プロローグ2
『――アサルト1よりアサルト2へ。……いよいよこれが最後だ、ブラッド準備は良いか?』
耳に装着してあるインカムから通信が流れてくる。
「ああ、アサルト2いつでも行ける」
アサルト2と呼ばれている俺――ブラッド・ハーヴェストは背中に背負っている大型の剣に手を掛けながら答える。
ここは廃墟となっている市街地。廃墟といってもビルや民家の形はほぼ原型を保っているし、街路なんかも損傷はそんなに激しくは無い。
そんな場所で俺はとあるビルの中に潜伏していた。
『返事はもっとはっきりと答えろともう貴様に100回は言ったな。結局そのままか、嘆かわしい……』
「……早く始めてくれ、こっちは最近ロクに寝させてもらえなくてイライラしてんだ」
『ハァ……。俺に対してはもうそれで構わんが、頼むから他の上官の下でそんな口利くのは止めてくれよ。俺の信用に関わる』
「あんたの信用云々はどうでも良いが、善処しよう」
『全く、ロクでもない言葉ばっかり覚えおって……。まぁいい、では始めっ!!』
通信の合図と共に俺はダッと窓へ向けて駆け出した。
既にガラスは砕け散って枠だけが残っている窓から隣の建築物に躊躇い無く飛び移る。二つの建物の間は数十メートル離れていたが、俺にとっては大した距離じゃない。
何の問題も無く隣接している建造物の屋上に着地すると、そのまま速度は殺さずに走りまた別の建物に次々と飛び移りながら進む。
ターゲットは大通りに一体とその周辺に二体いるということは事前の情報で把握済みだ。
俺はなるべく姿を晒さない様に、尚且つ迅速にターゲットがいる地点へと急行する。地図は頭に叩き込んであるので目標の場所まで迷いはしない。
だんだんと大通りが近づいてくるにつれ、俺は少しずつ速度を落とし辺りの様子を伺った。すると直ぐに大通りのど真ん中に大胆に居座っている、熊のような姿をした気味の悪い生き物を発見した。
「……いたな。先手必勝だ、恨むなよ」
俺は建物の屋上を蹴って飛び上がり、熊の様な化け物の遥か真上で剣を抜く。
そのまま俺は重力に捕らわれて落下するが、対象である熊の様な化け物(長いので見た目のまま『熊』と称する)をじっと見据えて、剣を構える。
熊は不穏な気配を察知したのか警戒する素振りを見せるがこちらの位置までは気取られてはいないようだ。
俺はそのまま落下を続け、いよいよ熊にぶつかるといった所で剣を一閃させる。
ダンッ!と俺が熊に背を向けて地面に着地するとほぼ同時に、ゴトリと何かが地面に転がる音がした。
振り返って確認すると首から上が無くなり気色悪い体液を撒き散らしている熊の胴体と、その脇に何も分からぬまま切り飛ばされた熊の頭が転がっていた。
「ターゲット1沈黙」
事務的な口調で通信を入れた後俺は辺りを見回す。すると熊の体液の臭いに惹かれたのか、残りのターゲット二体が静かに姿を現した。
「残りは蛇と猪か。相変わらずバリエーション豊かだな」
現れた残りのターゲットは見た目が蛇と猪に良く似ていた。
だが山などで見かける蛇や猪なんかとはもちろん違う。蛇みたいなヤツは鱗が隆起していてとても痛々しそうだし、体長がどう見ても10メートルはある。
猪もどきの方はこれもまた通常の猪の3倍はあろうかという大きさに、体は毒々しい紫色の毛に覆われていて、極め付けに顔中に大きな牙が8本ある。最早牙があり過ぎてどこで視界を得ているのか謎だ。
二体の化け物は何時攻撃してきてもおかしくないといった様子で威嚇している。
「早く来いよ。こっちはとっとと終わらせて帰りたいんだ」
話の通じない相手に何を言っているんだかと若干虚しさに駆られながらも、俺は剣を構えなおし挑発する。
すると挑発が通じたのか分からないが蛇の方がその長い尻尾を鞭のように撓らせて俺に叩きつけて来た。
「っと!」
難なくそれを避わして攻撃に転じようとするが、今度は猪の方が暴力的な牙を突き出しながら突進して来る。
咄嗟に攻勢に転じようとしていた動作を止め回避に徹する。すると、その俺の回避的な態度を見たのか、二体の化け物は更に執拗な攻撃を繰り出してくる。
「鬱陶しいな……。大人しくしてろよ」
化け物の連続的な攻撃の僅かな隙を見つけて、俺は大きく跳躍する。
そしてそのまま猪の方の頭に剣を突き刺すと同時に猪の背中に着地した。
猪が悲鳴を上げるよりも早く、俺は頭に突き刺した剣を握り締め、剣を突き刺したまま猪のケツの方に向けて走り出す。
一歩踏みしめるごとに足元から気味の悪い液体が飛び出してくるがそれに構わず俺は一瞬の内に猪の体の上を走り抜けた。
地面に着地し剣を払うと、ベチャッと剣から体液と何かの塊が払い飛ばされ、それと同時に猪はバックリと裂けた背中から噴水のように体液を吹き上げ、その巨体を揺らし地面に倒れ伏した。
「あとはお前だな」
残った蛇の方に目を向ける。
蛇は一瞬の出来事に僅かの間気を取られていたようだが、全く臆した様子も無く、目が合うなりいきなり飛び掛ってきた。
「……お前らに恐怖って概念があれば、まだ楽に対処出来るんだろうがな。ま、俺も人の事言えんが」
俺は半ば億劫になりながらも最後の一振りをするべく剣を構えた――。