何言ってるの!?この人
それは王国建国600周年の記念パーティーの最中に起こった
「多恵忍、お前との婚約はこの時この瞬間を持って破棄する。お前は我が愛しの浦山椎嬢に対する嫌がらせの数々は見過ごすことはできぬ。よってお前との婚約は破棄しこの椎嬢と婚姻を結ぶ」
そして忍が椎に対して行った嫌がらせを並べ立てる。ただしその全てがでっちあげだ
何言ってるのこの人!?こんな重要な行事の真っ只中におかしなこと始めちゃって。って、俺ぇ!?
この瞬間前世の記憶が蘇る。俺は21世紀の日本で生まれ育った。死因は特に面白みもないし話の展開になんの関わりもないので置いておく。平凡な大学生だった。金をかけずに暇を潰せるのでネット小説を読みまくっていたが、その中には定番中の定番な婚約破棄をした王太子が悲惨な末路を辿る話が多数あり浅はかさを笑っていたのだが、今の俺はその考えなしに婚約破棄をやらかした王太子だ。
何故このタイミングで記憶が戻るかなー。やらかす前に戻れよ!俺の記憶
この世界は街も城も人物も中世ヨーロッパ風、というよりいかにもこの手の物語な世界なのに何故か人の名前だけは日本語風だった。ちなみに話している言葉は異世界語(?)ここでは他の言語は知られていないので言語の名前はない。そんな世界観の話を読んだ記憶はないので特定の話の世界に迷い込んだわけではない、と思う。
前世の記憶を取り戻したが、王太子としての半生の記憶もしっかりと残っている。それによると多恵忍は公爵令嬢。ご多分に漏れず政略結婚であるが、誠意を持って婚約者として行動していた。浦山椎に対する嫌がらせなど一切なく、むしろ何かと気にかけていたのだった。
容姿派手さは欠がなかなかの美人。性格も真面目で誠実。どちらも、もろ好みだ
一方の浦山椎は男爵令嬢。こちらは性格も容姿もとにかく派手。男に媚びるのが上手いいかにも婚約破棄モノに出て来て王子にひっついて婚約者にあっかんべーしてそうな女。どう考えても疫病神。関わりたくない
なのになんで公爵令嬢との婚約破棄して男爵令嬢と結婚するとか何考えているんだよ、王太子
とにかくこのままでは身の破滅。廃嫡されて追放されて・・・・
ところで俺将来国王になりたいか?いや、国王なんてなりたくないぞ。面倒だし自由もないし。特に威張り散らしたい欲求なんて無いし。追放されたら困るか?困ることは困るかもしれないが、窮屈な城での暮らしと比べればむしろ悪くないかも。処刑や幽閉はなんとしても避けたいが追放なら良しとしよう。
公爵令嬢と結婚したいか?いや、好みであっても特に恋愛感情は無い。結婚できたらラッキーかも知れないけれど、出来なくても別に何ともない。憧れのアイドルと結婚できないのと大差ない。
男爵令嬢との結婚。これは避けたい。厄介事が押し寄せそうな予感しか無い。ここはあえて軽率王子を演じて廃嫡されてどちらとの結婚もなし。王室からの追放を狙ってみることにしよう。
というわけで忍に話を振ってみる。
「おい、忍。何か申し開きはあるか」
「あら、多恵公爵令嬢にして王太子の婚約者たるこのわたくしが、たかだか浦山男爵の小娘を階段から突き飛ばそうが(むしろ自分で落ちそうになったのを助けようとしてましたよね)教科書を破り捨てようが(椎が教科書に落書きしているのを咎めたら逆ギレして自分で破いただけですよね)ドレスにワインをかけようが(むしろ椎にかけられた被害者ですよね)悪い噂を流そうが(流れた噂は概ね事実な上にむしろ否定して回ってましたよね)とやかく言われる謂れはありませんわ」
何言ってるのこの人!?冤罪を否定しないどころか無茶苦茶悪役令嬢なこと宣ってるよ!?自分の立場悪くしてどうするの?
そこへ国王が現れる
「大体の事情はわかった。我が息子、王太子と多恵公爵令嬢忍との婚約は破棄とし、忍嬢は公爵家籍を剥奪の上修道院送致とする」
何言ってるのこの人!?事実関係を確かめもせず決めちゃっていいことなの?
更に言葉を続ける親父
「王太子と浦山男爵令嬢椎殿との婚姻を認める。幸いなことに招待すべき面々はこの場に揃っているし、大司教様も臨席なさっている。これより二人の婚礼の儀を執り行う」
何言ってるのこの人!?話が性急すぎるでしょう!
話は終わらない
「息子は公明正大ではあるが、いささか自己主張が弱いので心配しておったがこのような場できちんと言うべきことを言う気概を見せた。もう憂いはない!よって婚姻の儀が終わり次第余は退位し王位を王太子に譲る」
何言ってるのこの人!?前世の記憶を取り戻す前の王太子割とワガママ言い放題だったよね。今回だっていうべきことを言ったのじゃなくて、やらかした。だよね!?むしろ典型的専断偏頗だよね!?
ここで大司教が登場する
「これは目出度い。若き二人の婚姻の儀の司祭の栄誉を戴けるとは恐悦至極。更に目出度いことに昨晩神のお告げがありまして、殿下は建国の祖、初代国王の生まれ変わりであるとのことにございます。合わせて聖人の襲名が相応しいかと存じます。椎嬢も聖人王の后に相応しき魂の輝きが見て取れまする」
何言ってるのこの人!?俺の前世は平凡な大学生だよ。前世の俺も記憶を取り戻す前の俺も俗人もいいとこだよ。
椎令嬢爆弾発言
「お腹の子も殿下の子として生まれてこられるのですね。王太子と結ばれるには純血が求められるので・・・・
でも、殿下を思う気持ちもあり拒むことが出来なくて。そもそも忍様という婚約者が居るからどうせ結ばれることが出来ないのであればと・・・・」
何言ってるのこの人!?俺あんたを侍らせててゃいたけれど、手を出してはないよね。
国王が答える。
「ああ、問題ないともこれでも一刻の支配者として多くの民を見てきた。人を見る目には自信がある。君はウソを付くような人間じゃないことはよく分かる」
大司教も続けて言う
「その通り。貴女の胎内からは殿下譲りの神聖な魂の輝きが見えます」
何言ってるのこの人たち!?こんな真っ赤っ赤な嘘くらい見抜いてよ。俺の子じゃないから俺譲りの輝きなんてありえないよ!俺の子だとしたら尚更神聖な輝きなんてありえないよ!!
すっかり精神力が削られまくって半ば魂が抜けた状態で結婚式と戴冠式が行われたらしい。唖然呆然で記憶があやふやだ。
ふと我に返ると
「後のことは任せたぞ。前国王は前王妃とこのまま旅に出るから」
何言ってるのこの人!?国王の仕事の引き継ぎ一切していないよね!?責任感とか無いの?
「どうやら少々呑み過ぎたようだ。すまないは俺は下がらせてもらう。皆のものは引き続き宴を楽しんでくれ」
夜逃げだ夜逃げ。後のことは知らん
が、がしっと肩を掴まれる
「何言ってるのこの人。貴男は全然呑んでませんよね。逃がしはしませんよ」




