第29話 トラブル
マップ作製も終わり、バランスもみんなで調整した。
ゲームのデータは郵送することに決めた。容量の都合上、アップロードでは時間がかかりすぎるからだ。
「じゃあ、郵便局へ出してくるね」
と言うわけで、郵便局へ。
メディアが壊れないように、ちょっとクッションを入れた封筒だが、粗末な扱いをすると壊れる可能性もある。
私は慎重に持っていった。
受付で、封筒の重さを計ってもらい、送料を払った。局員は封筒にハンコを押して、そのまま奥へ持っていった。
一段落ついたところで、心が開放された気分になった。
ゲーム作り以外の事がしたい。そう思って本屋へ寄った。そして、なんとなく小説コーナーへ。
ずらずらと小さな本が並んでいる。なにか興味を引きそうなタイトルが無いかなと、目を横に動かし、それを繰り返し、機械のように探した。
『倫理スコアの低い者は殺される』
なんだか物騒なタイトルの本が目に留まった。
「これにしよう」
私は小さな声を口に出して、それをレジまで持っていった。
家に着き、さっそく読み始めた。
ただ、小説は読み慣れてないので、10ページまでと決めた。少な、しかしどこまで読むかを決めることは重要である。
人工知能によって、人の倫理観に点数を付ける話だね。だが、人工知能は一意ではないはず。人はその点数を認めるのだろうか。
読み続けると、仮想空間の話も出てきた。そういえば、以前スリーディーなんとかと言うゲーム機で、仮想の家のリフォームした空間をグラスを着けて、実際に歩いてみるって記事があったかな。実現したかは知らないけど。
10ページを読み終えたので、とりあえず読書を終了し、お風呂に入って、その後ゴロゴロして、就寝した。
3日後。
今日はゲームコンテストの作品提出の最終日である。
部室では、また別のゲームの企画などをみんなで話していた。今回のゲームはもう提出しちゃったし、今更バグがあっても、手遅れなので、なるべく見ない方針だ。本当は良くないけど。
起動不可チェックとか、通常のプレイのチェックは何度もしたので、バグがあっても、いろいろな条件が重なった場合だけだし、運が悪かったと思うしかない。
話をしていると、音谷がこう言った。
「ちょっと、話を遮りますけど、コンテストのゲームは本当にあちらに届いたのでしょうかね」
そう言えば、ちょっと大きな封筒を使ったので料金は高かったけど、普通郵便で出した気がする。なので、『届きました』とか連絡はもちろん来ない。
「確認したほうが良いですの」
「確認するべきです」
「電話したほうが良いな」
とみんなが言うので、学校の電話を借りて、届いているかどうか聞くことにした。
受話器を持って、緊張しながらボタンを押す。
コンテスト事務局と電話がつながり、届いたかどうかの確認をお願いする。
……
手に汗をかきながら、待っていると。
「えっ?」
本当に届いていないらしい。
「どうしよう……」
事務局からインターネットが使える環境かどうかを聞かれた。そして、ハイと答えると、それを使ってアップロードしてくださいと言われた。ファイルの中身を確認したら、折り返しメールをすると言われた。もし届いてなくても、期間を1日延長してくれると言われて、ちょっとだけホッとした。
この学校でもインターネットは繋がっているが、試験的なもので、全生徒が使えるわけでもない。パソコン部は一応使えるが。ただ、回線はあまり速くない。家でのネットよりは速いけど。
だから、そこそこ容量のあるファイルはアップロードに結構時間がかかる。なので、郵送にしたのだけど、それが裏目に出てしまった。
今、提出するのなら、ギリギリまでゲームの調整をしておけばよかった……などと、ちょっと後悔をしつつ、ファイルのアップロードを開始した。
「時間がかかりすぎですの」
「大きなファイルだと、長いですね」
「長いです」
「本当に送れているのか」
とみんなで不安がっていたが、アップロード完了の画面も出てきたし、大丈夫だろう。
事務局の電話での問い合わせ時刻も過ぎているし、1時間ぐらい待ってメールが来なかったら、明日また聞こう。
川野と音谷が茶道の準備をし始めた。
今はただ待っているだけの時間なので、私含め、その他の部員も強制参加であろう。
……
準備ができたようで、みんなでお茶を飲む。
「どうぞ」
「お先に」
緊張しながら、お茶を飲んだけど、時間が経つのを忘れることが出来てちょうどよかった。もちろんお菓子も食べた。
パソコンの画面を覗いてみると、メールが来ていた。確認すると、ちゃんとファイルも届いていたみたいだ。ゲームの起動チェックまでしてくれたようで、良かった。
とりあえずは、一次選考が通るかどうかだ。




