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第32話 みんなありがとう

 とうとう発表の順番が来てしまった。私は緊張しながら、演台へ向かった。自分の脚が、自分の脚でないようだ。


「あ……、え……」


 なんというか、声が上手く出ないね。


 そんな中、誰かが大きな声を出した。


「ひいらぎ~、がんば~」


 支子が叫んでいた。そういえば、部員と一緒だと、いろいろ気を使うだろうから、あとで来ると言っていた。


「きてくれたんだ」


 私は声には出ないが、口を動かしてそう言った。思わず、口には出ない声を発したと言ったほうがいいのか。


 また、大きな声を出す者がいた。


「茶道の時の緊張と比べれば、こんなのは緊張のうちに入らん。しっかりしろ!」


 顧問の小海先生だった。すでに客席のほうへ移っていたみたいだ。


 はははは……


 はははは……

 

 客席から、笑い声が上がった。


 おそらく細かいことは分かってないのだろうけど、何か笑いのツボに入ったのだろう。


 しかし、この雰囲気なら『できる』。そう思った。


 ……


「以上で、説明を終わります」


 ゲームの説明はできた。後は質疑応答だ。


「説明が終わりましたので、審査員の方々、質問があれば挙手をお願いします」


 私は誰も質問してくれないほうが良いなぁと思ったが、誰もいないということは、このゲームが魅了的ではないことを意味する。どっちが良いのか、自分自身、わからなくなってきた。


 若干派手な容姿の中年の男性が手を挙げた。


「横スクロールアクションなのに、ストーリがありますね。しかし、最初から面セレクトでほとんどの面が選べます。あまりゲームをやらずに、ストーリーだけ追う人もいるのでは?」


 おっと、これは音谷がした質問と同じだ。私は即座に答えた。


「ゲームをプレイしてくれた人が、難しすぎて最後までプレイできなかった時のために、最終面以外は自由にステージを選べるようになってます。単にシナリオだけ読みたい人は対象になっていませんし、いきなり終盤のステージをプレイしても、ステージ最後の会話までたどり着けないと思います」


 これを聞いた男性が、うんうんと頷いて納得しように思えた次の瞬間、こう発言した。


「難しすぎて最後までプレイできなかったときのためにステージセレクトがあるということは、結局は難しいステージを飛ばして、すべてのステージをやらずとも、最終ステージがクリアできちゃうこともありますよね。そりゃあ、初プレイでいきなり最終ステージの1つ前からプレイすれば、ゲームに慣れてないので、クリアはできないでしょうが」


 困ってしまった。確かに飛び飛びでステージをクリアし、ストーリーを読み、ゲームクリアできてしまうこともある。シナリオも十分楽しまずに。 


「そう言うこともありますが、ステージセレクトがあると、難しいが一度偶然クリアしたステージなどを飛ばしたりできます。ゲームは1日でクリアする人はあまりいませんし、あまり仕様をガチガチにしてしまうと、気軽に楽しめなくなってしまいます。飛び飛びでクリアした人は、それで満足なら、それでいいのではないでしょうか」


 私はなんとか擁護する言葉をまとめた。


「そうですか。わかりました」


 男性はそう言って、腰を下ろした。



「審査員の方々、他に質問はありますか?」


 老齢の男性が手を挙げた。


「重量が反転しますが、すぐに重量の方向を反転させると、プレイ間隔が少しおかしくなったりしませんか?」


 うーん。そうきましたか。


「重力は徐々に0に近づけて、0になった後に、反対方向へ徐々に重量をかけていますので、それほどプレイ間隔はおかしくなりません。徐々にと言っても、1秒ちょっとの間ですけど」


「なるほど。納得しました」


 この後もいくつか質問があったが、とりあえずなんとか乗り切った。


 そして、最後にこう聞かれた。


「このゲームについて、なにか一言ありますか?」


 もう疲れ切っていたので、何を話そうとかまとまりそうになかった。


 私は大きな声を出して言った。


「今年、創設した部で、みんなで作ったゲームです。他の部の友達も手伝ってくれました。よろしくお願いします」


 そして、すべての通過者のプレゼンが終わった。


 30分後に結果が出るようである。それまで、私たちは控室で待機した。


 私は控室の椅子にぐったりと座っていた。


 周りのみんなも気を使って、あまり話しかけないでいた。


 今までの事を思い返してみると、質疑応答後の客の拍手、宮崎みやざき 二嗣ふたつのほうが大きかった気がする。


 まあ、拍手で決まるわけではないし、気にするほどの事でもないかもしれないけど。


 ……


 ……


 ……



「ワァァァァァ~~」


 なんだなんだ、周りが騒がしい。私はうっかり寝てしまっていたようだ。


「早く! 早く!」


 支子が私の手を引っ張る。そんなに引っ張ったら転んじゃうよ。


 目の前の視界が上手く定まらない中、端のほうに長方形の紙を持った人たちが立っていた。


 そして、立ち止まった。


「大賞、おめでとうございます」


 司会者だと思われる男性が私に紙を渡そうとしている。


 ん? 大賞?


「えっ? 大賞なんですか?」


 私は思わず口に出してしまった。


「はい。そうですよ。あなた達が大賞です。素晴らしいゲームでした。今後の活躍も期待してます」


 私は表彰状と記念の盾を受け取り、一礼をした。


「この賞がいただけたのは、顧問の先生、部員たちや友達、その他の人たちのおかげです。ありがとうございました」


 会場から、大きな拍手の中、カニツインテールこと、宮崎みやざき 二嗣ふたつが少し照れくさそうに私に話しかけてきた。


「負けたよ。しかし、ゲームの大会はたくさんあるんだ。今度は負けないぞ」


 観客にこの声が聞こえたかどうかは分からないが、拍手がもっと大きくなった。拍手は長く続いたように感じられたが、実は思ったより短かったかもしれない。


 そして、後で聞いたことだが、宮崎みやざき 二嗣ふたつは準大賞だったらしい。


 客席で顧問の小海先生が拍手をしているのを横目で見ながら、


 私は表彰状を持ち、支子が盾を持ち、後ろを川野、音谷、望月、隅野が歩き、会場を出ていった。




ありがとうございました。いったん終了です。


たぶん、こんな大会はないと思います。結果だけだとあまり面白くないので、こういう感じにしてみました。


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