を見る。
丁度そのタイミングで木々のドームが終わりを告げ、視界が開けた。
「おぉ!! でっけぇーな! これは圧巻だ」
「でしょ? 僕もこの建物見ると、人間もまだまだやれるんじゃないかって思えて勇気付けられるんだよ」
目の前に広がる景色。そこには天にまで届くかという程に堂々とそびえ立つ白い塔があった。その塔の全体には螺旋状の切れ込みの様なものが入っていて、塔の周りは何か衛星の様なものが綺麗な周回軌道を描きながらくるくると回っている。所々に砲身のようなものも見え、さながら要塞だ。
「あの周りをくるくる回ってるのは『アイギス』って言ってね。緊急時には塔全体をシールドで囲っちゃうんだよ。まぁまだ見たことは無いけどね」
「へぇー、そりゃ大規模な防衛システムだな」
白い塔に目を奪われてる間にも、ジープはどんどん塔に近づいていく。そして、最初にその姿を見てからそう時間のかからない内に、俺を乗せたジープは塔の根元へと辿り着いた。
「ほいよ。長旅お疲れだったね兄ちゃん」
「ああ。あんたもご苦労だったな」
「なんのなんの。これぐらいしか役に立てないからねぇ。兄ちゃんも元気で頑張んなよ」
そう言って俺を下ろしたジープは元来た道を引き返していった。
「さてと……」
もう一度塔を見上げる。下から見上げるとまた改めてその大きさを感じる。500メートル以上はあるんじゃないだろうか。
「ここが今日から俺が過ごす場所ね……。どうなる事やら」
俺はふっと軽い溜息をつくと、その白い塔の中へと歩を進めた。