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雨降れ、雪降れ、狐降れ?

「…ついにこの季節がやってきたか。」

「季節が過ぎるの早いねぇ。」

「…まず状況を説明してくれない?」

二人が仲間に加わってから時は過ぎ、はや師走(十二月の意)。

山の熊は冬眠し、周辺からは椋鳥(ムクドリ)の騒がしい叫び声が聞こえる。

雪は昼夜問わずしんしんと降り積もり、外に出れば美しい銀景色と、凍てつく風に揺られる枯れ木が同時に見える。外に出たいのか出たくないのか、夏以上によくわからなくなる季節である。

そんな寒い寒い冬の、現在明け六つ(午前六時)。

俺と陰、影の半纏をまとった三人は、まだ日が昇りきらずぼんやりとしか見えない焔城の門前にたたずんでいた。俺は仁王立ち、二人はしゃがんでいた、という方が正しいだろうか。

本来ならば、この時間帯は城内でごろごろしているか、外で遊んでいるかのどちらかなのだが、今日に限っては、そういうわけにはいかない。なぜなら…

「お前らは急にここに呼ばれて不服極まりないだろうが、手伝ってほしいことがある。簡潔に言う。蝶番(ちょうつがい)は凍ってるわ、門の前に雪は積もるわで、現在門が全く動かない。」

「それに関してはいつものことでしょぉ?」

「いやまあそうなんだが、今日に関してはその重要性が違う。」

「門が開かないのに重要性も何もないような気がするけど…」

「いや、今日は…」

「「?」」

「…幕府の視察団が来る日だ。」

「あぁ…」

「なるほど。で、いつ来るの?」

「今から一時間後。」

「…今なんて?」

「ちょっと耳が遠くなったかもぉ。もう一回言って?」

「今から一時間後だ!」

「…」

「なんだ?」

「…できると思うの?」

「無理に決まってるだろ。」

「じゃあ何でよぉ!」

「とりあえずやってる体にしとかないと示しがつかないだろ!将軍様に向かって寝坊して雪搔きが間に合いませんでしたなんてとても言えたものじゃないのはわかるだろ!」

「…」

「…」

「…さ。というわけで、今から雪搔き―」

「いぃやぁだぁ!」

「全力で拒絶させていただきます。」

「おい!」

「輝の炎で何とかならないの?」

「炎で何とかしたとして、それが門まで広がらない保証はあるのか?」

「ムゥ…」

「まぁ、ないよねぇ。」

「だからそう言って…あれ?」

「どしたのぉ?」

「なあ影、お前、雪を氷に変えたりできないか?一回溶かしたりして。」

「まあ、状況によってできたりできなかったり。今日は調子がいいからできるかもだけど…」

「そうか…そうか!」

「ねえ、ものすごく嫌な予感してるの、私だけかしらぁ?影。」

「いや、それに関しては私も共感。」






―輝が本人曰く「名案」を思い付いてから、約一時間後―

「なあ輝。今風邪をひいて休養している閃光の代理である君に質問があるのだが…」

「あのくそ親父。こんな時にまで風邪ひきやがって。」

「何か言ったか?」

「いえ、何も。それで、質問とは?」

「いわねばわからんか?」

「はい。」

「ハァ…輝。君の私へのもてなしの心には、深く感謝しよう。冬場の雪搔き、それに山間部なのだから、大変苦労したのだろう。だが…」

「…はい。」

「…ここまで氷で門を豪華にしなくてもよかったのだぞ。」

輝と双子、そして将軍の使節団の目の前には、その全体が氷に覆われ、両端からは翼のような氷柱が生えた焔城正面門、通称「焔門」が建っていた。

「輝。」

「はい。」

「お前…雪搔きさぼろうとしたな?」

「そそそ、そんなことあるわけないじゃないですか…」

「さすがにわかるぞ。特に、お前のそばの二人の目線でな。」

「お前らのせいじゃねえか!」

「嘘ついたらだめだよぉ。」

「輝がやれっていうからやったまで。」

「ぐぬぬ…」

「ふっ、まあ、今回は面白いから許してやろう。来年も期待しているぞ。」

「え、は、はい…え?」

そんなわけで、俺たちは来年も、この門を氷で飾り付けないといけなくなったのであった。






「ふぅ、疲れた。」

半年に一度の、それも俺としては初めての、将軍との面談が終わり、俺は一人、先の焔門の前で寝転がっていた。現在暮れ三つ(午後三時)。鼓膜が破れる以下と思うほどうるさかった椋鳥も、今はその鳴き声の片りんすら、聞こえてくる気配がない。

「ようやく、静かに過ごせ―はあ⁉」

「やぁっほー」

「…」

俺が目をつむろうとした、その刹那。

どこからか現れた二人が、俺の腹めがけて飛び込んできた。

何が何だかわからない俺に、二人は何の説明にもなっていない説明を加える。

日和見(ひよりみ)(気象予報士)によれば、今日の天気は雪、時々狐。」

「はぁ…」

「甘えたがりな狐にお気を付けを、だってさぁ。」

「どうやら今日は、雪合戦をしたい気分だそうな。」

本音を隠しているつもりなのか、はたまた隠す気などさらさらないのか。どちらにせよ、ここで聞いてしまったからには、このまま放っておくわけにはいかぬまい。

「誰に喧嘩売ってるのかわかっていってるか?俺は将軍様と手合わせでは負けた覚えしかないが、雪合戦では勝った覚えしかない。「雪投げ輝」の真骨頂見せてやる!」

「なら、こっちは数的有利で戦うまで。」

「負ける気なんか、露ほどもないよぉ?」

そんなわけで、突如として始まった雪合戦は勝負が決まらぬまま、暮れ六つ(午後六時)に鎖が夕食に呼びに来るまで続いていたのだった。

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