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ややややや 呼んでないし ~ 私には他に好きな人が居ますから ~

作者: とと
掲載日:2026/05/11

読んでいただきありがとうございます。


「クレア~授業 終わった? 一緒にカフェに行きましょうよ」


「エレノア~。あと少しだから待ってて」


私は、授業の道具をまとめながら、窓から見える、騎士科の訓練場へと眼を向ける。


多くの生徒が、訓練に汗を流している。


その中から私は、素早く彼を探し出す、黒髪が彼の動きに合わせて跳ねる。


は~あ。素敵。


ハワード侯爵令息のリロイ様は、騎士科のエース。


貴族学院に入り、騎士科の説明に登壇した彼を見て、一目で恋に落ちた。


まあ。見ているだけの、あこがれの人だが……。


私が暮らす二ナック王国は、とても広くて国民の数も多い、当然貴族の数も多くて、貴族学院は川を挟んで隣接しているが、西のナナラ貴族学院と東のホロムア貴族学院の二つに分かれていて、ホロムア学院は普通科のみで高位貴族が多く通い、ナナラ貴族院は普通科の他に、騎士科と家政科があり、私の様に目指す職業がある者が多く通っている。


サンチェス伯爵家の三女である私は、王宮に努める侍女になる夢をかなえるため、ナナラ貴族学院の家政科に入り、毎日マナーやメイク、理容など様々なことを学んでいる。


「クレア~」


「今行く」


道具を棚にしまい、もう一度リロイ様を見てから、エレノアのところに急ぐ、エレノアは学院で仲良くなった私の友達で、ナナラ貴族学院の普通科に通っている。


普通科の脇にある門に近づくと、見慣れた馬車の隣にエレノアと、私の幼馴染が待っていた。


「やあクレア、僕も一緒に、カフェに行ってもいいかな?」


「クレアを待っていたら、ちょうどロドリゲス伯爵令息が通りかかって、声をかけてくださったの、帰りも送ってくださるって」


「エレノア嬢、僕のことはマテウスでいいよ、クレアの友達は、僕の友達だからね」


マテウスが、ブロンドの髪をかき上げながら、にっこりとほほ笑む。


「…………。」


マテウスのロドリゲス伯爵家とは、領地が隣同士で、幼い頃はよく遊んでいた。


2年前にマテウスが、マイヤー侯爵令嬢のカレン様と婚約してからは、幼馴染とはいえ、異性の友人がちょろちょろするのも悪いと思い、少し距離を置いているのに……。


「マテウス、今日は、カレン様との約束はないの?」


「ああ。婚約者とはいえ、いつも一緒ではないからね」


「まあまあ。たまにはお友達と過ごすのもいいんじゃない、今日のカフェは、パルフェが有名なのよ早くいきましょう」


結局、私たちは、マテウスの馬車に乗り込んだ。


私が最後に乗り込むと、マテウスはエレノアの隣にちゃっかり座り、どうしてそうなるのか、エレノアの手を握っている。


私は、二人の前にドカリと座り、マテウスのすねを思い切り蹴った。


「いたたた!何するんだよクレア」


「私の友達に気軽に触れないで頂戴!それにエレノアには、騎士科に婚約者がいるのよ!」


「そうなんだね、あまりにエレノア嬢の手が、白く美しかったものだから……」


「エレノア私の隣に!だいたいいつからそんな、空々しい言葉が言えるようになったのかしら!しっかりしなさいよね」


私はもう一度、マテウスのすねを蹴る。


「痛いよ、クレア。 ああ~でも、なんだかクレアと一緒だと痛いけど安心するよ」


婚約してホロムア貴族学院に入ってから、なんだかマテウスは少しへなちょこになった、以前は頼りがいのあるお兄ちゃんだったのに……。


その日以来、マテウスは、以前よりも頻繁に、私とエレノアを誘いに来る様になった。



✿ ✿ ✿



「今日は、たくさんできたわね~」


「みんなで分け合って、持って帰りましょうよ」


今日は焼き菓子を作る授業で、それぞれ、得意な焼き菓子を作ることになった。


焼き菓子は、フールセックとドゥミセック、どちらのタイプでも好きな方を作っていい。


私はどちらかと言えば、しっとりバターが香る、ドゥミセックの方が好きで,家でも良く作る。


今日は一番好きな、ブラウニーを選んで作った。


「みんな上手にできたわね、是非ご家族や友人にも、食べてもらって意見を聞くといいわ」


調理科の先生は、みんなの作った作品をひとつずつ持って退出し、生徒たちは出来上がった焼き菓子で、お茶会をすることになった。


「このリーフパイ、綺麗にできてる、誰が作ったの~」


「アップルパイも絶品よ」


「ね~。このクリームもつけてみてよ」


皆でわいわいと、楽しいお茶会を堪能した私達は、みんなで残ったお菓子を、平等に分けて持ちかえる。


私は自分の分を、半分こにして、エレノアにおすそ分けするため、普通科の棟へ向かう。


ナナラ貴族学院は二棟に分かれていて、普通科の棟と専門科の棟があり、ふたつの棟は渡り廊下でつながっていて、廊下の両脇は庭になっている。


その渡り廊下を私は、ルンルンとご機嫌で歩く。


「あの、サンチェス伯爵令嬢 ?」


後ろから声を掛けられて、振り返るとそこにはリロイ様!


「はい!私、サンチェス伯爵家の三女!クレアと申します!」


初めて、リロイ様から声を掛けられた驚きで、もの凄く大きな声が出た。


「驚かせてごめん。僕はハワード侯爵家のリロイ、よろしくね。君は、普通科のハリス伯爵令嬢と仲がいいだろ?」


「はい、エレノアとは仲がいいです。今もちょうど授業で作った、お菓子のおすそ分けに行こうかと思っていたところです」


「へ~何を作ったの?そういえば今日は、家政科から甘くていい匂いがしてたな」


「ハワード侯爵令息様、甘いものが苦手でなければ、食べていただけますか?教師からも、食べてもらって感想をもらうように言われていまして、エレノアと半分こにしたのですが、私は授業の後にクラスのみんなと、いっぱい食べましたので」


「いいのかい?今日は、訓練に力が入ってしまって、昼を食べ損ねたんだ」


リロイ様は、きょろきょろと周囲を見回した。


「あそこのベンチで待ってて、お茶を買ってくる」


リロイ様は、私の返事を待たず、手を振りにっこりと笑って、売店の方角に走って行ってしまった。


ぽつりと一人で残された私は、言われた通りに、ベンチに座ってリロイ様を待つ。


心臓のドキドキが止まらない。リロイ様とお話ししちゃった!


少しして、リロイ様は大きなカップに、暖かい紅茶を二人分持って戻ってきた。


「お待たせ、熱いから気を付けて」


「ありがとうございます」


私は、リロイ様からカップを受け取る。


受け取るときに、少しだけリロイ様の指が、私の中指の先に触れる………う~初めてのリロイ様の手!


「相談があって声を掛けたんだけど、食べながら話してもいいかな?」


「もちろんです、どうぞ」


私は、バスケットの中から包みを出して、ベンチの上にハンカチをひき、その上に包みを広げる。


「わあどれもおいしそうだね、いただきます」


リロイ様は、次々とお菓子を口に運びながら話し始める。


「俺の騎士科の友達に、婚約者に二股掛けられてるんじゃないかって、心配してる奴がいるんだ」


「もしかしてエレノアの婚約者、ブラッド様!」


「クレアは察しがいいな、このところロドリゲス伯爵令息と、三人で連れ立って出かけるのを、よく見るんだが……まさか」


「ハワード侯爵令息様!申し訳ありません。ロドリゲス伯爵令息は、私の幼馴染で……なんだか頻繁に会いに来るのですが、ブラッド様が心配するようなことなど、一つもないのです!もし、マテウスがエレノアにちょっかいを出そうものなら、私の必殺技をお見舞いしてやりますから!」


私は立ち上がって、マテウスのすねを全力で蹴るつもりで、キックをくりだす。


「はは。地味だけど効きそうだね」


なななな。リロイ様の前でなんてことするの私~。恥ずかしすぎる…………ササっとスカートの裾を手で払い、ベンチに戻る。


んー。きっとあきれられてる……。


恥ずかしくて、俯いたままの顔を思い切って上がると、美丈夫の愛くるしい笑顔と目が合った。


あ~。素敵すぎる~。


「やましいことはないのですが……」


「それじゃあ、ブラッドの取り越し苦労なんだね、でもロドリゲス伯爵令息は、確かマイヤー侯爵家のカレン嬢と、婚約しているのではなかった?」


「その通りです、私もカレン様のことは心配しているのです。マテウスが、婚約してからは距離をとるようにしていたのですが」


「それならさ、ロドリゲス伯爵令息から誘われた時は、俺とブラッドも一緒に行くよ、それなら周囲から見ても、誤解されることはないんじゃないかな」


「いいんんですか?騎士科の皆さんは、放課後にも訓練があるので迷惑ではないですか?」


「ブラッドも、婚約者を心配して訓練するより、たまには息抜きしに出かけた方が、訓練にも身が入るしね」


「はい。お言葉に甘えさせてもらいます。エレノアも、ブラッド様との時間が増えて喜びます」


「それにしても、このブラウニー美味しいね、俺は、今日食べた焼き菓子の中では、これが一番好きかな」


!!!! 私のブラウニーが一番好き…………リロイ様の言葉に、鼓動がどんどん早くなり、膨らみきった胸の高鳴りはパチンと破裂した。


「あ あのまた作って、差し入れしてもいいですか?」


「いいの!嬉しいよ、俺甘いものも辛い物も、なんでも食べれるからどしどしお願い」


「はい、ハワード侯爵令息様が、好きなものは何ですか?」


「ん?クレア。  俺のことはリロイでいいよ、それよりクレアはなんで家政科に?」


一瞬…………。私のことが好きって言ったかと思って、心臓が止まりました~リロイ様。


「本当に、リロイ様とお呼びしてもいいのですか?」


「もちろん」


「私は伯爵家の三女ですから、よい縁談など回ってこないと、小さなころから思っておりました、それにいろいろと、自分で作ったりするのはもともと好きだったので、手に職を持ちたいと思う様になりまして。侍女は、淑女のさらに上を行く、達人みたいな仕事だと思いませんか?その中でも、王宮の侍女はその最高峰ですもの!憧れます」


「そうなんだ、ただ花嫁修業に……というだけじゃないんだな。確かに侍女たちが居なければ、淑女は成り立たないな」


「はい。リロイ様は、なぜ騎士の道に?」


「家のハワード侯爵は、文官に就くものが多く、俺もその道を進むよう親に何度も言われたが、体を動かす方が性に合っていて、騎士への道を選んだ。最初は父上も母上も、騎士科に進んだことを、悲しんでいたが、今は応援してくれているよ」


「素敵な両親ですね~。リロイ様!(大きな声)


「はい。クレア。急に大きな声を出してどうした?」


私は、勇気を出してリロイ様の手を握る。


「あの!私達、目標は違いますけど、目指す自分になるために頑張ってるのは一緒ですね!私、頑張ってる人大好きです。いっぱい応援しちゃいますから、覚悟してくださいね~」


リロイ様を見上げ、宣言する私を、じっと見つめ返す二藍色の瞳の奥で、瞳孔がぎゅっと大きく開くのが見えた。


返事をしないリロイ様に、私は慌てて手を離す。


「あのあの でも迷惑なら言ってくださいね」


「迷惑なはずがない」


自分の前髪を触りながら、早口で返事が返ってくる。


「差し入れは、どんなものが良いですか?嫌いな食べ物はありますか?」


「セロリが少し苦手だが、食べられないわけでは無い」


「はい。セロリは入れない様にしますね」


ニコニコとメモを取る私の横で、リロイ様の耳がなんだか赤い。


嫌いなものを知られたのが、恥ずかしいのかしら……。


「リロイ様に、苦手なものがあることは、みんなには内緒にします」


今日の私は、頑張った!そしてなんて幸せなんだろう、リロイ様と初めて話して、ブラウニーも気に入ってもらえて、手も握って((#^^#))♪ 嫌いな野菜も教えてもらっちゃった。


きっと一生この幸せを胸に、生き得ていける気がする。


そのあとは、マテウスの撃退への具体策を相談したり、私の苦手なものも、交換こで教えたりして、話が盛り上がった。



✿ ✿ ✿



数日後、マテウスが私とエレノアを、カフェに誘いにやってきた。


エレノアとはあの後、ブラッド様の気持ちも伝えて、作戦を了解してもらってある。


マテウスは、いつも気ままに突然来るので、まずは私が先にカフェに向かい、エレノアがブラッド様とリロイ様を連れてくる作戦だ。


「今日は、エレノア嬢は遅れてくるのかい?」


「そうよ、他の友人も一緒に来るけどいい?」


「もちろんだよ、クレアの友達は、僕の友達だ」


カフェには、馬車で数分の距離。


遅れてくる人数も伝えて、カフェのテラス席に座る。


「クレアは何食べる?」


「んー。とりあえずカフェラテにする、何か食べるかは、エレノアが来てから相談するわ」


「んー。じゃあ僕は、どうしよう」


マテウスが持っているメニューを覗き込み、おすすめのフルーツタルトを指さす。


「これこの間、エレノアと食べたけど美味しかったよ」


マテウスと、顔が近づいてしまい慌てて離れると、私達のテーブルの前に知らない令嬢が二人、腰に手を当て、私達を見下ろしている。


「ちょっと、あなた!サンチェス伯爵令嬢のクレアさんかしら」


なんだだか、棘があるいい方ね。


「はい。サンチェス伯爵家のクレアですが……。」


「やっぱり!あなたが、マテウス様をそそのかしていたのね!どこが病弱なのよ、嘘までついて、婚約者のいる幼馴染を呼び出して、カレン様の婚約をダメにするつもり!」


「やややや!私は、呼び出してなんていませんけど」


「この状況でも白を切るつもりなの!そんなにマテウス様が好きなの」


「私は、他に好きな人が居ます!こんなへなちょこ好きじゃありません。マテウスも、ちゃんと説明してよ」


知らない令嬢と揉めていると、路肩に停まった馬車から、カレン様が降りて来た。


「カレン様、こんな者の前に、出てくる必要はありません」


しらない令嬢が、カレン様に駆け寄ると、カレン様は無言で令嬢を下がらせた。


「まあ。私は、クレア様が嘘をついているようには見えません。マテウス様、説明していただけますか?」


さすが侯爵令嬢、かっこいい。


「では、みなさん座って話しませんか?」


私の提案で、カレン様と知らない令嬢2名が席に着く。


私は、カレン様に名を名乗り、挨拶してからことの経緯をお話した。


カレン様より先に、知らない令嬢二人が騒ぎ出す。


「そんなの嘘に決まってますわ、事実二人でカフェに来ているじゃありませんか、今日、マテウス様はカレン様と、美術館に行かれる予定でしたのよ」


「そうよ、お二人の仲を邪魔したに決まっているわ」


「あの、何度も言いますけど、私から呼び出したことは一度もありませんし、私は、好きな人が他に居ます」


「まあ。他に居るなら、お名前を聞かせていただいてもいいかしら?」


「私の好きな人は!」


私は、テーブルに両手をついて立ち上がる。


「黒髪が素敵で、自分の夢をまっすぐ追いかけている人です、こんなへなちょこ幼馴染ではありません」


「この場を逃れるための嘘なのでしょ、はっきり名前を言いなさいよ」


「私の好きな人はリ!」

「やめなさいあなたたち」


カレン様が、令嬢達を制するために立ち上がるのと同時に、私の口は大きくて暖かい手に塞がれた。


そして塞がれたまま、すっぽりと後ろから抱きしめられる。


「お嬢さんたち、愛しい僕のクレアをこれ以上、虐めないでもらってもいいかな」


ん~この声は……。


見上げると、そこにはリロイ様の潤んだ瞳。


走ってきたのか、背中から伝わるリロイ様の鼓動が速い。


突然現れたリロイ様に、私の鼓動も跳ね上がる。


そして私の意識…………さようなら……。なんだかみんなの声が、遠くに聞こえる。


衝撃的なリロイ様との急接近と急展開に、意識が途切れそうになる。


「まあ。大変、ほら貴方たち、カフェの方に個室を使えないか聞いてきて」


カレン様が、テキパキと指示を出しているのが聞こえる。


「クレア!」


そしてエレノアの声……。


体がふわりと浮いて、何だがとても安心する……。


ほわほわした意識の中で、なんだか枕が固くてごろりと上を向く。


冷たいタオルが、おでこに置かれてハ!と眼が覚める。


そこには、心配そうにのぞき込むリロイ様の顔。


「すすみません。わたし!」


謝りながらおきあがり……きれず…………。


私は、リロイ様にがっちりブロックされて、ごろりとまた横にされる。


もしや私は、リロイ様の膝枕で寝ている!


真っ赤な顔で、きっと蒸気も噴射してる気がする。


「ふふふふ。これをみたら、クレア様がマテウス様を誘っていないのは明白ね。さあマテウス様、今度こそちゃんと話してくださいませ」


カレン様の問いかけに、マテウスは、ぽつぽつと話し出す。


マテウスは、カレン様に見合う男になろうと頑張るも、緊張しすぎてうまくいかないことが続いて、すっかり自信を無くしてしまい、ついつい逃げてしまったこと、逃げる口実に、私の調子が悪いとか、急に呼び出されたとか、嘘をついたことを吐露した。


「カレン嬢、こんな情けない男で申し訳ない、クレアが言う通り、俺はへなちょこだ、もっと将来有望な人と、どうか婚約を結びなおしてほしい」


マテウスがぽつりぽつり話す間に、私はそっとリロイ様の膝を抜け出し、隣に座っていた。


そして、最後のマテウスの言葉を聞いて怒り心頭。


おもむろに立ち上がり、椅子に座りカレン様に頭を下げるマテウスの脛を、思いきり蹴とばした。


「いたたた。クレア何するんだよ」


「もーカレン様の気持ちをひとつも考えてない!どうしてカレン様もそのご友人も、私に腹を立てたのかわからないの、マテウスのことをちゃんと婚約者だと、認めてくれているからでしょう」


叫ぶ私の隣に、カレン様が並ぶ。


「そうですよ、私はマテウス様をお慕いしています。そして婚約者となったのですから、嬉しいことも困ったことも、私に相談してください」


マテウス様は、カレン様に抱き着いておいおい泣いた。


んー。カレン様にはもっといい人が、居るのではないかと心配になる。



✿ ✿ ✿



その後カレン様とご友人方は、ぐずぐず泣いているマテウスを慰めながら連れて帰り。


マテウスは、カレン様のおしりに引かれる形で、仲良く過ごしているようだ。


そして今日、私は【マテウスの辟易お疲れ様会】に、ハワード侯爵家にお招きされている……。


あの日から、リロイ様にはなんだか恥ずかしくて会えてない。


マテウスの誤解を解くために、恋人の様なふるまいまでしてくれて……。


いっぱい迷惑かけたのは、私の方なのに。


私は心を込めて焼いたブラウニーを、二籠持って侯爵家に向かう。


案内してくれたメイドさんに、ひとつ籠を渡して、会場の中庭に足を踏み入れる。


「先に、エレノアとブラッド様も来てるはずなのに……。」


きょろきょろとお庭を見回すと、ラフな装いのリロイ様が一輪のバラを持って立っていた。


リロイ様が、私を見つけて走り寄る。


「クレア」


私は、籠をリロイ様に勢いよく差し出す。


「先日は、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」


籠の中にはブラウニーのほかに、様々な焼き菓子に、キャンディーや塩味の効いたチーズのお菓子に、丹精込めた刺繍のハンカチも入っている。


思いつく限りの、私にできる気持ちを詰め込んだ。


リロイ様は、ひょいっと籠を受け取り開けると、ブラウニーをひとつ頬張る。


「やっぱりクレアのブラウニーが一番おいしいね、これからも作ってくれる?」


「もちろんです」


「この間は、レディーの口を塞いでごめんね、自分の気持ちを告白する前に、失恋したら困ると思って慌てて塞いでしまった」


ん? 状況が呑み込めずに、リロイ様を見上げると、二碧色の瞳に決意を感じる。


「あーもう。俺はクレアが好きだ!入学した時から、かわいいと思ってた。たくさんの教材を抱えて、真直ぐ背筋を伸ばし歩く姿も、みんなと協力して作業する姿もずっと見ていた……なかなか声をかけるきっかけがなくて、ぐずぐずしたたら友人が力を貸してくれた」


「…………。」


「俺の手を取れば、クレアの夢がかなわなくなるかもしれない……でも一緒に居て欲しい」


リロイ様は、そう言ってバラを私に差し出した。


「私も、二階の教室から、ずっとリロイ様を見てました!」


私は、リロイ様からバラを受け取り、えい!とそのままリロイ様の胸に飛び込んだ。


「私はリロイ様と一緒に居たいです」


リロイ様は、しっかりと私を抱きとめた。





「…………リロイ坊ちゃん。玄関にご友人が到着されましたよ。お茶の準備もできてます、彼女のお手製ブラウニーですよ~」


「マチルダ、坊ちゃんて呼ばないでくれよ」


「マチルダは、坊ちゃんの雄姿をちゃんと見届けましたから、奥様達に報告してきますよ~」


年配の女性が、私にウインクして手を振った。


「俺の乳母なんんだ、すまない……家以外で告白するべきだった」


すると抱き合ったままの私達を見て、歓喜の声が上がる。


「やったークレアおめでとう!」


「成功したのかリロイ!おめでとう、見てるだけの二人が、漸く進展してよかったよ~」


エレノアとブラッド様から、いっぱい祝福されて、そのあとは4人で楽しくお茶をした。


見てるだけの憧れだった私の初恋は、へっぽこの幼馴染と策士な友人たちのおかげで動き出しました。


~ 終わり ~






(#^^#)

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― 新着の感想 ―
心温まるお話でした! 短編の中でしっかり書かれようとしているところが良かったです。 全体に対して登場人物が多いので、掛け合いを厚くした中編くらいで読めるとちょうどいいかもと思いました!
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