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鎮守の村  作者: 六條京


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沈黙の掟

由紀子が女将に無理やり問い質すと次のことが分かった。

行方不明になった青年の名は、祐介。

二十四歳で田の管理を任されていたという。

他の宿泊客の誰に聞いても「働き者で、悪い子じゃなかった。」と口を揃えるが、そこから先の言葉は続かない。


「警察には?」

由紀子がそう尋ねると、女将はわずかに首を傾けた。

「……あの人たち、ここまでは来んのです。」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。

「来ないって、通報したら――」

「“ここまで”は来んのです。」

同じ言葉を繰り返す女将の声は、静かだが断固としていた。

外界とこの村の間に、目に見えぬ境界線があるような口ぶりだった。


その夜。宿の外では、太鼓の音が響いていた。

何かの儀式でもしているのだろうか。

障子の隙間から覗くと、村の中央の広場に人影が集まっていた。

裸電球の明かりの下で、老人たちがぐるりと円を描いて座っている。

中心には、白い布をかけられた何か――。

その布が、微かに動いた。

由紀子が息を呑んだとき、背後で畳がきしんだ。

振り向くと、宿の女将が立っていた。

「……見ん方がええです。」

女将の顔は、泣いているようにも、笑っているようにも見えた。

「“外の人”は、見たらあかんのです。うちらの“夜”を」

そして、女将はそっと障子を閉めた。由紀子がそれ以上のことを問うのを拒んでいるようだった。


太鼓の音が遠のくにつれて、胸の奥に残るのは奇妙な確信だった。

――この村では、人が消えるたびに、何かを“隠す”儀式が行われている。

それを村人全員が知っていて、見て見ぬふりをしているのだ。


翌朝。

由紀子が宿を出ると、広場は何事もなかったように片づけられていた。

ただ、地面の中央に、円形の焼け跡だけが残っていた。

黒く焦げた土の中に、白い骨片のようなものが混じっている。

「それ、何ですか?」

村の若者に尋ねると、彼は目を逸らし、わずかに笑った。

「知らん方がいいです。……ここでは、全部“みんなでやる”んで。」

「みんなで?」

「ええ。ひとりが間違うと、みんなで正すんです。そうせんと、村が壊れてしまいます。」

「壊れる?」由紀子は聞き返したが若者は質問に答えようとしなかった。

「あなたはそれでいいの?何の疑いもなく、善悪も判断せずに大人の言われるままに生きて。」

「仕方がないのです。この村では“疑問”をもつことは“罪”なのです。消されたくなければこうするしかないのです。」若者の声には必死さと恐怖と諦めの響きがあった。


その言葉を聞いた瞬間、由紀子はようやく理解した。

この村に“個人の罪”という概念はない。

あるのは、“村全体の均衡”だけだ。

だから、誰かが外れた瞬間――

その「誰か」は、“いなかったこと”にされる。

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