成金令嬢 イライザの華麗なる婚約破棄〜ただし浮気をしたのはあなたなので、対価はきちんと支払っていただきます〜
「イライザ・ヴァレンティン。僕は、真実の愛を見つけたんだ。だからこの、レイチェル嬢と結婚することにした。なので成金令嬢などと呼ばれる君との婚約は、破棄させてもらうよ」
晩餐会の場でいつものようにきらびやかな衣装に身を包み、芝居がかった口調で私の婚約者だったはずの男、ミハエルが告げた。
その隣では美しい宝石とドレスで着飾った、見た目だけは可憐な腹黒女 レイチェルがクスクスと楽しそうに笑っている。
私が成金令嬢などと呼ばれる、その理由。それは私の生家であるヴァレンティン子爵家が金貸し業を生業としていて、元々は商人の出だったにもかかわらず、ついには皇帝陛下から直々に爵位まで賜ったからだ。
生粋の貴族ではない私のことを伯爵家の生まれである彼がずっと軽んじてきたのは、そのせいだった。
幾度となく繰り返されてきた、彼の浮気。
私だって別に彼のことを愛しているわけではないが、まるで私に非があるような言われようは納得がいかない。
それにこのような形で素直にこの婚約破棄を受け入れてしまっては、私の価値が下落してしまう。
それだけは、絶対に避けなければならない。
婚約破棄自体はこちらとしても願ってもいない申し出だが、こんな『真実の愛』などという薄っぺらい言葉で、私の未来まで台無しにされてたまるものか。
なので私は、にっこりと微笑み告げた。
「婚約の破棄、でございますか。……かしこまりました、受け入れましょう」
満足そうに、彼の唇が弧を描く。すると彼の新しい恋人は、嬉しそうに笑って彼の腕にしなだれかかるようにして抱き着いた。
「イライザ。今後君は結婚相手探しに困り、奔走することになると思うが、せいぜい頑張るんだな」
勝ち誇った顔で言われたから、私は首を傾げて聞いた。
「なぜ私が、困るとお思いなのですか?」
「だって君は、婚約を破棄されたんだぞ? 今後は成金だけでなく、傷物令嬢と呼ばれることになるだろうからな」
数秒の沈黙。やじ馬たちの好奇の目が私たちに集まっているのが、嫌というほど分かった。
きっと彼らは、私が泣いてこの場から逃げ出すのを楽しみに待ち構えているのだろう。
でも悪いのは、私じゃない。目の前の、この男だ。
尻尾を巻いて逃げ出す必要が、いったいどこにある?
クスリと笑い、微笑んだまま静かに告げた。
「本当に、おかしなことをおっしゃるのね? ミハエル様」
「……おかしなことだと?」
怪訝そうに、彼の片眉が上がる。
「だって、そうでしょう? 私という婚約者がありながら、あなたは猿のように節操なくそちらの女性に発情し、家同士の契約にも等しい婚約を一方的に破棄したのです。それなのに、私のどこに非があると?」
パンと勢いよく扇子を広げて口元を覆いながら告げた私の言葉に、ミハエル様とレイチェル嬢は思い切り顔を引きつらせた。
「真実の愛、大いに結構。ですが、ミハエル様。……これは完全に、あなたの有責による婚約破棄です。なのできちんと、その責任を取っていただかなくては」
「何を言ってるんだ? イライザ。この結婚は、誰が見ても不釣り合いなものだったんだ。だから君のような下品な金の亡者との婚約を、最初から僕は……」
「お黙りなさい! そもそもの話、この婚約はあなたのお父様から持ちかけられたものです。あなたと結婚をすることで、借金の利息を下げて返済期限を延ばして欲しいと。……って、そのお顔。もしかしてあなた、何も聞かされてはいなかったのですか?」
見る間に青く染まる、ミハエル様とレイチェル嬢の顔色。
「さて、これからどうしましょうか? 婚約の破棄が決まった今、そのような約束は無効ですものね。まずは延ばしていた返済期限を元に戻し、即時の返金を求めましょうか。利息も当然、規定通り払っていただかないと。それから、慰謝料の請求も必要ですわね」
ガタガタと震えるミハエル様に、笑顔のまま囁いた。
「あらあら、そんなに怯えて。随分と、お可愛らしいこと。……でも私も、悪魔ではありません」
その言葉に、ホッとしたように表情をほころばせるミハエル様。
しかし次に告げた言葉は、彼を地獄の底へと突き落とした。
「なのであなたを廃嫡とすることでとりあえず返済期限はそのまま据え置き、今後の利息のみ元に戻すとしましょう。まぁ慰謝料は、きっちり耳を揃えて支払っていただきますけれどね」
その時だった。それまでミハエル様の隣でじっと黙ってやりとりを見守っていたレイチェル嬢が、金切り声を上げた。
「冗談じゃない! ミハエル様、あなたが爵位を継ぎ、贅沢をさせてくれるというから付き合ったのに。これでは、話が違います。さようなら!」
それだけ言うと彼女は、ミハエル様を置いてさっさと大広間をあとにした。
「そんな……。レイチェル、待ってくれ! 君は僕のことを、愛していると言ってくれたじゃないか!」
みっともなく泣き崩れる、ミハエル様。
その顎先に扇子を当てて顔を上げさせ、無理やり視線を合わせて笑いながら告げた。
「フフッ。随分とお安い、『真実の愛』でしたね?」
【了】
短いお話ですが、書いていてとても楽しかったです。
少しでも多くの方に楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。
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