海蝕
スチームパンク的な近未来パニックモノです。ハーレムなし、チートは小出し、メカ。サイボーグ好きなのでなるべく出していきたいと思っています。初の投稿で至らない点も多くお目汚しになるとは思いますがお付き合いの程よろしくお願いいたします。
2041年。
旧津軽海峡の底、通称「鉄の谷」。昔は観光名所にもなっていたらしいが、今じゃあ見る影もない。 葛飾北斎の富岳三十六景に描かれるような荒波はなく、ただ塩交じりの砂と泥が延々と続く荒廃した大地が続いているだけだ。
海が干上がり大陸と陸続きになってしまった日本。今は大陸から押し寄せてくる巨大な装甲列車『赤龍』が、函館の関所を突破しようとしていた。迎え撃つのは、日本の自治都市となった青森と北海道の合同防衛軍第7師団。
蒸気機関の咆哮と共に、霧の中から姿を現したのは、背中に巨大な冷却塔を背負い、右手にパイルバンカーを装備した純国産の重蒸気甲冑『武御雷』だった。
「総員、排気弁閉鎖! 内圧最大! 白兵戦用意!」
視界ゼロの濃霧の中、蒸気の噴出音と金属がぶつかり合う音が響き渡る。日本を守るための、熱く、濡れた戦いが始まった。
2027年、聞いたことが無い気味の悪いサイレンが鳴り響く、だがサイレンの原因はわかっている。かねてより騒がれていた南海トラフ沖巨大地震がついに発生したのだ。当初予想されていたその威力は最大でM9、これは1960年に発生した観測史上最大規模のM9.5チリ地震に匹敵すると言われていた。が…実際は予想を遥かに上回る【M10.1】だった。
震源地はマリアナ海溝付近とみられ、まだ地震被害の記憶に新しい人々、特に沿岸部の人達は大津波を警戒し高台へ避難していった。
揺れは確かに大きかったもののビルの倒壊などはなく、電柱や家屋の倒壊が所々にみられたくらいに収まった。連日テレビやニュースで語られていたほどの被害はなく、なので高台へ避難する人々も余裕をもって避難していた。当時の俺はまだ10歳で神戸の学校に通っていた。なので南海トラフ直撃エリアにいたわけだが運悪く地震の当たり年にそこにいた。神戸は【阪神淡路大震災】を経験しているせいもあり、我が校では防災に関してはかなり徹底されていたので全校生徒で六甲山への避難開始が始まった時も慣れたものだった。
「けっこう揺れたけど逃げるほどじゃねんじゃねーの?」
クラスの誰かが言っていたのを覚えている。俺もそう思った。
新年早々とも言える1月半ば、一番山を登りたくない季節と言えるんじゃないだろうか?
そんな愚痴をこぼしながらも約1時間ほどで山の中腹に到着、ここは絶景スポットとして知られるパーキングエリアで、神戸の夜景を一望できるカップルに人気のスポットだ。
六甲山の中腹から登ってきた神戸の街を見下ろす。が、視線の先に見慣れた風景はなかった。
いつもは穏やかな神戸港の海は水平線の彼方まで引いていく。神戸の海は干上がり、ヘドロと砂と傾いた船、海底が露出する不気味な荒野となっていた。
「津波が来る…」
クラスの誰かが言ったの覚えている。俺もそう思った。
全校生徒にさっきまでの緩んだ雰囲気は一切なく、無言でさらに高台へ逃げるがいつまで経っても波は来ない。しかし海はますます引いていく。引き絞った弓矢はその威力をさせるが、こんな潮の引き方の津波って…
後にこの現象は皆既日蝕になぞらえ【海蝕】と呼ばれる。
① 2027年:崩壊と「白き闇」の始まり(大地震発生直後〜)
フェーズ1:沈黙の海
大地震による大規模な地殻変動は深海プレートに亀裂を生み、そこへ約20%の海水が地殻内へ流入。その結果世界の海面は約900メートル低下、全ての港湾都市は海へのアクセスを失い、巨大な崖の上に孤立することになった。船舶は座礁し、大陸棚が露出、新しい陸地が生まれ島国だった日本は大陸と陸続きになった。
M10.1の衝撃が地球を数周した後、人々が目にしたものは津波ではなく、地鳴りと共に地表の亀裂(世界各地のプレート境界)から立ち昇る巨大な【蒸気柱】だった。
フェーズ2:地獄の釜(大地震発生から2日後)
来るはずの津波はどこへ消えてしまったのか。津波の行方はプレートの裂け目から地下に流れ込み、大量の海水は1000℃以上のマントルに触れ水蒸気となる。水は液体から気体(水蒸気)になると体積が約1700倍に膨張し、逃げ場を失った水蒸気は噴火口や休火山、プレートの裂け目から吹き出すことになる。これにより世界同時多発水蒸気大噴火が始まった。
これは間欠泉のような生易しいものではなく、地殻を破壊しながら噴出する水蒸気爆発だった。まるで大型飛行機のエンジンの真下にいるような轟音が世界中で鳴り響いた。
この現象は「地球規模の煮沸消毒」だった。 津波が来なかったことに安堵したのも束の間、人類は「溺れる恐怖」ではなく、「蒸される恐怖」と戦うことになる。数日で世界は熱い霧に包まれ外気は50℃、湿度100%。エアコンの室外機は機能不全に陥り、電力網は湿気による漏電と発電所のダウンで崩壊しはじめた。
「熱」が最大の敵となり人々は地下街や、気密性の高いビルへ逃げ込むが、停電により換気が止まり、多くの場所が「蒸し風呂の棺桶」と化す。
フェーズ3:錆びた夜明け(大地震発生から1ヶ月後)
精密機器の全ては【熱、湿気、塩分】のどれかに侵食されると故障を免れない。そして世界を覆うこの白い闇はそれら全ての性質を纏っていた。噴き出した大量の水蒸気は成層圏まで達し、地球全体を分厚い雲で覆い、太陽光は完全に遮断され地上は昼夜の区別がない乳白色の薄暗闇に包まれた。
通常、雲は日光を遮り寒冷化を招くが「熱を持った蒸気」そのものであるこの白い闇は温室効果をもたらし地表の温度は下がらず、むしろ上昇することになった。
高度な電子機器(ミサイル誘導、レーダー、通信衛星、ドローン)は、高熱・高湿度・高濃度塩分により全滅。精密なアビオニクスが機能せず、また高温による空気密度の変化やエンジンの吸気効率悪化で、現行の戦闘機は飛行不能になり、軍事技術は第一次世界大戦レベルかそれ以前程度のアナログ技術に逆戻りすることになった。




