第二王子アルフォンスの最期
アルフォンスざまぁです。
追放されたアルフォンス・アウレリウスは、辺境の修道院に幽閉された──というのが表向きの話だった。
実際には、王家の体面と神殿の威光におびえた王は、彼を「存在しなかった者」とするため、最果ての監視塔に密かに送ったのだ。
その地は“無音の谷”と呼ばれ、かつて聖女候補が試練の末に命を落とした場所でもあった。
「……ここが、俺の終わりか」
アルフォンスは、凍てつく石床に膝をついた。
食事は一日一回、言葉も交わさず、ただ与えられるだけ。
鏡もなければ、火もない。
季節を知る術も、他者の声もない。
最初の一月は、王子だったという自負が彼を支えた。
「王は必ず俺を戻す。誤解は解ける」と信じていた。
だが、次の一月で彼は気づいた。
世界が、彼を完全に見捨てたことに。彼の他に、誰もいないのだ。
それでもなお、彼は「聖女は偽物だ」と呟き続けた。
神託など虚構。あれは神殿の陰謀。
そうでなければ、自分がこんな目に遭うはずがない。
だがある夜──その声に“返事”が返ってきた。
「虚構を信じるのは、誰だったのだ?」
低く深く、響くその声に、アルフォンスは頭を抱えた。
鏡がないはずの部屋に、石壁の水跡が浮かび上がる。
そこには、彼の顔が映っていた。
頬はこけ、瞳は濁り、唇は紫に変色していた。
もはや王子ではなく……ただの“罪人”だった。
「うわぁぁっ」
アルフォンスは叫んだ。
「違う! 違うんだ!リュシアが、全部リュシアが……!」
だが誰も聞いていない。
叫ぶほどに、自分の声が遠くなる。
自分が自分でなくなっていく。
知らぬ間に涙が流れていた。こんなはずではなかった。こんなはずではなかったのだ。
神の裁きは、ただ外的な罰ではなかった。
王族の礼節を保たなかった、“自分自身の傲慢”という檻に、彼を永久に閉じ込めた。
彼は、生きながらにして“消された”のだった。
そして、数年後。
監視塔は、地図からも削除された。
記録にも残らず、名前も呼ばれず、
まるで最初から存在しなかったかのように。
それが、第二王子の終焉だった。
ちょっとかわいそうだったかな?