追いかけっこ珍道中
というわけで閑話です。場所が変わって混乱したかたは申し訳ありません。
この頃あんまり緩和出してなかったので、楽しみにしていた方もいたのではないでしょうか?(…本当にいるかは置いておいて。そういう気分にさせてください。)
今回は、前までの閑話と同じ感じホンワカ系なので、身構えずに読んでもらって大丈夫です。
今年も、夏がやってきた。
今年の夏は特に熱く、危険だからといって、焔城から、新しく俺たちが居城とする焔光城への荷物の運び込みが、夏対策設備以外中断されるほどだ。
そんな中、俺が何をしているかというと…
「待てお前ら!!!!!」
「や。」
「や~だねぇ。」
焼け落ちた焔城城下、江戸の町で、壮絶な追いかけっこを繰り広げていた。
ことの発端は、十分前ほどさかのぼる。
「あれ?どこにやったかな?」
「輝?」
「どしたのぉ?」
「いや、今後の予定が書かれてる表をここに置いてあったはずなんだけど…」
「どんなの?場合によっては見てるかも。」
「多分、ひもで巻かれた紙だったはずなんだけど…」
「あ、」
「どうした、陰?」
俺がそう聞く前に、双子は無言でそっぽを向いて走り出す。そして、一目散に駆け出した院の手には、明らかひもで巻かれた紙が!
「あいつら!」
そんなわけで、俺と、少し先を行く二人は、火が照り付ける暑い城下町を、水も何も持たずに走り続けていたわけである。
双子が逃げ出してから、かれこれ二時間以上は経過している。
俺もそうなのだが、こんな長時間も、夏の空の下ではしりつづけることができるのは、日々、鎖の途方もなく厳しい訓練の賜物だろう。それにしても…
「あいつら、どこまで行く気だ?」
二人の進行方向は、ちょうど、俺たちが今、焔城の代わりの寝場所として泊っている宿舎と反対。
いや、別に何もないとかいうわけではない。というか、その方向のほうが住宅地や店が多い。だが、二人がその方向に行く理由がわからない。
「ま、とにかく追いかけるしかないか。」
そういって俺は、何も知らず街を行き来する人々の合間を縫い、常に双子を視界に収めるように注意しながら走る。風の抵抗をなるべく受けないよう、姿勢は低く。意識は、二人を視界に収める眼球と、足の回転率を上げることにだけ集中する。
その光景を、異様に思って首をかしげるものがほとんどだが、中には、なじみの鍛冶屋のおっさんのように、笑って手をたたきながら見ている者もいる。中には、一緒に走ろうとするものまで。
本来なら咎めたいところなのだが、周りの人たちはおろか、追われている党の二人も楽しそうにしている。そのうえ、もうじき俺たちは江戸を離れることになるから、このような機会が最後にあっても、バチが当たることはないだろう。なら…
俺は偶然となりに至家臣から、一つだけあるものをもらう。それは、焔雲家の家紋が書かれた旗標だ。俺はそれを丸め、遠くにいた双子に投げる。それまでは後ろも見ずに逃げ回っていた二人も、どうやらこちらの考えていることが分かったらしく、さらに期限のよさそうな笑顔を満面に浮かべ、その旗を掲げてみせる。
「みんな、助けてくれ!うちの旗があいつらにとられたんだ。捕まえるのを手伝ってくれ。協力だけでもしてくれたら、うちで餅一人五十個ずつおごってやるぞ!」
その声を聞いて、今まで首をかしげていた人たちも、「餅をくれるなら」ということで二人を追いかけ始める。
そして双子のほうも、「捕まえられるなら捕まえてみろ」といった顔で、再び前を向いて走り始める。
こうして突如、江戸の町での、追いかけっこ耐久走が始まったのだった。
結局あの後俺は、みんなとともに走りながら道中の店などで水を買い、食べ物を買い、汗を服用の布を買い、参加してくれたみんなに渡すための餅を買い…あれ?今日って買い物する日だっけ?
ふと違和感を感じ財布を見れば、もともと入っていた五分の一ぐらいの残高に…
「………………みない、みない。」
追いかけ始める時間が割と遅かったからか、先ほどまで青く輝いていた夏空は、今では星月夜に沈み始めている。さすがに街の人たちはもう、餅を渡して解散してもらっている。
「輝。」
「来ないのぉ?」
思わず空に顔を向けていた俺に、先を行く二人があおるように声をかける。どうやら、立ち止まる気は一切ないようだ。
「お前ら、いつから追いつかれてないと思ってた?」
「?」
「え?」
「だって…俺、一回も能力使ってないぞ?おまえらは氷やら液体やら狐やら使ってたみたいだけど。」
過去にも一回行ったことがあるかもしれないが、もともと焔雲家の城下に住んでいた人たちは、そのほとんどが、俺たちが特別な力を持っていることを知っている。俺たちへの信頼が厚いためか、その情報が外部へばらされたということも、聞いたことがない。もっとも、わざわざほかの人に伝えるまでもない、と思われている可能性もあるが。
「…スゥー、ハァー。陰?」
「うん……………影、撤退!撤退!!」
「ごめんけど、もうおそい!」
そういって俺は足から炎を少しだけ吹き出し、二人の間で肩を組む。
「わぁっ!!」
「…っ///」
「シシシッ」
後ろから突然肩を組まれ、楽しそうに叫ぶ陰と、驚いて固まる影。対照的で、それでもどこか似ている二人の反応に、思わず無意識に笑みがこぼれてしまう。
俺はその笑みを無理やり喉奥に押し込み、二人の間に手を差し出す。
「忘れてたかもしれないが、そろそろその髪、返してもらおうか?」
「あのさ、輝。」
「?」
「…じつは、これ嘘で~す♪」
「………はっ⁉」
俺が困惑していると、二人は一緒に、巻いてあった紙を開く。そこには確かに、何も書かれていない白紙の紙があった。
「お前ら、図ったな?」
「何のことかなぁ?」
「それより、輝。むこう見てみて。」
影が指さした方向を見ると、そこには偶然か必然か。見慣れた、いや、目に焼き付いた「あの日」の景色が広がっていた。
俺たち三人が立っているのは、二人と初めて出会った日、二人が盗みに入っていた家の屋上だった。そして空には、俺たちを祝福するかのような満月が夜を飾っている。
「………………お前ら、ここまで予想してたのか?こうなることも。最後、ここにつくことも。」
「いや、別にぃ?」
「想定外なことはあった、とだけ。」
「そうか。って、お前ら、その髪…」
そこには、髪をくくっていた紐をほどいた二人の姿があった。
すっかり忘れていたが、もともと二人は最初あったころ、あまり髪を結ぶことがなかったのだ。
それがこちらに来てからというもの、いつの間にか、髪をよく結ぶようになって…
「もう一年以上も経つのか。早いな………………………てか!俺、ここまで完全に無駄足だったじゃねえか!!」
「安心して、ヒカル~」
そう陰が言うと、影がもう一つ、別の紙をひらひらと見せる。
「それは本物なんだな?」
「さすがにねぇ。」
「そこまで意地悪はしない。」
「そうか。それにしても、久しぶりにここまで疲れたな…って、お前ら早くね?」
俺が後ろに寝転がると、その体に二人が左右で頭をのせてくる。少し位置をずらそうとするも、その時にはもうすでに二人は気持ちよさそうな寝息を立てていた。
「ハァ…仕方ないな、こいつらは。」
今日の夜は、もう少しだけ長く続きそうである。